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金門包丁の硬さを調べる。(弾殻のつづき)

「金門包丁」という包丁がある。
台湾で作られている、砲弾を材料にした包丁だ。

台湾はもともとの中華民国である。秦の始皇帝みたいな皇帝が支配していた伝統的な中国の最後の王朝であった清朝を辛亥革命で倒してできた共和国だ。
日本で大正時代がはじまった年のことであるが、すでにアヘン戦争や清仏戦争や日清戦争で領土を蝕まれたり不平等条約を結ばされたりして清が弱体化していた中での国体変更で、強固な基盤を持つ国家では無かった。
現在の中国共産党は、中華民国が成立した数年後に結党された、中華民国政府に反対する共産主義団体である。
そして第二次世界大戦の終結後に、戦争中は抗日戦争をともに戦っていた中国共産党と戦争になり、負けて、台湾に逃れたのである。それが台湾という国だ。

そしていまから約60年前、大陸の中国共産党が台湾侵攻を目指して台湾海峡にある金門島に数十万発もの砲弾を撃ち込むという事件が起きた。
このときの砲弾が「金門包丁」の材料なのだそうだ。

砲弾て、包丁になるのか?

はじめこの話を知ったときにそう思った。

鉄と言ってもいろんな種類の鉄がある。

ものすごく大まかには「純鉄」「鋼」「鋳鉄」のみっつに分類されている。
これは硬さによる分類だ。
硬さは鉄の中に含まれる炭素の量におおむね相関し、炭素の含有量で、約0.02%以下のものが純鉄、0.02%~2.14%のものが鋼、2.14%以上のものが鋳鉄と区別されている。
身の回りにあるほとんどの鉄は「鋼」である。
マンホールの蓋や南部鉄器や船の錨などが鋳鉄だ。
純鉄の製品というのが何かあるのか知らない。
鋳鉄が一番硬いのだが、包丁をはじめとする刃物の材料は鋳鉄ではない。
鋳鉄は硬すぎて加工が難しく、さらに、脆いという特徴がある。刃物は多少曲がったりするが、鋳鉄は曲がる前に欠けたり折れたりしてしまうのだ。石とかガラスに近いような性質なのである。

包丁の材料に使われるのは、鋼であるが、鋼にもいろんな硬さのものがあり、その中でもいちばん硬い部類のものが刃物に使われる。
スプーンやフォークも鋼だが(ステンレスも鋼の一種)、包丁と同じように薄く研ぐと刃先はかなりふにゃふにゃになってしまう。
車のボディーフレームや建物の鉄筋鉄骨に使われているのも鋼だが、刃物鋼ほど硬くはない。

大砲の弾もけっこう硬いかもしれないが刃物に使えるほどの硬さがあるのだろうか。

刃物に転用できる鉄もある。
発展途上国では車の板バネが刃物鋼に転用されている。鉄鋼用のヤスリを加工してナイフを作ることもできるそうだ。

いわゆる「玉鋼」という名称も、昔から造られていた砂鉄由来の和鉄を軍に納品するときの製品名で、砲弾製造にも使われたというような話を何かで読んだ覚えがあるので、案外使えるのかもしれない。


さて、これが送られて来た金門包丁。

金門包丁

けっこうきれい。


金門包丁 (1)

金門包丁 (2)

SINCE1937  金門名刀
MAESTRO WU 金合利鋼刀
MADE IN KIN MEN 〇〇〇年創〇


けっこうきれいで、爪に引っ掛かる程度には普通に刃がついている。
ためしに野菜を切ってみると、切れるが、抵抗が大きい。
刃線際3ミリの厚みを測ると刃元あたりは0.5mm台後半の部分もあり、少し薄くする余地はあったが、先端近くは0.5mmを少し下回り、著しく分厚いというほどでは無い。刃線際よりも刃体の中ほどがぽってりと分厚い印象だった。

薄く鋭く研げばよく切れるようになるのだが、万が一刃物鋼では無かった場合、最悪ふにゃふにゃになってしまう危険がある。いちど削ってしまうと元には戻せない。

この状態で力を加えて曲げ伸ばししてみても硬さはわからない。
ツボサンの硬度チェックヤスリというものを持っているので、HRCが40台か50台か60台か、という程度の大雑把さであれば推測できるのだが、本格的な硬度試験機を借りられるところがあって、いちど使ってみたかったので、何本かの包丁と一緒に持ち込んでちゃんと調べてみることにした。

