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鋏正宗の裁ち鋏 B-A

裁ち鋏研ぎのビフォーアフター。

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実際の感じは、下の刃体の錆はそれほど赤く見えなかった。
バエ狙いでコントラストと彩度を調整したのでひどく見えている。

いずれにしても、表面はどれほど錆びていても見栄え以外は大した問題ではないのだ。
問題なのは裏である。

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裏は表ほど錆がひどくない。
上下の刃体とも、下側の側辺が刃線である。
問題は刃線にかかる錆の深さだ。
刃線の部分の錆が、一箇所でも深いと、布切り鋏の場合はそこだけ糸が切れなくなってしまう。
すると布の繊維の一本だけが切れずにつながたままという事態になる。
理美容鋏でも髪の毛が一本半分だけ切れて残ってしまうといった事態になる。
紙は、一本一本の繊維が弱く、糊で緩やかに固められているだけなので、繊維が2~3本切れ残っても気づかないうちに千切れてしまうので、刃線にちょっとぐらい傷があっても支障は無いのだ。
布切り鋏や理美容鋏の修理がシビアなのはそういう理由である。

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裏錆がきれいになるかどうかは、研いでみないとわからない。
幸い、このハサミはきれいになった。
布を切る関係の仕事で実際に使われていたようなので、見かけはともかく切れ味はそうひどく無かったのだろう。
鋏で錆が深いものはたいがい、錆びたからどうしていいかわからず長いあいだ放置していた、という類のものだ。

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けっこう良いハサミじゃない、と思いながら赤錆を落としてみたら、鋏正宗だった。

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鋏正宗は兵庫県小野市にある吉岡刃物さんの銘である。
鋏正宗は植木関係の鋏をよく研ぐことがあるが、裁ち鋏はおそらく初めてだ。関東は今でも東鋏系が多く、播州の鋏は美鈴の製品ぐらいしか見かけない。
いずれにしても、しっかりした高品質の鋏を作っていらっしゃる会社だ。

どこで買ったんですか? と、お客さんに尋ねてみたが、先輩から頂いたものだということで、よくわからなかった。

裏の錆だけは気を付けてください。

錆が落としづらければ、錆び落としだけでも対応するので早めに持ってきてください。
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刃物研ぎ教室のご案内 2018年9月16日(日)

9月16日の講習会は無事終了しました。
ご参加の皆様、ありがとうございました。



包丁研ぎ講習会のご案内 
研いでもらうより自分で研ごう!
技術は身につければ一生の宝もの!!
 


場所 青山熊野神社
日時 2018年 9月16日(日) 13時~16時ごろ 【雨天中止】

定員 4名

講師 研ぎやTOGITOGI 代表研ぎ師 坂田浩志

費用 6,000円

持ち物
講義/筆記用具
実習/ エプロン

実習で使用する包丁や砥石などは、主催者側でご用意します。
ご自分の包丁を持ってきて頂いてもかまいませんが、使用しない場合もあります。


概要
今回は、家庭用の「両刃包丁」が対象です。
包丁を研いだことがない初心者でも参加していただける内容にします。
ただし、理屈っぽいです。
「サルでもできる!すぐできる!」という内容ではなく、「正しい方法」をご教示します。
プロの方などで、どうも研ぎ方がうまくいかないという方にも、お役に立てる内容だと思います。


アクセス
東京都渋谷区神宮前2丁目2−22
最寄り駅 東京メトロ銀座線「外苑前駅」 徒歩5分


<注意事項>
・雨天中止です(屋外開催のため)。
・蚊が多いと思います。
・車の駐車スペースは敷地内にはありません。

<禁止事項>
・飲酒・酒気帯び状態での参加は禁止します。
・当日体調のすぐれない方の参加も、ご遠慮いただく場合があります。
・このほか、危険防止や円滑な会の進行のための主催者による指示に従わない方は、主催者の判断で退出を命じる場合があります。

<免責事項>(いずれも主催者に重大な過失があった場合を除きます。)
・刃物によるケガや器物の損壊について、主催者は責任を負いません。第三者との関係で負傷や器物の損壊が生じた場合、当事者同士で解決していただきます。
・主催者の責によらない事由によって講習会に参加できなかった場合、または主催者の判断で参加者が退出を命じられた場合、既にお支払いいただいている金銭は返金いたしません。
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そば包丁の研ぎ台

