ヒツ鉈

このまえ「ヒツ鉈」というものを研ぐ動画をアップした。



これは、使い勝手を試してみたくてヤフオクで自分で購入したものだ。

ヒツ鉈の「ヒツ」というのは、柄と刃体を接続する穴の部分のことである。「櫃」だろう。
丸ヒツと角ヒツがあって、地域によって違うらしい。作り方にも違いがあるようだ。

あとで調べてみると、これはヒツ鉈というより「柄鎌(エガマ)」と呼ぶ方がふさわしいような気がする。

ヒツ鉈は刃体の部分がもっと鉈らしい形をしている。
先端に突起のついたトビ鉈と比べてみると、

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この柄鎌は刃線が大きく内反りしていることがわかるだろう。
真ん中のものも少し内反りになっているが、柄鎌ほど顕著ではない。ちなみにこれは越前鉈である。
右端がオーソドックスなトビ鉈で、刃線はストレート。けっこう研いだので元の形がどうだったのか自信が無いが。
ちなみにトビ鉈には刃線が出っ張ったものも見かける。実に研ぎにくそうだ。

内ぞり気味の鉈はあるが、柄鎌ほどあからさまには反っていない。
柄鎌の刃鉄は、突起の下の部分にまで伸びている。偶然そうなったはずは無く、あきらかにそこまでハガネ伸ばして刃物として使用するために伸ばしている。
この点において、越前鉈のように刃線が内ぞり気味の鉈の先端に突起がついたものとは構造的に異質だと言えるのである。

もっとも、柄鎌とヒツ鉈という言葉は、必ずしも厳密に区別されているわけではない。
地域ごとに呼び名が違う場合が多いようで、この手の形の鉈を全て「ヒツナタ」と呼ぶ地域や「エガマ」と呼ぶ地域があったりするのだ。
もっというと、少なくとも昭和初期あたりまでは「ヒツナタ」型と「エガマ」型の両方が同時に使われている地域なんて無かったのではないかと思う。鉈というのは比較的多用途に使える携帯刃物だ。山仕事に柄鎌とヒツ鉈の両方を持って行くとは思えない。
つまりある地域にはヒツ鉈という言葉しかなく、別の地域には柄鎌という言葉しかない、といった事情があったと考えるのだ。

ヒツ鉈と柄鎌という言葉を使い分ける必要があったのは、全国各地に鉈や鎌や斧を販売していた土佐や越前だろう。形を区別して定義しなければ注文が受けられない。

むらの鍛冶屋」という本によれば、土佐の鍛冶屋は明治から昭和初期にかけて日本全国に鉈や斧や鎌や鋸を出荷していたそうだ。ご当地の形でなければ受け入れられなかったようだ。交通が発達していなかった時代で、四国各地は自転車で回って地域ごとの山林業者を回って刃物を勉強し、作った刃物は荷車に乗せて手で引いて足で売って回ったというからすごい。四国以外の地域にも出向いて、地域ごとの刃物を作って出荷していたようである。
ところで、いろいろな形の刃物を作っていたせいなのか、いろいろ調べてみても「土佐型」という形の鉈や斧は見聞きしたことが無い。土佐で作られた刃物は北海道から九州まで全国に出回っているようなのだが、土佐の独自の形の刃物が全国で受け入れられて売られているわけではないのである。

さて話を戻すが、たとえば土佐打刃物協会のホームページで「伊那鉈」と「諏訪鉈」が別の形の鉈として紹介されている。ところが信州打刃物協同組合のホームページでは土佐で「伊那鉈」と紹介されている形が「諏訪鉈」と紹介されていたりする。どちらが正しいのだろうか。
この場合は強いて軍配を上げるならご当地である信州側になるだろうが、土佐における認識が間違いだと言えるわけではない。土佐ではそういうふうに区別していて、土佐においては正しいとも言える。
ヒツ鉈と柄鎌というようなものになると、どちらかに軍配を上げること自体が間違いでは無いかと思う。