ロックウェル硬度試験機もあるのだが、試験痕が大きくなるということだったので、今回はマイクロビッカース硬度試験機というものを使用した。これなら試験痕は数十ミクロン程度にしかならないので目視ではほとんどわからない。


こんな機械。

硬度計 (3)

円形の台になっているところに包丁を挟む。この写真で台の上にきているのはマイクロスコープのレンズ。左の方にあるボールペンの先のようなものが圧子。操作すると回転する。

まず、マイクロスコープでモニターに映った映像を見ながら圧子を押し付ける場所を決める。

硬度計 (2)

操作盤のスイッチを押すと、上の黒いところがくるっと回って圧子が包丁の上にきて、決められた力で決められた秒数、試料に押し付けられる。そしてまたくるっと回って、マイクロスコープがその場所をモニター上に映す。
すると、圧子が押し付けられた圧痕が映し出される。

こんな感じ。

硬度計


硬度計 (1)

黒い枠線を、画面を見ながらコントローラーで操作して、幅を合わせて、打痕の横幅と縦幅を測る。
すると打痕の面積が計算できる。
その大きさで、硬度を決めるのである。


ちなみに「硬い」という概念はちょっとややこしくて、長さや重さのように一律の基準で測ることができない。
そのため硬さの試験方法にはたくさんの種類がある。
そしてこれらのたくさんの種類の基準は、メートルとフィートと尺のように単位が違っても比例相関しているという関係とは限らないのである。つまり、ある基準であればこっちの方が硬いが別の基準だとあっちの方が硬いということがあり得るのだ。

私が知っている範囲では、今回のように圧子を押し付けて圧痕の大きさを測る方法と、試験球を落下させて反発する高さを測る方法と、引っ掻いて傷がつくかどうかを調べる方法がある。

今回のように圧痕を調べる方法が多いのだが、この方法では、展延性があって塑性(そせい)変形する素材にしか使うことができない。
展延性は、曲がったり伸びたりするという性質。
塑性変形は、曲がったり伸びたりして力を抜いても元に戻らない変形。力を抜くともとに戻るのは弾性変形という。
ガラスやセラミックは塑性変形しない。強度の限界を超えると割れてしまうのだ。割れるのは「破壊」といって概念として「変形」とは区別される。
そういう性質のものは、硬さに比例した圧痕が残らないので今回の試験機では硬さを測ることはできない。
モース硬度という引っかき硬さで判定する。ものとものを違いにこすり合わせてどっちに傷がつくかを調べる方法だ。ダイヤモンドが硬いというのもモース硬度である。
ゴムも今回の方法では調べられない。弾性変形するがほとんど塑性変形しないので、やはり圧痕が残らないのだ。ゴムの硬さは、圧子を一定の力で押し付けた状態のままで計測する特別な方法があるらしい。

硬いという概念がどういうことなのか、原子などの粒子レベルのくっつき方で考えると、粒子同士の結合力が強く、且つ、位置関係が動きにくい、という性質だと言える。結合力が弱いと割れたり欠けたりしやすい。柔らかいとか脆いとか言われる性質だ。結合力が強くても位置関係が動きやすいと、ちぎれないけれどぐにゃぐにゃ曲がることになる。これも柔らかいとか柔軟とか、粘いとか言われる性質である。
私たちは動きにくさと結合の強さの総合された性質を「硬さ」と理解しているのだが、その両方のバランス点を計測するような方法は開発されていないらしい。


話を戻そう。

今回は初めてこのような正式な機械を使ってみたわけであるが、幅と高さは人が目視して決めるので誤差が生じ得る。
もっと表面をきれいに研磨していけば誤差は生じにくいだろう。
また、試料(今回は包丁)の固定方法が甘いと、圧子を押し付けたときに力が逃げる可能性がある。その場合、圧力がしっかり加えられず圧痕は小さくなるので、硬い方に偏った結果が出るだろう。
また、圧子を押し付ける試験面はなるべく水平であるべきだ。斜めになっている場合やはり圧力が逃げてしまう可能性と、圧痕の面積が正確に測れない可能性がある。

