「なぜ日本の刃物は良く切れるのか」というフォーラムに参加。

先月のことだが、熊野神社で仕事をしているときによく立ち寄ってくれるおじさんが、「こういう会があるのでどうか」と誘ってくれた。


日本鉄鋼協会 鉄鋼プレゼンス研究調査研究委員会
「鉄の技術と歴史研究フォーラム」第34回フォーラム講演会
「日本の刃物―なぜ日本の刃物は良く切れるのか―」 第4回
切るだけじゃない!切っても切れない・・・砥石・研磨・刃物(日本刀)


私は偏屈な性格なので、科学の最先端では宇宙論とか素粒子とか量子論とかやってる時代にいまさら刃物が良く切れる理由とか天然砥石なんて研究してるひといるの?日本人が自画自賛して喜ぶ自己啓発セミナーみたいな会合じゃないの?などと口には出さないけれども勘ぐってしまうのであるが、ネットなどで調べてみるとしっかりした会合のようで、刀の研ぎ師さんの講演などもあり興味をそそられたので、参加してみることにした。

それが、このあいだの土曜日のことだった。
雨の中、来場者は70名弱あった。このフォーラムではかなり多いという。
いまさら、という私の不遜な勘繰りは杞憂だった。学生のころは教室で寝てばかりいた私であるが、4時間あまりとても興味深くお話を聞くことができた。

誘っていただいたおじさん以外にも知った人が何人かいらっしゃっていた。休憩時間に、私が刃物研ぎを教わった研ぎ陣の先輩卒業生で、天然砥石収集家?の高野さんが声をかけて下さった。砥取屋の土橋さんが、京都からわざわざ来られていた。面識はなかったが本で見知っていた月山義高刃物店の藤原将志さんも三重県から来られていた。
フォーラムのあと懇親会に出席した。
藤原さんの向かいに座らせていただいたので、研ぎ傷を消してきれいにする方法についてお聞きしてみた。人造砥石はいくら高番手の仕上砥石でも研ぎ傷は残るそうだ。下研ぎの処理が重要で、逆に1000番か2000番ぐらいから天然砥石に行っても研ぎ傷を無くすることはできる、と。
思うに、人造砥石は研削力が重視されるので使われている砥粒が硬いからではないだろうか。天然砥石に含まれる成分で砥粒の役割をするのは石英などであるが、人造砥石に使われるどんな砥粒と比べてもかなり柔らかいはずだ。砥粒が柔らかく適度に破砕されながら研磨すれば深い条痕は残りにくい。あるいは、砥粒の硬さが同じであっても結合剤が柔らかければ砥粒が砥石の側にいくらか押し込まれるから、刃物に残る条痕は深くなりにくい。おなじ砥粒と結合材を使った人造砥石でも仕上がりが曇るものとテカテカになるものがあるが、そういうことなのではないかと想像している。耐水ペーパーもペーパー側に弾力があるから結合材の硬い砥石より条痕は目立ちにくいのかもしれない。
また、おなじ砥石でも強く研ぐと条痕は深くなり力を抜くと浅くなる。砥糞を流しながら研ぐと深くなり溜めて研ぐと浅くなる。私はもう少し力を抜き加減にして研いだ方がいいのかもしれない。
示唆に富んだ話を聞かせていただけたのだが、話だけではわからないことが多いので痒いところが一層痒くなってしまった。

隣席した方が、「刀剣界」という新聞の編集委員で刀剣ジャーナリストという肩書の方だった。そこで、持参していた「-技法と作品- 研磨彫刻編 」という本を出してみせた。
この本は私にとって大変重要なものである。刀工編と二冊のセットで昭和56年に発刊されたもので、それほど古いものではないのだが、明治大正期から昭和初期にかけて人間国宝に指定されたような多くの刀匠や研ぎ師、宮入行平、月山貞一、隅谷正峯、天田昭次、小野光敬、平井松葉、永山光幹、藤代松雄、といった故人や、現在最高峰で活躍されているお歴々からの、貴重な録取が収められている。研磨偏については刀剣研磨について最も詳細に書かれた書籍ではないかと思う。発行部数が少なかったようで、古書市場では2万円以上が相場になっている。
その本を見て、
「それ私が出したんだよ。」
とおっしゃった。著者は大野正という別の方なのだが、巻末をめくってみると確かにいただいた名刺と同じ名前が 「発行人 土子民夫」 と書かれていた。いまはもうやめてしまったそうだが、この本を発行した青雲社という出版社を
「私がやっていた」
のだそうだ。
また後半、長くお話しをさせていただいた「越後三条打刃物 伝統工芸士産地委員」というよくわからない肩書の女性は、妙に刃物に詳しい方であったのだが、香月節子さんといって鍛冶屋に関する本を数冊書かれている方だということがあとでわかった。

私はふだん、刃物について深いレベルで話ができる人が身近にいないので人からあたらしいことを教えてもらう機会が少ないのだが、おおいに蒙を啓かれた一日だった。
私が知らないだけで、こういう濃い人達が集まる会合が日本のどこかで折々開催されているのだろうか。或いは、めったに無いから濃い人がたくさん集まったのだろうか。
ともかく楽しい一日だった。
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Re: 天然砥石

こんにちわ!
純度が高い、というのは、どういう意味かわかりますか?
砥粒の配合量が多いという意味でしょうか?


> 月山さんに研ぎの講習を受けた際に教えてもらったのは、ざっくり言えば、
>
> 天然砥石で仕上げたいのであれば1000番はキングハイパーや今だと彼がプロデュースした研承など純度が高い砥石できちんと地ならしすべし。
>
> 人造仕上げでよいのであれば、中砥はぶっちゃけキングデラックスでもなんでもよく、嵐山北山あたりで終わらせればよし。
>
> という感じでした。
>
> 砥糞を使って研ぐというのもそこで教わりました。
>
> ご存知の通り、月山さんは最近研ぎの協会を作り、東京で講習を本格的に開始していくようなので、これまでよりは教えを請いに行くのも楽になるかと思います。

天然砥石

月山さんに研ぎの講習を受けた際に教えてもらったのは、ざっくり言えば、

天然砥石で仕上げたいのであれば1000番はキングハイパーや今だと彼がプロデュースした研承など純度が高い砥石できちんと地ならしすべし。

人造仕上げでよいのであれば、中砥はぶっちゃけキングデラックスでもなんでもよく、嵐山北山あたりで終わらせればよし。

という感じでした。

砥糞を使って研ぐというのもそこで教わりました。

ご存知の通り、月山さんは最近研ぎの協会を作り、東京で講習を本格的に開始していくようなので、これまでよりは教えを請いに行くのも楽になるかと思います。
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