しかしヒツ鉈と柄鎌に関しては、上に挙げたような構造的な違いがあるようなので、私としてはヒツ鉈と柄鎌はとりあえず区別して呼ぶことにする。
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鉈の補強

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鉈の目釘が折れてしまった。

数年前に入手して、研いで、そのままほとんど使わずに置いてあった鉈なのだが、春ごろから鉈と斧を実際に使う練習をしてみている。
2~3回使ったら目釘が折れてしまったのだ。

目釘は二か所で、3mmのステンレスボルトを使っていた。
ボルトとナットで留めて、研ぐときに外せるようにしていたのである。
折れた理由は、おそらくガタがあったためだ。衝撃が目釘にダイレクトに伝わったのだろう。

友達に話すと、やはりボルトなんていうものは目釘としては弱いのではないかと言われた。
しかしやはり研ぎ好きとしては分解できる構造は維持したい。
そこでこんどは4mmのボルトを使うことにした。


しかし考えてみると、ふつうの鉈も真鍮やド鉄の釘を目釘に使っている。これらがステンレスボルトより強いとは思えない。ネジ山を切っている分太さを差し引いて考えるにしてもそんなに圧倒的な差だとは思えない。
やはり主な理由はガタつきがあったせいだろう。

逆に目釘が強すぎると中子がダメージを負ってしまう。
たとえばハサミの要ネジでも、ちゃんとしたものは刃体本体よりも柔らかい素材のものが使われていて、酷使されても刃体の穴が広がったりすることはなく要ネジがすり減るようになっている。
日本刀の目釘なんか竹である。煤竹という丈夫なものが使われるそうだが、それにしたって金属より強いわけがない。刀は鉈より数段重たい刃物だ。日々鍛錬を重ねた侍が両手でしっかり握って渾身の力を込めて敵に打ち込むといった使い方をするので、鉈よりも絶対に負荷は大きいにはずだ。そんな戦場で命を託す武器に強度が不十分な材料が使われるわけがない。
刀の目釘が鉄じゃないのは、錆防止の目的も大きいのではないかと思うが、何より竹で実用的に問題無い強度があるということが前提としてあるはず。


ところで目釘の折損もさることながら、柄自体にも目釘穴を中心に亀裂が入ってしまっていた。
他の鉈でもこういう亀裂が入っているものをよく見かける。

鉈の柄は、縦にスリットが刻んであって、そこに鉈の中子を挟み込んで、横から目釘を噛ませて留めるという構造になっている。
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目釘にガタつきが無いように留めても、負荷が2本の目釘に集中してしまうことには変わりがないのである。目釘より木製の柄の方が弱いので、柄にヒビが入ってしまうのであろう。
目釘の二点に応力が集中してしまうのはどう考えても構造的に弱いと思う。

刀でこのような亀裂が入った柄は見たことがない。
おそらくその理由は、刀の柄の場合、一振ごとの刀に合わせて鞘師がピタっと合うように彫っているからだ。そうすると、刀を敵に叩きつけても、目釘の点に負荷が集中するのではなく中子の側面全体で負荷を受け止めることになるのだと考えられる。そうであれば、刀の目釘の役割は主として縦方向のズレを防ぐことである。柄の中で中子がガタつかなければ良いわけだ。ガタつくと負荷がどこかの点に集中してしまう。なるほど、そういうことならば竹でも強度は足りるのかもしれない。


そこで、この鉈も負荷を面で受け止められるように補助プレートを挿入することにした。

腰鉈は振り下ろして叩きつける使い方しかしない。
バトニングで峰を叩くことはあるが、そのときは柄に負荷はかからない。柄を握って峰側でものを叩くと言うことは無い。

すると、柄の中ではこんなふうに負荷がかかっているはずだ。

鉈にかかる力

目釘の部分に黄色い矢印の方向で負荷が集中すると考えられるのである。
そこで、

受け金

中子の下面にあわせて切削した金属プレートをこさえてスリットにピタっと嵌めこんで、何かで固定してやれば、面で負荷を受けることになって耐久性はグっと向上する。目釘に負荷が集中してヒビが入るということはない。はず。


