「なぜ日本の刃物は良く切れるのか」というフォーラムに参加。

先月のことだが、熊野神社で仕事をしているときによく立ち寄ってくれるおじさんが、「こういう会があるのでどうか」と誘ってくれた。


日本鉄鋼協会 鉄鋼プレゼンス研究調査研究委員会
「鉄の技術と歴史研究フォーラム」第34回フォーラム講演会
「日本の刃物―なぜ日本の刃物は良く切れるのか―」 第4回
切るだけじゃない!切っても切れない・・・砥石・研磨・刃物(日本刀)


私は偏屈な性格なので、科学の最先端では宇宙論とか素粒子とか量子論とかやってる時代にいまさら刃物が良く切れる理由とか天然砥石なんて研究してるひといるの?日本人が自画自賛して喜ぶ自己啓発セミナーみたいな会合じゃないの?などと口には出さないけれども勘ぐってしまうのであるが、ネットなどで調べてみるとしっかりした会合のようで、刀の研ぎ師さんの講演などもあり興味をそそられたので、参加してみることにした。

それが、このあいだの土曜日のことだった。
雨の中、来場者は70名弱あった。このフォーラムではかなり多いという。
いまさら、という私の不遜な勘繰りは杞憂だった。学生のころは教室で寝てばかりいた私であるが、4時間あまりとても興味深くお話を聞くことができた。

誘っていただいたおじさん以外にも知った人が何人かいらっしゃっていた。休憩時間に、私が刃物研ぎを教わった研ぎ陣の先輩卒業生で、天然砥石収集家?の高野さんが声をかけて下さった。砥取屋の土橋さんが、京都からわざわざ来られていた。面識はなかったが本で見知っていた月山義高刃物店の藤原将志さんも三重県から来られていた。
フォーラムのあと懇親会に出席した。
藤原さんの向かいに座らせていただいたので、研ぎ傷を消してきれいにする方法についてお聞きしてみた。人造砥石はいくら高番手の仕上砥石でも研ぎ傷は残るそうだ。下研ぎの処理が重要で、逆に1000番か2000番ぐらいから天然砥石に行っても研ぎ傷を無くすることはできる、と。
思うに、人造砥石は研削力が重視されるので使われている砥粒が硬いからではないだろうか。天然砥石に含まれる成分で砥粒の役割をするのは石英などであるが、人造砥石に使われるどんな砥粒と比べてもかなり柔らかいはずだ。砥粒が柔らかく適度に破砕されながら研磨すれば深い条痕は残りにくい。あるいは、砥粒の硬さが同じであっても結合剤が柔らかければ砥粒が砥石の側にいくらか押し込まれるから、刃物に残る条痕は深くなりにくい。おなじ砥粒と結合材を使った人造砥石でも仕上がりが曇るものとテカテカになるものがあるが、そういうことなのではないかと想像している。耐水ペーパーもペーパー側に弾力があるから結合材の硬い砥石より条痕は目立ちにくいのかもしれない。
また、おなじ砥石でも強く研ぐと条痕は深くなり力を抜くと浅くなる。砥糞を流しながら研ぐと深くなり溜めて研ぐと浅くなる。私はもう少し力を抜き加減にして研いだ方がいいのかもしれない。
示唆に富んだ話を聞かせていただけたのだが、話だけではわからないことが多いので痒いところが一層痒くなってしまった。

隣席した方が、「刀剣界」という新聞の編集委員で刀剣ジャーナリストという肩書の方だった。そこで、持参していた「-技法と作品- 研磨彫刻編 」という本を出してみせた。
この本は私にとって大変重要なものである。刀工編と二冊のセットで昭和56年に発刊されたもので、それほど古いものではないのだが、明治大正期から昭和初期にかけて人間国宝に指定されたような多くの刀匠や研ぎ師、宮入行平、月山貞一、隅谷正峯、天田昭次、小野光敬、平井松葉、永山光幹、藤代松雄、といった故人や、現在最高峰で活躍されているお歴々からの、貴重な録取が収められている。研磨偏については刀剣研磨について最も詳細に書かれた書籍ではないかと思う。発行部数が少なかったようで、古書市場では2万円以上が相場になっている。
その本を見て、
「それ私が出したんだよ。」
とおっしゃった。著者は大野正という別の方なのだが、巻末をめくってみると確かにいただいた名刺と同じ名前が 「発行人 土子民夫」 と書かれていた。いまはもうやめてしまったそうだが、この本を発行した青雲社という出版社を
「私がやっていた」
のだそうだ。
また後半、長くお話しをさせていただいた「越後三条打刃物 伝統工芸士産地委員」というよくわからない肩書の女性は、妙に刃物に詳しい方であったのだが、香月節子さんといって鍛冶屋に関する本を数冊書かれている方だということがあとでわかった。