研ぎ桶を変えたので、それに合わせたサイズでそば包丁用の台を作った。


① 材料はこんな感じ
(1)ソバ包丁より少し広めの杉板
(2)下駄の歯用の細木
(3)薄いベニヤ板

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②杉板を適当な大きさに切る
尺二まで対応できるよう今回は37センチ。

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③研ぎ桶にあわせて下駄の歯になる横木を取りつける。
接着剤+ステンレス釘を使用。
横木は細いので釘より少し細いドリルで下穴を開けておこう。直接釘を打って割れてしまった。

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こんな感じで桶に取り付けられればOK。
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④ ベニヤをこんな感じにカットして、

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台に取り付ける。
やはり釘と接着剤使用。
釘は頭が出っ張ってると刃物に傷がつくので釘締めで叩き込んだ。ラバーとかを張り付けても良いと思う。

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⑤ こんな感じ。

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峰側をミニクランプで固定する。
砥石を手にもって切刃を滑らせて、切刃の厚みをしっかり抜いてあげると、切れ味が良くなる。

刃先がベニヤから少し出て、ベースの台より引っ込んでる、という状態で研ぎたいわけ。
ベースの台より刃先が出た状態で研ぐとスプラッターな状態になる(何度もなった)。


動画はこんな感じ。


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硬度の違いによる損耗状態の特徴

薄く研いだ両刃包丁がこんなふうになるという典型例。

上は濃州兼守という刻印の全鋼量産三徳包丁。
下は實光の割込み包丁。
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兼守の拡大

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鋼材が柔らかいのでぐにゃぐにゃ塑性変形している。


實光の割込み包丁。

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曲がらずに欠けている。

なお、この状態での使用感をお聞きしたところ、大根やニンジンは十分切れるのだが、トマトが切れなくなった、とのことであった。

薄く研がなければこういった欠けやヨレは生じにくい。
欠けやヨレが生じないままで刃先が押しつぶされる乃至すり潰され、分厚く鈍角になっていき、欠けてはいないけどこの包丁より切れ味は悪いくなる。

トマトの切れ味を回復させるためなら、欠けが無くなるまで研ぎ減らす必要は無い。
包丁はハサミやカミソリやカンナとは違うので欠けがあっても支障無く切れる。
しかし商売上の体裁の問題により欠けたまま返すのは憚られるので、欠けが無くなるまで研ぐ。
すると包丁の寿命はけっこう短くなる。
これは薄く研ぐことの重大な問題点だ。しかし解決策は思いつかない。

ちなみに自分の包丁は研ぎ減らすのがもったいないので欠けたまま使っているものもある。

「欠けを残したままでも切れますよ、無くなるまで研ぐと寿命短くなりますよ」

と、お客さんにもお話しすることがあるが、「残したままで」と言ったお客さんは片手で数えるほどしかいない。

「もっと鈍角にすれば切れ味は落ちるけど欠けないようになりますよ」

ともお話しすることがあるが、いまのところほぼ全員に「(欠けても)前の研ぎ方でいい」と言われている。
不服がある人はもう来てくれていないのかもしれないが。
しかしそもそも刃を薄く研ぐようになってきたのはその方がお客さんのレスポンスなりリピート率が良いためである。


なお、この包丁は昨年の暮れに研いだということなので8ヶ月ぶりぐらいの研ぎ。
欠けの原因は「桃の種かなあ?」とおっしゃっていた。
乱暴に使わなければこんなふうにはならない(私の包丁が欠けたのは落としたため)。
寿命が短くなるといっても2~3年で半分の大きさになるわけではない。一般家庭なら10年ぐらいは持つだろう。
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可愛い包丁ケース

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お客さんの包丁ケース。

以前紹介した記事を参考にして頂いたのではないかと思うが、

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藤原照康と築地正本の印象がずいぶん可愛くなった(笑)

私も過去記事のとき作ったケースをまだ使っている。
特にハガネの刃物のケースは全開きになる方がいい。うっかり中が濡れてしまってもしっかり乾かせる。刀の白鞘は続飯(ごはん粒を練って作ったのり)で貼り合わせてあって簡単に分解できるようになっているそうだ。
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「玉鋼」という言葉の由来

たたら製鉄によってできる鉄の塊(鉧/けら)中で、刃物の材料に適した炭素量が多い良質な鋼を「玉鋼」と呼ぶ。主に日本刀の材料として使われる鉄だ。

玉鋼という言葉の来歴について 「技法と作品 刀工編」 という本に具体的な記述があった。
ネットで検索してもこれを記録したものが見当たらなかったので、紹介しておく。