実際に作ったのがコレ。

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今回は鉄で作ったけど、木でもいいと思う。

これをはめて、さらに何かで巻かなければならない。
革が良さそうだが、革細工は下手だしめんどくさいし材料を買ってこなければいけない。どうやって脱着可能にするのかもピンと来ない。

とりあえず手近に2㎜の細引きがあったので、試しにこれで巻いてみた。

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予想以上にいい感じ。
巻いてるだけなのでズレないか心配したが、ビクともしない。
外すのも簡単。

何度か試行錯誤して、現状はこんな感じになっている。

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後ろに手を通す輪っかを作ってみた。
山歩きをするときは引っ掛かると危険だが、いまのところ山歩きをする予定は無いので、しばらくこのまま使ってみたい。
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柄の修理 溶接 洋包丁の柄を削り出しで作成

柄の修理 パターン3 「溶接・和包丁の柄」

状態:柄の中子が再利用不能
状態:元の鞘材が再利用不能

修理方法:中子を溶接する
修理後の柄のタイプ:洋包丁の柄

欠点:コストが一番高い
利点:完成度は一番高い

費用 8000円~ (税別/2018年6月現在/刃物の種類や状態によって変動します/柄の形や色や素材は作業ごとに変わります)

(1)1本め元の状態1
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(2)1本め元の状態2
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(3)1本め元の状態3 中ほどまで破断している
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(4)2本め元の状態1
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(5)2本め元の状態2
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(6)2本め元の状態3
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(7)下の二本。
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(8)メーカーに修理依頼をしたが、断られてしまった、とのこと。
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2本とも、包丁の通常用途であれば溶接せず中子を生かしたまま再生できたかもしれない。
ナイフや鉈のように強い力を加える刃物はこの状態の中子では使えない。
今回はお客様のご依頼で費用が高くなるが万全を期するため腐食部分をカットして新しく中子を溶接し直した。


(9)完成写真1 今回の柄材はシャム柿
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(10)完成写真2
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(11)完成写真3
少しヒップアップした形にしている。研ぎ減って身幅が狭くなっても指がまな板に当たりにくいように。
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(12)完成写真4
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(13)完成写真5
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(14)完成写真6
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(15)完成写真7
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(16)完成写真8
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(17)完成写真9
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(18)完成写真7
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ヨーロッパのどこかの国ではハガネの包丁が禁止だという噂を聞いた。
そんなバカなと思っていたが、こういう作業を何本もやっていると、炭素鋼の刃体に洋包丁タイプの柄をリベットだけで留めている包丁は、私も構造欠陥だと思うようになった。

もともと包丁は錆びるものだった。ステンレスで品質の良いものが出回り始めたのは40~50年前からではないかと思う。
和包丁は柄の奥が錆びたら交換することが前提になっていて、ホームセンターでも交換用の柄が売られていて、ちょっと器用で簡単な道具があれば素人でも交換作業は可能である。

しかし洋包丁の柄は交換するということを想定していない。
交換作業はかなり手間がかかり、素人がちょっとやれるようなものではない。
リベット留めだけだと、かなり密着させていても乾燥で柄材自体が収縮し中子と隙間ができてしまうことがある。そこに水分が入ってしまうと除去することはほぼ不可能だ。中子の奥で腐食が進むと隙間はどんどん大きくなり、更に水分や汚れが進入しやすくなるという悪循環に陥ってしまう。ステンレスであればこれほど錆びることは無いので問題にはならない。