私はふだん、刃物について深いレベルで話ができる人が身近にいないので人からあたらしいことを教えてもらう機会が少ないのだが、おおいに蒙を啓かれた一日だった。
私が知らないだけで、こういう濃い人達が集まる会合が日本のどこかで折々開催されているのだろうか。或いは、めったに無いから濃い人がたくさん集まったのだろうか。
ともかく楽しい一日だった。

中華包丁

「中華包丁はいくら(研ぎ代)ですか?」

通りかかったのカップルの男性が、看板をしばらく眺めたあと尋ねてきた。
そういえば看板に中華包丁の値段は書いていない。

「大きさによるんで、、どれぐらいのサイズですか?」

「これぐらい。」

男性が手を広げてみせた。思ったより小さいようだった。

「それぐらいのサイズで、欠けてたりサビサビとかじゃないんだったら、まあ、普通の包丁と同じ値段でいいですよ。」

じゃあこんど持ってきます、ニコっと笑ってそう言った。

それから一週間ほどして、持ってきていただいた。

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中華包丁はごくたまに研ぐぐらいで、使ったことは無く、実はどんなふうに研ぐのがいいのかよくわからない。
包丁なので研いで刃付けすればいいのだが、中華包丁にも厚口と薄口があるということを仄聞している。刃物の自重が重いため強めにまな板に打ち付けることが多いと思われるので、少なくとも普段研いでいる包丁のように刃肉を抜いて浅い刃角度にすると欠けやすいだろう。
どれぐらいが適当なのか加減がわからないのだ。
お客さんに尋ねてみると、料理人さんだと思っていたのだが、そうではなく、普通に家庭で使うのだという。
しかも、これまでずっと使っていたわけではなく長い間使わずにしまわれていたものをさいきん使い始めたところのようだった。
つまり持ち主もどれぐらいが適当なのかわからないのだ。

「そこらへんは適当に、プロなんでおまかせします。」

きたな。ナイフでよくあるやつ。
ピカピカであまり使われた形跡がないけれど、新品のときから刃付けがものすごく甘いナイフを持ってきて、研いでほしいという、よくある依頼。
何に使いますか?と聞くと、魚とか捌きたいし、藪漕ぎをしたり木の枝を薪にするのにも使いたい。という。使いたい、であって、使っている、ではない。
それは、魚を捌くにはイマイチ使いにくく、藪漕ぎや木の枝を切るときはけっこう慎重に扱わなければいけない、中途半端な刃付けにしてほしいという意味であることを、わかって言ってるのだろうか。そうであればいいのだが。と、思いつつ、プロの感覚ってやつで適当に研いでお返しするのだが、イマイチ達成感が無い。

しかし、ナイフと違って実際に使う刃物なので、あとからいろいろ言ってもらえる可能性はある。
元の状態はかなりだるだるだったので、「適当」に刃縁の肉を抜いて(しかしふつうの包丁よりはかなりモッコリした状態で)「適当」な刃角度に研いでみた。
ちなみに元の写真は撮るひまがなかったので上の写真も研いだあとの状態だ。



で、研いでいて気付いたのだが、

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中国製の包丁だった。

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カネ編にカラスってなんだ??(^^;

外国の包丁には良いイメージが無い。
全鋼丸焼き非鍛造で、鋼材が柔らかくねばりが無いので、刃を薄く鋭くすると簡単に曲がったり欠けたりしてしまうもんだから、現地では高価で販売されているであろうお品物でも、分厚くて重くて刃角度が鈍角で斧か鉈みたいなものが多いのだ。刃物産業で有名なドイツ・ゾーリンゲンのウストフとかドイツ製ヘンケルスでさえ私にとってはそんな印象なのである(日本製ヘンケルスは普通)。パンやチーズやハムなどのスライス包丁をはじめ、薄い包丁もあるが、ぐにゃんぐにゃんで、デキの良い日本の包丁のように、薄いけれどもシャンとしていて、かといって硬く割れやすいのではなくバネのようなしなりがある、といったものは、見たことがない。鍛造という製法や複合鋼の技術が無いとそういう刃物にはならないようだ。