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 長谷川熊彦博士によれば、玉鋼の名称は明治末年から大正にかかる頃の命名であるという。すなわち島根県安来製鋼が陸軍工厰及び海軍工廠に坩堝製鋼の原料として納入した鋼で、小型のものが玉鋼、大きめの物が頃鋼であった。名付けたのは同社の工藤治人氏、小塚寿吉氏らで、いずれも商品名であり科学的な意味は無かった。
 古く日本刀の材料の産地で最も有名なのは石州出羽と播州千種で、それぞれ出羽鋼、千種鋼と呼ばれた。また、出羽鋼はできた鉧を水中で冷却することから水鋼、千種鋼は自然に冷却したために火鋼とも言う。
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ついでに、同書に「包丁鉄」についても記述があったので紹介しておく。

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包丁鉄
銑に含まれる炭素量の低減を図り、鍛錬して鉄滓を除去した錬鉄を言う。市場には包丁の形に似た400~800グラムの延べ鉄として出されたため、包丁鉄の商品名で呼ばれた。
 左下場、本場とも現代の鍛錬場を大規模にしたものと考えてよく、火床も炉底も吹子もすべて大型を使用する。ここでは大がかりな銑卸しと鍛錬が行われるので、銑は炭素量1.5%以下の純良な鋼となる。
 包丁鉄は柔らかく処理が容易で、一般の鉄器や農具、建築金物などに広く用いられた。日本刀をはじめとする鋭利な刃物類には適さず、芯鉄や棟鉄の素材止まりであった。しかし今日では、これに若干吸炭させて皮鉄、刃鉄の一部として組み合わせることもある。
**********


なお、wikipediaの「玉鋼」の項目では次のように紹介されている。

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そのような中で海軍は明治15年(1882年)、東京築地の海軍兵器局内に建設された製鋼所における坩堝鋼の製造に際し、試験的にたたら製の錬鉄と鋼を使用したが、その約1キログラム (kg) 程度の小塊に砕かれた鋼が「玉鋼」の名称で呼ばれた

(中略)

なお、「玉鋼」の語源については諸説あり、坩堝製鋼された物が大砲の弾(玉)の製造に使用されたため、という説[10][25]が存在する一方、人間の拳大に割られた鋼を「玉」と呼称していたことから派生した、という説[26]もある。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8E%89%E9%8B%BC#%E6%98%8E%E6%B2%BB%E4%B8%AD%E6%9C%9F%E3%81%8B%E3%82%89%E5%A4%A7%E6%AD%A3%E6%9C%9F
**********

wikiの記述にも出典の記載があるが、「技法と作品 刀工編」の方が具体的で信憑性が高いように思われる。


以下はとりとめない余談。

玉鋼は現在、主に日本刀の材料として使われている。身近な刃物に使われていることはほとんど無い。刀匠が作刀に使うためのものが日刀保たたらで毎年造られているが、一般向けには販売もされていない。刀匠が購入する金額も一般の刃物に使われる白紙や青紙といった高級刃物鋼の何十倍と大変高価である。そのせいか、なにやら神秘的な存在になってしまっていて、これを使うとすごい切れ味の刃物ができるというような迷信じみた噂がつきまとっている。越後三条の剃刀鍛冶で国際市場においてドイツ製カミソリに対抗する製品を作るため東京帝大で刀剣の秘伝書の研究と金属学の研究を行った実践の碩学岩崎航介は、玉鋼で優れた刃物ができると述べている。しかし大正時代から戦後にかけて活躍された方で、まだ鉄鋼材料の品質が拙劣だった時代の話で、長足の進歩を遂げた現代鋼の中に並べても同氏がそのように評価するかは疑問だ。現代の識者の中には幻想的なイメージがつきまとう玉鋼という言葉を嫌う人もいる。

たたら製鉄は現代の高炉を用いた製鉄法と比べて製造コストが非常に高価だ。燃料を多量に消費し、作業効率が悪いのである。主な理由のひとつは、たたら製鉄は一回の操業ごとに炉を壊して出来た鉄を取り出すためである。