ハガネの包丁に洋包丁タイプの柄をつけるべきではない、というわけではなく、ハガネの包丁に洋包丁タイプの柄をつける場合は、リベット留めではなくエポキシ接着剤などで全面貼り付けすればいいのだと思う。そうすれば中子と柄材の隙間に水が入ることは無いのだから。
その手間で販価が3000円高くなるとしても、そうすべきだと思う。体裁よくするために鍔なんか溶接するよりよっぽど重要だ。

ガンガン使い倒すプロの料理人さんは5年もすれば買い替える人が多いだろうから、あまりクレームは無いのかもしれないが、一般家庭で10年以上使うのは普通である。そして中子の腐食の問題は10年ぐらい経って顕在化する場合が多い。
包丁屋としてはそろそろ買い替えてくれと思うのかもしれないが、刃体はぜんぜん問題無く生きているのだ。それでも気に入って使いたいと思っているお客さんの気持ちには応えるべきじゃないか。

ちなみに今回は築地正本だが、築地正本だけでなくほかの有名包丁屋でも修理を断られて、うちに送られてくるものが多い。
柄の部分に限れば新品の包丁を作るより修理の方がかなり手間がかかる故。
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柄の修理 溶接 和包丁の柄を挿げる

柄の修理 パターン2 「溶接・和包丁の柄」

状態:柄の中子が再利用不能
状態:元の鞘材が再利用不能

修理方法:中子を溶接する
修理後の柄のタイプ:和包丁の柄

欠点:洋包丁タイプの柄が和包丁タイプに変わる
利点:洋包丁タイプより低コスト

費用 6000円 (税別/2018年6月現在/刃物の種類や状態によって変動します)

(1)元の状態1
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(2)元の状態2
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(3)元の状態3
柄が腐食してきた包丁にテープなどを巻いて使っている人がいますが、腐食を抑制する効果はありません。むしろ水分や汚れが溜まりやすくなり逆効果です。
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(4)中子になる金属片を削り出して溶接した状態
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(5)こういう道具で柄を挿げる。
バーナーなどで中子の後端を赤熱するまで焼き、木槌で柄の後ろを叩きながら差し込む。
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(6)完成1
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(7)完成2
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柄の修理 すり上げ

柄の修理 パターン1 「磨り上げ」

状態:柄の中子が再利用不能
状態:元の鞘材が再利用不能

修理方法:刃体下部を切削し、柄に差し込む中子を作る
修理後の柄のタイプ:和包丁の柄

欠点:刃渡りが短くなる
利点:溶接より低コスト

費用 4000円 (税別/2018年6月現在/刃物の種類や状態によって変動します)


(1)元の状態
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(2)このような形でカットする
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(3)カットする
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(4)カット後の状態
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(5)柄を挿げて研ぐ。完成。
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変わったダマスカス包丁。変わった剪定鋏。

積層鋼、いわゆるダマスカスの包丁は、側面の模様を傷つけると新品の時と同じような状態に戻すことが困難で、ムラになってしまう。
そのため昔はキライだった。
しかし、

・側面も研がないと切れ味は良くならない
・美観のために切れ味を妥協するのは本末転倒
・研ぐたびに時間やコストをかけて磨き倒すのは非現実的

といったことから、いちおうお客さんにはムラになりますよとお断りした上で、気にせずガンガン砥石を当てるようになった。
いまは少なくともキライではない。

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きれいに磨けるようになったというわけでは無いのだが、気にせずに研ぐようにしてみると、わりと好きでさえある。

積層鋼自体は何度も書いているかもしれないが、硬い刃鉄を両側から挟み込む軟鉄で、切れ味には直接関係無い。しかしダマスカス模様の様子で、刃体の厚みの具合がわかったりする。
積層鋼じゃなくても割り込み包丁なら刃境線である程度わかるが、積層鋼だと峰側に至るまで全体的な立体構造が把握できたりするのである。ブレード全体の厚みを調整するときにはけっこう便利なのである。