ただ、中華包丁は重さがあってその重さが切りやすさに貢献してくれるので、多少分厚くて刃角度が大きくても、手に伝わる感触であるところの切れ味はけっこういいのだろう。

で、この包丁なのだが、なんと割り込み包丁だった。

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たしか、俵国一さんという明治から昭和初期にかけて活躍された冶金学の学者さんの著書に、どこだったか南の島国に割り込みタイプの刃物が見られるという記述があったと思う。それ以外で、硬さの違う金属を接合した古い外国製の刃物に関する情報は見たことがない。
現在は欧米の刃物メーカーも日本の刃物に倣って複合鋼の包丁やナイフを作って販売しているが、私の知る限り、日本の鋼材メーカーから複合鋼の材料を輸入して製造しているか、外国メーカーの日本工場で製造しているか、日本の刃物メーカーが日本で下請け製造しているものばかりである。

しかしこの包丁は日本で割り込み加工された鋼材のような印象を受けない。
65年2月というのは、1965年だろうか?あちらの元号のようなものなのだろうか。

引き取りにきたお客さんに確認してみたところ、台湾の製品ということだった。
30~40年ぐらい昔のものと思う。日本にきたときおばあちゃんが持ってきた。65年は西暦ではなく台湾の年号と思われる。中華人民共和国ではなく中華民国建国からの年号。「士林」はお客さんが子供のころに住んでいた地域の名前。「カネ偏にカラス」の漢字は、お客さんは6歳のときから日本にいるので中国の漢字はまったくわからない、ということだった。
ちなみにお客さんの会話は日本語ネイティブのものなので、このお話を伺うまで台湾のご出身とは気づかなかった。

日本にきてからおばあちゃんが使わずにずっとしまっていたものを、最近自分が使うようになって、研ぎに出してみた、ということであった。
してみると、持って来られた状態から推察するに、錆はなかったのでステンレス系なのだろう。それほど古いものではなさそうだ。
台湾は日本に占領されていた時代が長かったので、いまでも80歳ぐらいのお年寄りは日本語が話せるそうだ。その時代に日本から割り込み刃物の製造の技術が伝わって、現地でも作られているということなのだろうか。しかし朝鮮半島や満州も占領していたし、東南アジアやミクロネシアやポリネシアも占領していたわけだが、そういった地域で割り込み包丁の話は聞いたことがない。まあ台湾の割り込み包丁も初めて見たのだから私が知らないだけという可能性も高そうであるのだが。
台湾の包丁というと中国が金門島に撃ち込んだ大量の砲弾で作った金門包丁というものを思い出す。しかし、うちの庭にもなぜか砲弾が転がっているのだが(笑)、おそらく鋳鉄なのでこのまま整形してもロクな刃物はできないと思う。たぶん溶解して脱炭とかしないとダメじゃないのかな。なので、金門包丁もたいした包丁ではないだろうと高を括っているのだが。


さて、この記事を書きながら調べたところ、
「カネ偏にカラス」の文字は、ウーという発音で、タングステンという意味だった。タングステンが配合されたステンレス系の合金鋼なのだろう。
65年は、中華民国の民国紀元というものの65年のようだ。西暦1912年が元年ということなので、1976年製ということか。41年前だから、お客さんの話とも符合する。その時代であればステンレスの鋼材はまともなものが開発されていただろう。
ただ中国本土は人民服に人民帽で自転車に乗った人民が大量に町にあふれていたころ。数百万人が殺戮されたともいわれる悪名高き文化大革命の真っただ中。韓国は漢江の奇跡で道路や鉄道などのインフラ整備が進められて最貧国から抜け出しつつある途上の時代だ。
台湾はよくわからないが、やはりそんなに発展していなかったのではないかと思う。いやしかし、朝鮮半島のように戦禍に見舞われなかったし中国のように共産党の失政で荒廃してもいなかったから、案外、平和裏に順調に発展しつつあったのかもしれない。
シャープを買収したホンハイグループの創設も1974年ということなのでこの時期のようだ。台湾企業といえば私は電子機器より自転車製造で世界一のジャイアントというメーカーの印象の方が強いのだが、そのジャイアントも1972年創設ということである。自転車産業はもともと金属パイプをつなげて作る金属加工業だから、金属加工産業の素地はその当時からあったのだろう。