たたら製鉄は直接製鉄法という、鉄を固体の状態で製造する製鉄法である。現代の高炉を用いた製鉄法は間接製鉄法といって、鉄を溶けた状態で製造する。
直接製鉄法は固形の鉄を作るので、できた鉄を取り出すために炉を壊さなければならない。このため次の操業のために新しく炉を作り直し、炉の温度を常温から鉄が溶ける1500度以上まで加熱しなければならず、作業効率も燃料効率も悪いのである。これに対して間接製鉄法では溶けた状態の鉄を作るので、炉を操業し続けながら完成した(精錬された/還元された)鉄を下部から流し出して取り出す連続操業ができ、製鉄コストが格段に安く済むのだ。ただし、溶けるほど高温になった鉄は炭素を多く吸収して、硬くてもろい銑鉄(せんてつ)になってしまうので、そのままでは鉄素材としてまったく使い物にならない。卸鉄法、錬鉄法、転炉などで脱炭する必要があるのだ。

日本刀の作刀でいまだに非効率なたたらで作られた高価な和鋼が使われているのは、美術品として鑑賞に堪える美しい鉄肌を作るためである。現代鋼は品質は優れているのだが伝統的な日本刀に見られるような妙味のある鉄肌を作ることはできないのだそうだ。そして現代の日本刀は日本刀剣の伝統的価値観にもとづく美術的価値が認められるものでなければ美術刀剣類として登録してもらえず所持できないことになっているので、法律の問題でたたらによる和鋼を使わざるを得ないとも言える。しかしこれは切れ味などの性能とは必ずしも関係が無い。
銃刀法は敗戦時にGHQが命じた武装解除の一環として作られた法律で、現代の社会情勢に照らすと不合理な面が多々ある。日本刀は現代の進化した製鋼技術を用いて武器としての性能を高めることが認められていない。しかし反面、伝統的な製法が法律によって強いられているおかげでたたら製鉄や伝統的な鍛刀法が伝承され続けているとも言える。
戦時中につくられていた軍刀は伝統的な製法によらないため美術刀剣類として登録が認められず蔵の奥から発見しても廃棄しなければならないものがあるが、この時代の軍刀は横にして上から錘を落とすといった耐久試験が行われていたので武器としての実用性では優れているとも言われる。現代の日本では日本刀の実用的な機能試験が組織的に行われることなど考えられない。

玉鋼という名前はさておくとして、研ぎ好きな者としては、折り返し鍛錬された鉄や錬鉄を研いだときに現れる不均質な鉄肌はとても面白く好ましい。鉄の作られた痕跡やその材料で製品を作った痕跡が刻まれているのである。
均質で折り返し鍛錬の必要が無い現代鋼を切削加工した刃物は研いでものっぺりとしていて無機質的だ。
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本焼き

ちょっとした事情でお盆前の週に兵庫県伊丹市の実家に帰省してきた。
平日に関西に来たのは久しぶりで、せっかくなので地元ではあるがちょっと観光してみることにした。

実は刃物の町堺を廻ったことが無かったので行ってみた。
阪堺電車という路面電車が走っていて、その沿線近傍に有名な刃物店が軒並み点在しているようだった。駅でいうと3~4駅ぐらいの範囲なのだが、駅と駅の間隔がバスの停留所ぐらいしかないので歩いて回ることができる。
平日の昼間であったがこの日は炎暑で、路面電車の走る広い通りには人の姿がほとんど無く、バグダッドカフェのワンシーンのようであった。
お店はどこも入口を閉め切っており人の気配が無い。買い物の予定は無いので中に入るのは気が引ける。おずおずと引き戸を開けて入るがやはり客はいない。
冷やかしなら酷暑なのでまだいいかもしれないが、どちらかというと暑苦しかったであろう野次馬の客に、何件か覗かせていただいたどのお店も嫌な顔ひとつせず気さくに対応してくれた。

水野鍛錬所さんではツナギを着た職人さんが話し相手をしてくださった。
さりげなく本焼き六寸の和牛刀がショーケースに入れられていたので、参考までですがと値段を聞いてみたら、税込みで8万円ちょっととのこと。OMG!