それから、包丁がどのようにつくられたのかという素性も推測できる。
こちらの記事にも書いたが、
http://hamonotogiya.blog75.fc2.com/blog-entry-372.html

たとえば関の孫六の旬はアメリカで大人気になって売れてるらしいが、模様がのたれ刃のようにゆったり曲がっていてあまりしっかり鍛造されていないことが見て取れる。
材料の積層鋼はバームクーヘンのように単に層状になっているだけなのでこれをハンマーで叩いたりして歪ませることによって模様が表れるのだが、この記事の旬のようにあまりしっかり叩いていないものはウネウネが少ないばかりでなく両側面を平行に研ぐとそもそも模様自体が刃先の斜面部分にしか出ないということになりかねない。
そこで、しっかり叩かなくても側面全体に模様を見せるために旬が選択した手段は、刃体を分厚くして刃先にかけて側面全体の傾斜を大きくするという方法だ。日本のふつうの三徳包丁や牛刀は八寸24cmぐらいのものでも鋼材の厚みは2.5mmが主流だが、旬は3mmとかなり分厚いのである。
分厚いと頑丈ではあるが「抜け」が悪く切れ味も鈍重になりがちだ。
だから、ヒーコラ言って厚みを削いでやらないと、私的に許せる切れ味にはならないのである。厚みを削いでやればふつうの包丁なみの切れ味になる。

しっかり鍛造した方が鉄の組織が緻密になって靭性(じんせい/=粘さ)が向上するらしいが、鍛造品と非鍛造品を研ぎ比べて顕著な違いを感じることは無いので、包丁という刃物にとっては実用の上であまり差は出ないんじゃないかと思う。

で、昨日ちょっと面白い包丁が。

龍泉の包丁なのだが、積層鋼で非鍛造、普通の厚み、という包丁。

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こんな感じになってしまう。
以前にも研がせてもらったことのある包丁なのだが、たぶんそのときは積層鋼ということに気づいていなかったと思う。

こうなると、何の目的でわざわざ地鉄に積層鋼を使っているのかよくわからない。
新品のときはもっと模様が目立っていたのだろうか。
そうだとしても、ナンダカナーという印象が拭えない。





別件。
昨日はもうひとつ変な刃物を研いだ。
写真は無いのだが、剪定鋏だ。

なんと、要ネジが逆ネジになっていたのだ。

逆ネジになっているのは、たとえば自転車の、足で踏むペダルの根元部分の「クランクロッド」と「クランクアーム」の左側の接続部分だ。これが、ふつうと同じ方向にネジが切ってあると、ペダルを漕ぐたびにネジが緩む方向に力が働いてしまうのである。
だから、ネジを切る方向が逆になっていて、ふつうのネジだと緩む方向に回すとネジが締まるようになっている。右側はふつうのネジの方向でいい。
両頭グラインダーも同じ理屈で片方は逆ネジになっている。

剪定鋏の要ネジが逆ネジになっているものは初めて見た。
剪定鋏は刃体自体に雌ネジの山が切られていて、ボルトで締めて固定するのだが、そもそもガッチリと締め込むものではない。少し緩めに締めないとハサミが開閉できないのである。開閉に支障が無くガタが無いほど良い塩梅に締めて、反対側に飛び出したボルトの頭を受けのナットでしっかり締め込んで固定するという仕組みになっているのだ。
だから剪定鋏に限っては使っているうちにネジが緩んでしまったようなものを見たことが無い。もちろん逆ネジなんかじゃないふつうのネジ山のものでだ。
ほかの多くのハサミは本体に雌ネジの山が切られていないので、ナットを強く締め込むことができず(強く締めるとハサミのかみ合わせがきつくなってしまう。)、緩んでしまう場合がある。おそらく逆ネジにしても緩むものは緩むだろう。緩み防止のためにボルトがテーパー状になっているものもあるが、修理のために開け閉めを繰り返すと緩みやすくなってしまう。新しいネジの入手が難しいので、そういうものは弱強度のネジ止め剤で固定を計っている。