ともあれ、台湾の割り込み包丁の歴史についてはまったく分からないままである。

なにかご存知の方や、金門包丁を持ってるよという方がいらっしゃったら、情報ください。

テーマ : 包丁研ぎ
ジャンル : 趣味・実用

新品包丁

中板橋商店街で、いつも通りかかりに挨拶をする、背の低い江戸っ子口調のおじいちゃん。

「先が四角い包丁は、売ってないのかい?」

と、聞いてきた。

「ああ、菜切包丁ですか。だけど、ざんねんながら先が尖ったやつしか持ってないですねぇ。」

「四角いやつがいいんだよ。あっちの方が野菜が切りやすいんだ。」

「そうですよねぇ、ぼくも家では四角いの使ってます。だけどいま売り物には持って無いです。探しましょうか?」

菜切包丁はどちらかというと不人気なのだが、使い慣れると野菜を刻むのには勝手がいい。
私が使っているのは菜切ではなく片刃の薄刃包丁で、切るものによって三徳包丁と使い分けているのだが、野菜を刻むことが多いので使う頻度は三徳より薄刃包丁の方が多い。

「こないださ、1万円ぐらいの買ったんだけどよ、すぐ切れなくなっちゃって。ダメだな。もっと高くていいやつ無いのかい?」

「エ~。でもそりゃ研がないと。10万円の買ったって使えば切れなくなるし、3000円のと比べて10倍も長持ちするわけじゃないですよ。」

「まあそうなんだろうけどよ、もちっといいヤツ無いのかい?」

実売価格1万円ぐらいで「すぐ切れなくなる」という不満だと、たぶんそう大きく改善できるものはないと思う。


「錆びにくいステンレスの方がいいですよね?」

「いいや、ハガネの方が切れ味いいだろ。ステンは切れなくてダメだ。」

「ハガネですか・・・それで高くていいやつ・・・」

ハガネの菜切包丁で、高いヤツ。
しかし手打ちでハガネの菜切包丁だと、1万円ぐらいが相場なんだけどなあ。
薄刃なら3万円でも5万円でもあるだろうけれど、菜切包丁ってか。

「まあちょっと、探してみますよ。」

というと、

「よろしくなっ!」

と片手をあげて、自転車をこいでひょうひょうと去っていった。

2~3万円もする菜切包丁か。

そういえば、アレはいくらぐらいするもんなんだろう。
お店にネットショップが無く値段がわからないので、電話で問い合わせてみた。
すると、ちょうどいい感じの値段だったので、送ってもらうことに即決した。



これが、その、アレ。

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うーん、イイなあ。


有次は築地にもあるが、これは築地の有次ではなく京都有次の菜切包丁。
築地有次と京都有次は別会社で、築地の方にこれは売ってない。

以前にブログで紹介したものである。
http://hamonotogiya.blog75.fc2.com/blog-entry-239.html
http://hamonotogiya.blog75.fc2.com/blog-entry-335.html


菜切包丁の中で私がいちばん好きなのが、コレ。
峰厚が4㎜もある(笑)
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じいちゃん、ちょっと重いかもしれないけど、もう仕入れちゃったから。
私に頼んだのが運の尽きだと思って、あきらめて。


電話で聞いたところによると、京都有次には「特製」と「上作」という二種類の菜切包丁があるそうだ。「特製」は黒打ちで薄い、一般的な菜切包丁。そして「上作」がコレ。
「特性」がいま品切れで、たまたまほんの最近この「上作」が入荷したところなのだという。
人気で売れてモノが無いのかと思ったら、「“ふつううの包丁”を優先的に作ってるんで・・・」というような発言があったので、菜切包丁はやはり今となっては事実上“ふつうの包丁”ではないのだろう。
そして、入荷した分がなくなるとまた半年とか1年待ちになりそうだ、とのことであった。

もしかすると沖芝さんが打ったものだろうか、と思って聞いてみたが、菜切包丁は昔から沖芝さんの製品ではないそうだ。そして沖芝さんの包丁はもう在庫限りだそうである。
まあ、時間がかかっても菜切包丁の再入荷はあるということなのだから、いいことではある。


ところで、写真で見てもわかるはずは無いのだが、新品なのでぜんぜん刃はついていない。

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予想以上にぜんぜんついていない。
ふだん扱っている洋包丁なら、モノによって程度に違いはあるにせよ刃付けされた状態で出荷されているので、それに慣れていたのだが、
「新品だから当然刃付けなんかしてませんが、なにか?」
とでも言うような状態だ。