本焼き包丁について世間で言われている噂には実は迷信じみたものが多いのではなかろうかと私は疑っている。たとえば本焼きと合わせ包丁では本焼きの方が硬いという噂があるが本当なのか。尋ねてみたところ、同じ鋼材でも本焼きの方が硬いだろうとのお考えであった。
包丁の本焼きは刀と違ってかなり研ぎ減って小さくなっても使えなくてはならない。刀剣は身幅が三分の一も研ぎ減ってしまうとハガネの有る無しとは関係無く物体としての強度が著しく劣り武器として役に立たないから、大きく研ぎ減るという想定は必要無い。だから刃線際のわずかな幅にしか焼きが入っていない細直刃という刃文もある。しかし包丁は半分ぐらいまで研ぎ減っても使えてほしい。せめて三分の一ぐらいは。すると土置きして焼きが入らず柔らかいままにする部分の面積は控えめにならざるを得ない。柔らかい部分を残すのは刃物全体が硬いと破損しやすいためだから、硬い部分の面積が広い本焼き包丁は、多少でも壊れにくいよう焼きが入って硬くなる部分の硬さを少し控えめにするのではないだろうか。
そんな想像をしていたのである。私自身は本焼き包丁を持っていないし、検証のために購入するにはだいぶ高価なので、想像していただけである。
しかし作っている鍛冶屋さんにして硬いというのだから、その可能性が高い。
しかし硬いとしてもそれは機能的な優位性と関係ない。
本焼きの優位性として、合わせ包丁における鍛接時のストレスが無いので、鋼材の良さを最大限活かしきることができるといった点があるようだ。なるほど。ふだん合わせ包丁のグネグネ曲がったやつらと悪戦苦闘している身にとってはたいへん素晴らしい利点だ。

しかし研ぎ屋という立場から、本焼き包丁の最大の価値は、研いでいると浮き出てくる刃文の面白さである。ダマスカスはケレン味が強すぎて趣に欠ける。刃境線は創意工夫の余地がない。
本焼きで、表の土置きを多くして裏を少なめにするということはできないのだろうか。もちろん焼き入れすると裏に曲がってしまうだろうが、そこは何とかしていただいて。
それができれば表にはかなり自由な刃文を描くことができると思うのだ。山鳥毛のような刃文を描いた先丸蛸引きなんかができたら(ケレン味たっぷりだが)、50万円以上でも買いたいという人はいっぱいいるに違いないと思うのである。


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柄の修理 洋型 クリーニング&接着し直し

柄の修理 パターン4 「洋型→洋型 元の柄材を再利用」

中子の状態:良好
柄材:洋型/元の柄材を再利用

作業1:柄を外す
作業2:錆・汚れをクリーニングする
作業3:エポキシ接着剤で接着する
作業4:リベットを打ち直す
作業5:研ぎ
作業6:クリーング

特徴:中子の腐食がひどくなく溶接不要で、柄材も再利用できる包丁の、標準的な作業です。

費用 4000円~ (税別/2018年6月現在)


① はじめの状態
中子が錆で膨張して柄が片方取れた。
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この段階では作業内容はまだわからない。
赤錆を落として中子の強度が十分あるか溶接が必要かを判断する。



②錆落としした状態
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これなら溶接は不要。


なお完成後の写真は撮り忘れました。スミマセン。
これがくっついているだけです。

元の状態はリベットをカシメて留めてあるだけだが、修理では接着剤を全面に塗布する。
接合力が強くなるが、その効果より、中子表面が保護されることと水分や空気の侵入を抑止する効果の期待が大きい。
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テーマ : 刃物の修理
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柄の修理

数年前に柄埋めをした包丁が、柄が動くようになってしまったとのことで、再入院。
柄材はそのまま再利用して動かないようにしてほしいというご希望。

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ちなみにこれはリベットを外したあとに撮影した写真。
送られて来た段階ではちゃんとくっついてるのではないかと思われたのだが、少し力を入れると、ちょっと動く。
完全に分離するわけではない。

ステンレス系で、中子が腐食して膨張しているといった様子ではない。
考えられる可能性は、

1.リベットが損耗して細くなっている
2.リベットを通す、中子にあけられた穴が広がっている
3.リベット周辺の柄材(木の部分)が拡張している

の、何れか。

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2の中子の穴が広がっているということは無かった。リベットと中子と柄材のみっつのなかではいちばん硬い素材なので、もとよりこの可能性は低い。

1については、取り外したリベットはドリルで揉んで壊したので損傷具合がはっきりわからなかったのだが、刃体が動くストローク分ほども摩耗している様子ではなかった。

よって、3の柄材自体が広がってしまっている可能性が疑われる。
しかしこの包丁はスリットに刃体を差し込むタイプで柄材が両側に分割できないので、確認することはできなかった。

今回は中子の側面全体にエポキシ接着剤を塗り、ワンサイズ太い軸のリベットを打ち直して修理した。(修理後の写真はありません。見てもどってこと無いです。)