それでこの剪定鋏、お預かりした段階でなぜ研ぎに出したのかわからないぐらいキレイで、ネジも錆やヤニで固着している様子もなかったのに、TB1801を吹いて万力で固定してネジ山が切れそうになるほど力を入れてもウンともスンとも言わないので、もしかすると自分の頭がボケて締める方向を間違えてるんじゃないだろうかと疑って逆向きにちょっと力を入れてみたら、あっさり緩んでくれたという次第であった。
壊さなくて本当に良かった。

剪定鋏のネジが外れなくて困っている人がいたら、いちど、逆ネジになっていないか試してみてください。
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【オススメ!】 庄三郎のキッチンバサミ

庄三郎のキッチン鋏を買った。

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これまで使っていた貝印のキッチン鋏が壊れたのだ。

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分解洗浄できるところが気に入っていた。
二回は研いだと思う。まだまだ使えると思っていたのだが、予想外の壊れ方をした。

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プラスチックには寿命があるので、こんな構造になっている時点で5年~10年ぐらいで消耗する前提の商品だと言っていい。

それにしても自家用で新品の刃物類を買ったのは何年ぶりだろう。

候補としてヘンケルスのツインクラシックと、同じ形の増太郎さんのキッチンバサミを検討していたのだが、どちらもドライバーを使わないと分解できないのが難点だった。用途や使用環境から汚れがたまりやすいものなので分解洗浄できるという点は譲りたくなかった。

同じ形で分解できる構造になっていて値段も圧倒的に安いのが、下村工業のヴェルダンのキッチンバサミ。
これにしようかと思っていたのだが、どこかのレビューで「折れた」と書いてあったので迷っていたら、庄三郎が同型で分解できるものを販売しているのを見つけたのだ。




ちゃんと分解できる。

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反対側はプラスねじになっていてスプリングワッシャが噛ましてあった。
スプリングワッシャは庄三郎の拘りだろうか。

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汚れや水が溜まって錆びたりカビが生える原因になりやすいので、できれば部品は少なく形状と構造はなるべく単純な方がいいのだが。
まあ、完全分解できるわけだから面倒だけど洗えはするし、締め付けの調整ができるのは研いで調整するには必要だ。長く使うなら必要要件になるのだろうか。
ともかく暫く使ってみようと思う。

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裏スキと反りの具合は素晴らしい。
1000円台、2000円台の量産品には望むべくもない。壊れた貝印のハサミもほぼフラットだった。それでもキッチン鋏の用途としては支障無かったのだが。
鋏屋庄三郎としてはこれが当たり前なのだろう。いや、ヘンケルスクラシックも同じようにちゃんと鋏のフォルムだった。増太郎もそうだと思う。
しかしこの庄三郎のキッチン鋏、価格は3000円台なのだ。ヘンケルスや増太郎の半額ぐらい。

良い買い物をした予感。
5年ぐらい使って結論を出したい。

ところでアマゾンのキッチン鋏のレビューを読んでいるとどの商品に関してもネガティブ評価は「錆びる」ということばかり。
いつもこのブログを読んでくれている方には釈迦に説法だが、刃物用のステンレス鋼は、錆びる。包丁でもハサミでも錆びる。
スプーンやフォークなどに使われているステンレス鋼より、刃物用の硬いステンレス鋼の方が、錆びやすい。
おなじように扱おうとすることがそもそもの間違いなのだ。
知らなかった人は常識として覚えておいてほしい。
酸性の洗浄剤に漬け置き洗いなどぜっていにしてはならない。食器洗浄機も、高温多湿という非常にサビが進行しやすい環境で洗浄するご法度だ。
ハサミや包丁といった刃物類はステンレス製でも洗い桶の水の中につけっぱなしにしたりせず、水分をよく拭き取って片付けなければいけない。
特にハサミというのはどうしても二枚の刃体の隙間に水分が残りやすい道具なので、そういう意味でも、長く使うことを考えると簡単に分解できる構造は重要だと思うのである。
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竹割鉈