まあ、新品の和包丁は販売店が刃付けするものなんだろう。

それはいいのだが、ショットブラストがナンギなのである。
大きめの角度をつけて先っちょだけ刃をつければいいのだろうけど、この包丁は、できるだけビシっと切れ味を出した状態でお渡ししたい。

慎重に砥石に当ててみたが、やはりちょっとショットブラストが剥げてしまった。

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地艶もどきで曇らせてみたが、ムラは目立つなあ。
気にしないでいてくれるとは思うんだけど。

テーマ : 刃物
ジャンル : 趣味・実用

この前のお客さんが。

こないだの、「すんごいホローグラインドでウスウスの刃にされた菜切」を持ってきたお客さん。

交代で使っていたという、もう一本を持ってきた。

こんなかんじ。

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ホローグラインドというのは、ナイフでよくみられる刃の形。
二段刃とホローグラインド

上が、ホローグラインド。下がふつうの二段刃。
斜面の側面がくぼんでいる。
これによって、側面が被切断物と接触するときの抵抗が小さくなり、”抜け”がよくなると期待できる。

ただ、こういう加工をしたほうがいいのは、タクティカルナイフみたいな分厚い刃物だけだとおもう。
カミソリも、両側面がくぼんだホローグラインドになっている。しかし、ヒゲを剃るのに「被切断物と接触するときの抵抗」は関係ない。研ぎやすいための工夫としてホローグラインドになっているのだと考えられる。
片刃の和包丁も、裏面をわざとくぼませているが、やはり、主には研ぎやすいための工夫だろうと考えられる。

包丁はもともと薄いので、あまり意味は無いのではなかろうか、と思うが、リブ加工のように張り付き低減の効果はあるかもしれない。
そもそも、手打ちの菜切包丁なんて、ハンマーで叩いた痕跡がそのまま残っていて、砥石に当てて正確に確認してみると、デコボコしているものがほとんどである。
だから、多少側面がくぼんでいてもべつにかまわないとおもう。

この包丁が問題なのは、

ウスウス

こんなことになっちゃっているという点だ。
刃がもう少し柔らかい鋼材だったら、研ぎ終わった時点でグニャグニャ曲がっちゃうかもしれない。
この包丁に使われているのは粉末冶金鋼で、けっこう硬いとおもうので、グニャグニャはしないんだろうけど、使うと、簡単に、写真のごとく欠けてしまう。

あと、もうすこし気に入らない点をいうと、先を減らしすぎ。刃元も不必要に下がっていて、おなかがポコっと出ている。
東型の菜切はもともとそんな形だが、コズミック團十郎はもともと西型で、アゴはシャンと出ている。大した問題ではないかもしれないが、売ってるお店が形を変えてしまうのは如何なものかと思うのだ。
でもやっぱり、いちばん気に入らないのはホローグラインドだなあ。100均の包丁みたい。

なお、お客さんにお聞きしたところ、いつも必ずこういうふうになるわけではないらしい。
店頭に研ぎ職人が来て研いでいるときは、2~3日で研ぎ直しが完了し、もっと普通な状態で渡してもらえるという。
そうでないときには1か月ぐらいもかかるうえに、こんな仕上がりになってしまうそうだ。


個人的には、
蛤刃3

こんな感じがいいんじゃないかなあと思っている。家庭用の両刃包丁は。
デフォルメで極端になっているが、側面はゆるやかな曲面である程度上の方まで肉を削いであげる。
刃先までキンキンにすると刃がメゲるので、刃先ギリギリのところは、画像ほどじゃないけどちょっと角度をつけて、いわゆる糸刃をつけてあげる。糸刃の幅は、硬い鋼材で繊細な作業をする包丁なら、無しかごく小さいものでよく、全鋼の洋包丁のような柔らかめの包丁は、中仕上の2000番ぐらいからはじめて、すこし大き目にする。
というような、イメージ。

BEFORE・AFTER

お言葉に甘えて、好きなように研いでみた。

ビフォー
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アフター
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ビフォー
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アフター
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とにかく刃角度がすごく大きかった。
ウスウスにしたので、切れ味は鋭くなったが、カミソリとしてはだいぶ物足りない。
刃持ちはどうかなあ。。

機械研ぎ

この包丁の、

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こういうところ。

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回転研ぎ器の丸い研ぎ面に押し付けて研いだ痕。凹んでいる。
この面をもう少し研ぎ減らすと、刃線が凹んでしまうだろう。

これも。

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刀だと拭いとか刃艶で目立たなくするのかなあ?