包丁の柄の修理はほとんどが炭素鋼系の柄が錆びてしまったというもの。
しかし今回のものは、構造問題だと思う。中子が短すぎる。

牛刀分解ダイナミクス

中子が短いのでふたつのリベットの間隔がとても狭く、大きな負荷が二点に集中する構造になっている。
今回は接着剤を中子全面に塗布してくっつけたので、面で支持する形になってくれると思うから、問題はかなり改善すると期待している。
中子が短いという抜本的な問題は解決されていないのでカンペキとは言い難いのだが。
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ヒツ鉈

このまえ「ヒツ鉈」というものを研ぐ動画をアップした。



これは、使い勝手を試してみたくてヤフオクで自分で購入したものだ。

ヒツ鉈の「ヒツ」というのは、柄と刃体を接続する穴の部分のことである。「櫃」だろう。
丸ヒツと角ヒツがあって、地域によって違うらしい。作り方にも違いがあるようだ。

あとで調べてみると、これはヒツ鉈というより「柄鎌(エガマ)」と呼ぶ方がふさわしいような気がする。

ヒツ鉈は刃体の部分がもっと鉈らしい形をしている。
先端に突起のついたトビ鉈と比べてみると、

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この柄鎌は刃線が大きく内反りしていることがわかるだろう。
真ん中のものも少し内反りになっているが、柄鎌ほど顕著ではない。ちなみにこれは越前鉈である。
右端がオーソドックスなトビ鉈で、刃線はストレート。けっこう研いだので元の形がどうだったのか自信が無いが。
ちなみにトビ鉈には刃線が出っ張ったものも見かける。実に研ぎにくそうだ。

内ぞり気味の鉈はあるが、柄鎌ほどあからさまには反っていない。
柄鎌の刃鉄は、突起の下の部分にまで伸びている。偶然そうなったはずは無く、あきらかにそこまでハガネ伸ばして刃物として使用するために伸ばしている。
この点において、越前鉈のように刃線が内ぞり気味の鉈の先端に突起がついたものとは構造的に異質だと言えるのである。

もっとも、柄鎌とヒツ鉈という言葉は、必ずしも厳密に区別されているわけではない。
地域ごとに呼び名が違う場合が多いようで、この手の形の鉈を全て「ヒツナタ」と呼ぶ地域や「エガマ」と呼ぶ地域があったりするのだ。
もっというと、少なくとも昭和初期あたりまでは「ヒツナタ」型と「エガマ」型の両方が同時に使われている地域なんて無かったのではないかと思う。鉈というのは比較的多用途に使える携帯刃物だ。山仕事に柄鎌とヒツ鉈の両方を持って行くとは思えない。
つまりある地域にはヒツ鉈という言葉しかなく、別の地域には柄鎌という言葉しかない、といった事情があったと考えるのだ。

ヒツ鉈と柄鎌という言葉を使い分ける必要があったのは、全国各地に鉈や鎌や斧を販売していた土佐や越前だろう。形を区別して定義しなければ注文が受けられない。

むらの鍛冶屋」という本によれば、土佐の鍛冶屋は明治から昭和初期にかけて日本全国に鉈や斧や鎌や鋸を出荷していたそうだ。ご当地の形でなければ受け入れられなかったようだ。交通が発達していなかった時代で、四国各地は自転車で回って地域ごとの山林業者を回って刃物を勉強し、作った刃物は荷車に乗せて手で引いて足で売って回ったというからすごい。四国以外の地域にも出向いて、地域ごとの刃物を作って出荷していたようである。
ところで、いろいろな形の刃物を作っていたせいなのか、いろいろ調べてみても「土佐型」という形の鉈や斧は見聞きしたことが無い。土佐で作られた刃物は北海道から九州まで全国に出回っているようなのだが、土佐の独自の形の刃物が全国で受け入れられて売られているわけではないのである。

さて話を戻すが、たとえば土佐打刃物協会のホームページで「伊那鉈」と「諏訪鉈」が別の形の鉈として紹介されている。ところが信州打刃物協同組合のホームページでは土佐で「伊那鉈」と紹介されている形が「諏訪鉈」と紹介されていたりする。どちらが正しいのだろうか。
この場合は強いて軍配を上げるならご当地である信州側になるだろうが、土佐における認識が間違いだと言えるわけではない。土佐ではそういうふうに区別していて、土佐においては正しいとも言える。
ヒツ鉈と柄鎌というようなものになると、どちらかに軍配を上げること自体が間違いでは無いかと思う。

しかしヒツ鉈と柄鎌に関しては、上に挙げたような構造的な違いがあるようなので、私としてはヒツ鉈と柄鎌はとりあえず区別して呼ぶことにする。
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