ヤフオクで手頃そうな竹割鉈があったので落札した。
鉈は2本持っているのだが細かい細工には重くて大きいのだ。

落札した竹割鉈の商品紹介画像。
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(以上、ヤフオクの商品写真を拝借。)


うーんこれは、アレじゃないかなあ?
と思ってはいたが、届いてみると、やっぱりアレだった。


残欠。

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柄に差し込んだままずーっと使っていたようで、中子の腐食が激しい。
刀身の朽ち込みもかなりひどく、軽くざっと錆を落とすぐらいではどうにもならなかったので、あらと君でゴリゴリ削ってなんとかシノギが立つぐらいに整形してみたが。

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これ以上削るのはマズいかもしれない。
というか、そもそも形が変。
刀に詳しい方なら一見して気づくと思うが、ハマチが無いのだ。
魚ではない。刃区と書くハマチだ。
棟区(ムネマチ)はちゃんとあるのでその反対側におなじぐらいの幅の刃区が無いとおかしいのである。
どうも、刃区が無くなるまで研ぎに研ぎまくったらしい。
刀というのは包丁と違って割込みとか合わせという構造ではなく、真ん中に柔軟性のある芯棒が入っていて外側を硬いハガネでくるむという構造になっている。
指で撫ぜた感じでは、どうも先端から3分ぐらいのところから刃元にかけて、ハガネが無くなってしまって柔らかい芯鉄が出てきてしまっている気配だった。違うかもしれないが、確認のためには砥石を当ててみなければならない。刃元はこれ以上減らしたくない。
刃物としてはもう再利用不可能で寿命の可能性があると思った方がいいのだろう。

もう一本の方はちゃんと使えるし。それ一本で総額3000円ぐらいと考えると割高だが、変わったオブジェがついてきたということで良しとしようw

観光の外人さんなんかは喜びそうなのでオブジェとして活用できないかと思っているのだが、こんなのでもやっぱり「刃物」扱いになって銃刀法とか軽犯罪法の携帯規制の対象になるのだろうか?ぜんぜん切れないけど。切れなくても「少許の加工」で切れるように刃付けができると刃物扱いになる、という理屈は知っているが、物理的にハガネ切れしてそうだしなあ。
「少許の加工」ってどれぐらいよ?とか、切れるってどの程度?とか。
刃物関係の法規は判断基準がアバウトで困ります。

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ベルジアンブルー

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この牛はスーパーサイヤモードとか突然変異の奇形とかではなくベルジアンブルーというれっきとした品種だそうだ。
欧米では和牛のようなサシの入った柔らかい肉より旨味のある筋肉が好まれるそうで、肉をたくさんとるために品種改良していった結果こうなったらしい。私もA4とかA5とかいった柔らかい和牛より噛み応えのある米国牛のリブロースの方が好きだ。あまり高価な和牛は食べたことがないけど。

さて、ベルギー産の砥石を見に行って来た。

半月前に(^^;

ベルギーの天然砥石は大きく二種類あった。

ひとつは薄い卵色。
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もうひとつはブドウ色。
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卵色のほうが肌理が細かく、業者さんのパンフレットによると粒度は8000番~10000番相当で、ブドウ色の方は3000番相当ということだった。

ブドウ色の方の名前が、ベルジアンブルーといって、上の牛と同じ名前なのである。

パッケージに牛の写真を使えばインパクト大でいいんじゃないかと思ったのだが、

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こんなパッケージ。おしゃれ。さすがヨーロッパ。


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(頂いたパンフレットの写真より引用)

こんなふうに山肌に砥石の層が露出していて、黄色い方がファインな方の砥石で採掘量が少ないらしい。BBWの方がたくさん採れるようだ。どういう地質なのかわからないのだが、堆積岩ではなく火成岩のようだ。火山灰が堆積した凝灰岩だったかな?