ちゃんと研ぐほど粗が目立つ。

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機械研ぎ自体はべつに悪くないと思うが、ヘタな機械研ぎは刃物を壊す。手研ぎでヘタだと、切れ味がよくならないけれど壊すほど削ってしまうことは少ない。どちらにしてもヘタはダメだが。

「いい包丁は、変な研ぎ屋に出さないほうがいいですよ。」

とお客さんに言うと、

「田舎の九州で、作っているところで買ったんだけど、いつも、帰省したときにその店で研いでもらっていた」

だって。
マジで?
少なくとも、作っているメーカーではない、のではないか、と、思うのだが。

そういえば、別のお客さんだが、木屋の包丁を電車に乗って池袋の東武百貨店まで持って行って研ぎに出して、1か月たって戻ってきたら、

「こんなふうになってた」

と、すんごいホローグラインドでウスウスの刃にされた菜切を持ってきたお客さんがいた。

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これは研いだあとの写真なんだけど、修正しきれない。もとの状態はぜんぜんダメダメだった。回転砥石に押し付けて刃肉を落としすぎ、刃道は先の方が曲がりすぎ、表ばっかり削っていて裏のハガネがあまり出ていない。
コズミック團十郎だぞ?
高い包丁なんだぞ?
知ってるか?

「いつもはこんなふうじゃないけれど、今回はなぜかおかしかった。」

とのこと。
忙しいのかなあ?
日本橋の店に行くと、いつも丁寧に手研ぎしているのを見るんだけど。

「もうあそこには持って行きません。」

と言ってましたよ。

アリエナイねじのハサミの続き

前の記事の続き。

前に研いだ研ぎ屋は、ネジを無くしたのではないかもしれないが、なんだか、変わった研ぎ痕だった。

これはハサミの裏。
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拡大。
裏押ししてある。
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先の方も。
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刃体がこすれてできた痕ではなく、間違いなく砥石を当てた痕だ。けっこう荒い。

ハサミの裏押しは、必要なのかどうか、よくわからない。
理美容鋏では、裏押しする習慣のようなので、私もやっている。刃の角度が、ハサミの中ではかなり浅いので、裏押ししがないと不安でもあるからだ。
しかし、裁ち鋏で裏押しをしているものは、見たことが無い。新品でも中古でも。

ちなみに余談だが、剪定鋏は裏から両刃の刃物のように角度をつける、「裏刃」というものをつける。これをやると刃と刃に隙間ができるので、薄くて柔らかいものが切れなくなるが、頑丈になる。枝切りに特化した剪定鋏ならではだ。
刈込鋏や芽切り鋏でも裏刃をつけると説明しているメーカーがあるが、加減を間違えると、葉っぱでも全く切れなくなってしまうので注意が必要だ。と、いうことを、一般ユーザーも対象としたホームページに書くのなら、説明しておかないと危険だと思うのだが、そのへんのことメーカーはどう考えているんだろう。裏刃をつけすぎたハサミは修理不可能になる場合がある。

で、この裏押ししている裁ち鋏を研いだ研ぎ屋は、もしかすると理美容鋏研ぎの業者だろうか?
とも考えたのだが、理美容鋏の専門業者があんなにネジのパーツを無くすなんてことはあり得ない。
それから、裏押しがこんなに粗いとも思えない。

そして小刃はこんな感じ。

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研ぎ傷がかなり粗いが、裁ち鋏は新品でもわりとこんな感じだ。
それよりも、段々になってるのがわかると思うが、元の刃の角度よりかなり大きな角度で研いでいるのがわかると思う。
まあ、角度が大きかろうが、切れれば良いんだけど。

理美容鋏の専門業者だったら、こんな角度で絶対に研がない。
研ぎ傷もこんなに粗くない。最近は鏡面で蛤刃のものが多いから、こんな研ぎ方で理美容鋏の研ぎは絶対にできない。

研ぎ直した状態。

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ちなみに、この写真でも小刃に線が入ってるのが見えると思うけど、