ベルギー大使館の寛大なお計らいで一室をお借りでき、貴重な体験をさせてもらった。

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訪問前にご参加いただいたみなさんから「蝶ネクタイは必要ですか?」といったドレスコード的質問をいただいていたのだが、そんなこと夢にも思っていなかった私は勝手に「ぜんぜん要りません」と回答していたが、いちおう皆さん襟付きのシャツやジャケットやネクタイ着用できちっとしていらっしゃった。
ちなみに写真に写っていない私はジーンズにTシャツでリュックサックだ(^^;

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右が今回来日されたアルデンヌス・コチクールのトーマスさん。
左のお二人が主に英語を話してくれて大変助かった。真ん中はスペインギターの製作をされている乙竹さん。左は変な(笑)機械をいろいろ作っていらっしゃる細谷さん。私の英語は手紙のやり取りぐらい翻訳サイトを頼ってなんとかできるがリスニングとスピーキングはオールモストノットアットオールだ。

さて、肝心の砥石である。
砥粒になんとガーネットの粒子が含まれているのだそうだ。カッコイイ。日本の天然砥石は石英が砥粒になっているものが多いと聞く。ガーネットと石英はモース硬度は同程度のようだ。

研いだ感じであるが、BBWの方が砥泥が多く出る。包丁みたいな軽い刃物を曇らせるにはこっちの方がいいかもしれない。

黄色い方はコチクールというのが名前になるのだろうか。
トーマスさんに「コチクール」の意味を伺うと、「砥石」だということだった。グーグル翻訳では何語かもわからず日本語に訳してくれない。
Weblioで調べると『Wiktionary英語版での「Coticule」の意味』として「A Belgian variety of whetstone, containing spessartine.」つまりベルギーのガーネットを含んだ様々な砥石、という結果を表示してくれた。
つまり、粒子が大きめの砥石の方にBBWという特別な名前が付けられていて、稀少で細かい方は単に砥石と言われている、といったところなのだろうか。
訪問する前にネットの写真で見た感じでは伊予砥に似ているなと思っていた。しかし以前さざれ銘砥さんで購入したいくつかの伊予砥の小割れのどれよりも細かく、素晴らしい仕上砥石だった。研ぎ出しが早く刃物の方がよく削れるので黒の強い砥泥が出る。しかしカチカチの硬い天然砥石という風ではなく、砥石当たりは滑らかで、スジも引かない。
ホームページの説明にもあるように、剃刀の仕上げに良さそうだった。

小さいのをひとつ購入させて頂いた。
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で。

記事を書くのが大幅に遅くなったのは、この砥石でいろいろ試してみたかったからなのだが。
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ステンレス系でも何の問題も無くよく下りる。
地鉄が柔らかめのハガネの刃物が、砥石当たりがいい感じだった。
ただ、すごく曇るわけではなくピカピカに光るというわけでもない。

なにか素晴らしい結果を出して披露してみたかったのだが、できなかった。
しかしよく考えてみると、そもそも私自身が天然砥石に大して詳しいわけでも無いし使いこなせているわけでもないので、技術的に問題がある可能性が高い。
天然砥石をよく使う人で試してみたい方がいらっしゃったら、お貸しするので、使用感をお知らせして頂きたい。

個人的には、良質な人造仕上砥石と同じように、天然砥石に特有の問題が無く、使える砥石。という感想だ。


先の北欧某国の特命全権大使さんがまた来てくれたので使ってみた。こんな感じ。
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ベルギーの天然砥石屋さん 【経過】

前回ブログの件で何人かの方からご連絡をいただきました。
ありがとうございます。

先方のトーマスさんがお忙しいようで、まだ予定が決まっていません。
今週中にはスケジュールのオファーリングが頂けそうです。
今しばらくお待ちください。

経過報告まで。
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