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これは、段になってるんじゃなくて、軟鉄と刃鉄を貼り合わせている境目の、刃境線。
合わせ鋼のハサミはこういう線が小刃に出る。

テーマ : ハサミ
ジャンル : 趣味・実用

藤原照康さんとこの幻の名刀

藤原照康さんとこの包丁。

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青山熊野神社ではなんだか持ってくるお客さんがけっこう多い。
もちろん木屋とかグローバルなんかの方がずっと多いんだけど、そういうメジャーレーベルより流通量がずっと少ないインディーズみたいな包丁で、形も特徴的なので、印象に残るのである。
いろいろ気に掛かることがあるメーカーだけど、包丁自体はいいと思う。

青一だか白一をステンレスで割り込んだ三枚鋼が使われている。自家鍛接なのか鋼材メーカーから仕入れた利器材かはわからないけれどそれはたぶん品質に大した影響は無い。どちらであろうとしっかり鍛造されている。
それをかなり薄い角度で刃付けしているので、切れ味はすごく良さそうだが、欠けが目立つものが多い。

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それでもこれを持ってきたお客さんはスンゴい切れ味に仕立ててほしいというような要望だったので、かなりのウスウスキレキレな状態に研いだ。普通の包丁以上に慎重に扱ってほしいと思う次第。

せっかく頂いた天然砥石があるので、最近はハガネ系の包丁には使ってみるようにしている。
人造砥石の削り具合が歯でガリガリ齧っる感じだとしたら、天然砥石は舌でベロベロ舐め取るような感じ。人造砥石がデジタルで天然砥石はアナログ。人造砥石の方が効率よくサクサク研げるものがあって品質も安定しているけど研ぎ目がくっきり残りやすい、天然砥石は微妙な風合いに仕上げられるものが多い。

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直角に入った研磨痕は機械研ぎの痕。
円砥だと思うけど。値段相応にもうちょっときれいに仕上げてあげたらもっとお客さん喜ぶんじゃないだろうか。

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そういえば最近、木屋に研ぎに出したといってお客さんが持ってきた菜切包丁にも機械研ぎでえらく品の悪い研ぎ痕がつけられていたのがあった。ホローグラインドみたいに刃肉が削がれていて、やはりウスウスなのでこれ↑より派手に刃が欠けていた。
しかも木屋の菜切包丁の中ではたぶん最上グレードの団十郎で。
「良い包丁はあんまり安い研ぎ屋さんに出さない方がいいですよ」
と言ったら、
「東武百貨店の木屋に持ってって1か月もして帰ってきたらこうなってた」
と。
自分とこの包丁に愛着は無いのか?と不思議に思う。
ゴリゴリ削ってドンドン新しいのを買ってもらう営業方針になったのかな?



なぜ曲がる?

藤次郎の尺の和包丁。
黒い点は錆ではない。ペイントマーカーでつけた印。

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裏。

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一体型で洋柄のTojiro-Proはもっとベタっとしていた。
こちらはちゃんと裏スキらしい裏スキがある。


お客さんによると表の黒い点の部分だけが減ってまっすぐならないというのだ。もしかすると硬さが違うのかもしれない、と。

昭和初期より前ぐらいの包丁には、場所によって硬さが違うものがある。近代製鋼がはじまる明治時代より前の刃物は、場所によって硬さが違う方が普通のようだ。
明治から昭和にかけて日本の近代冶金学の権威であった俵国一博士が、日本刀を何本も折るという贅沢な検査で内部構造や硬度を調べているが、一本の刀について必ず何箇所も検査しているのは、部分的に硬度が違うことが前提だからだろう。
うちにも一本そういう古い包丁がある。同じ力加減で研ぐと刃線が曲がってしまうのである。
私のお師匠様は刀の研ぎ師だが(私は刀の研ぎ方は教わっていない。)、刀剣では古いものを研ぐことがしょっちゅうあるからであろう、そういう硬度の違う刃物でもことも無くまっすぐに研ぎあげてみせる。

鉄の硬さは主に鉄に含まれる炭素量によって決まるのだが、古い刃物は、場所によって炭素などの元素の分布にばらつきがあるのだ。
日本刀は材料の鉄を叩き伸ばしては折り畳むという作業を何十回も繰り返して鍛錬するのだが、「鍛えて練る」と書くように、練って混ぜて含有成分の分布を均質化するという目的が本来の鍛錬にはあった。
今は原料鉄の品質が良く含有元素の分布ももともと均質な状態で鉄鋼メーカーから出荷されるので、わざわざ練るというような作業はしない。いわゆるダマスカスは折り返して鍛錬しているが、あれは積層模様を見せること自体が目的なので機能的な意味はあまり無い。
実際に物を切るための刃先に出る刃鉄は、両刃であれば中心に割り込まれていて、折り返し鍛錬なんかしない。
そして刃鉄部分が場所によって硬さが異なる刃物というのはまず無い。ここ半世紀ぐらいの間に作られたものであれば。

するとこの包丁が曲がる理由はいったい何なのか。

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答えは裏が凹んでいたためだ。
裏押しができているように見えるので平らなのかと思ってしまうが、光にかざすと凹みがはっきりする。

この裏を、

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裏押しの幅がこれぐらいになるまで、これは結局荒砥から当てることになったが、ひたすらゴシゴシ研ぎこんでいくと、


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ようやく切刃を普通に研げば普通にまっすぐな刃がつく包丁になるのであった。

吉光 玉鋼の包丁

なんということもないおばさんが、変わった包丁を持ってくることがよくある。

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九州長崎の鍛冶屋吉光さんの、玉鋼の包丁。

「九州の旅行で、刀と同じような作り方の包丁で何本かまとめて作って、残ってるのがあるから買ってくれと言われたのよ。」

とのこと。

「刀と同じ」的な包丁の宣伝文句はふだんの私の耳にはそよ風のように通り過ぎてゆくだけなのだが、刻印に「玉」の一文字が。

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そういえば九州の方で、自家製炉でたたら吹きで玉鋼を作ったという鍛冶屋さんがあったけ、と思い出した。
http://www.yosimitsu.com/tataraseitetsu.html

玉鋼というのは、砂鉄を原料にして、たたら吹きという原始的な製鉄方法で製鉄した鉄の中で、刃物を作るために特に品質の良い部分を選り分けた部分である。たたらで作った鉄がみんな玉鋼というわけではない。
手間やコストがすごくかかるので普通の刃物鋼の何十倍だか何百倍の値段になる。
鉄にとって悪性不純物であるリンや硫黄などがあまり含まれていない良い鉄だと言われている。

しかし現代の鉄より何十倍も何百倍もよく切れる包丁が作れるわけではない。
現代の鉄で作った包丁の方がモノがいい可能性もある。

日本刀は現代刀でも必ず玉鋼で作られるのだが、これは、法律で決められているからだ。
ほかの鉄で作った刀はいくらきれいでも性能が良くても登録証を発行してもらえず、ふつうの人は日本では所持できない。
また現代の鉄とちがって玉鋼は内部の成分にムラがあるため、何度も折り返し鍛錬して炭素の分布や量などをそろえてやる必要があるのだが、そのせいで、層状の鉄の肌の景色が現れる。
これは刃文と違って現代の鋼を本焼きにした包丁には現れない。
いわゆるダマスカス鋼の模様が似ているといえば似ているが、ほとんどのダマスカスが層状の模様を見せること自体を目的にして創作されているのとは違って必要的にできた文様である。

さて。

もしかするとこの包丁も日本刀と同じように本焼きなのかなと研いでみたところ、

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割り込みのようだった。
割り込みだけど、外側の軟鉄もたたらでできた軟鉄を折り返し鍛錬したものを使っているのだと思う。

この模様をきれいに目立たせるという刀の研ぎ師の技がどうにもマネできず、上の写真は画像処理でコントラストをアップして見せているのだが、実際の見た目はこんなかんじ。

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鉄の肌を見せる研ぎはむずかしい。時間がかかる。

使い勝手はお客さんによると、

「使いにくい」

そうだ(^^;;

ペティナイフのようなサイズなのに分厚いのである。
私も磨いて飾る類の道具だと思った。
なんでしたらムチャクチャ使いやすいペティナイフと交換しましょうか、と提案したが、残念ながら却下された。


同じひとがいっしょに持ってきた五郎包丁。こちらは東北の包丁。五郎丸選手とはたぶん関係ない。

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砥の粉か何かで柄埋めがしてあって好感。

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研ぐとすごく良い刃がつくのだが何か違和感が。
刃境線が無いのだ。
調べてみたところ、どうも全鋼のようである。
梨地を磨きあげるわけにもいかず、刃文があるかどうかはわからなかった。
どういうふうに焼き入れしているのかは謎である。
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