機械は立派でもオペレーターによってけっこう誤差が生じる可能性がある。そして今回のオペレーターは素人だ。だから正確な数値とはいえないことを、はじめに言い訳しておく。

そのうえで、出た結果である。


複合鋼ではない全鋼の刃物は以下のとおり。


金門包丁 HRC36.9 HRC27.8 HRC18 HRC32.3

正本牛刀(炭素鋼・全鋼・鋼種詳細不明) HRC over(※) HRC67.9 HRC65.4 HRC63.5

ミソノUX10牛刀(スウェーデンステンレス鋼・全鋼・鋼種詳細不明) HRC61.7 HRC63.4 HRC62 HRC62.2

G.サカイ プレッピー(小型ナイフ/VG10・全鋼) HRC60.1 HRC62.4

※overは、HRCが確か68だか70までしかないので、それ以上に値になって換算できなかいという意味。


2~4つの結果が出ているのは、2~4回計測したため。
それぞれ計測する位置を変えている。
2回のプレッピーは2回連続して、4回のものは2回連続計測のあと別のものを測って2回連続計測した。
また、4回のものは、後半の2回について圧力を0.5キロから1キロまたは2キロに変更した。

金門包丁以外は、総じてむちゃくちゃ硬い結果になってしまった。これまで全鋼の包丁はHRC55~60ぐらいまでというイメージだったので鵜呑みにはしづらい。

このほかに割込みの三徳包丁と河豚引きと日本剃刀の硬さを測ったが、いずれもすんごい硬さの表示になってしまった。

だから、くどくどと誤差が生じる可能性がありますよーと前振りしていた次第なのであるが。



しかし、金門包丁の柔らかいことといったら(笑)

数値はともかくとしても、画面で見る圧痕の大きさがぜんぜん違っていたので、ほかと比べてとても柔らかいということについては疑う余地が無い。
相対的な比較として考えてもHRC30台以下ではあるだろうと考えられるのだ。

良い意味に捉えるなら、本当に大砲の弾が材料であると推測できる証拠とも言えるだろう。
そしていずれにせよ、研ぐ前にちゃんとした方法で硬さを確認しておいて良かった。



さて、これが分かった以上はふだんのように研げない。

刃先は薄くならないように注意して、中程の刃肉を減らすことにした。

右側のイメージ。

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結果。

写真を見てもよくわからないと思うが。

金門包丁 (3)

金門包丁 (4)


研ぎやすかった。
すごくゴリゴリ削れてくれるので調子に乗って削りすぎないように注意が必要。
刃持ちは良く無いと思うが簡単に研げる包丁。

金門包丁 (5)

金門包丁 (6)


打刻はなるべく消えないように。

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包丁の刃先の厚みを観察してみたよ その2

【C】と【D】を研いだあとの刃先厚の画像。

【C】牛刀
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研いだ後の画像。最終仕上げは4000番。

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1~2ミクロン台ぐらいの幅だった。
4000番の砥粒の粒径の理論値は3~6ミクロンということなので、砥粒の大きさの半分以下の薄さだ。
砥粒が破砕して小さくなるとか砥泥の中でこねくり回すように研ぐとか、いろんな理由が考えられるが、そもそも砥粒のサイズが3~6ミクロンかどうかも確認していない。
撮影した範囲も数十ミクロンの幅なので全体を表しているのかもわからない。


【D】ペティナイフ
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研いだ後の画像。同じく最終仕上げは4000番。

petit01.jpg

petit01_1.jpg

petit01_1E.jpg

こちらも4000番で仕上げているのだが、おおむね1ミクロン前後という結果だった。
何故こちらの方が薄くなったのかはわからない。
まあこれも観察する場所によって違うかもしれないのだが。

思ったより刃先は薄くなる。砥粒の粒径より薄くなる。これは確からしい。


研ぎながら観察してみたいなあ。ちょっと難しいかなあ。

機械ほしいなあ。

数百万円するみたいだけどw

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10円玉1~2枚問題を考えてみた

包丁を研ぐときの角度としてよく「10円玉1~2枚」と言われる。

実際のところどうなのだろうか。

まあ突っ込みどころ満載のものすごくアバウトな表現であることは言うまでも無いのであるが、それは言わないことにして。

まず必要な要素と数値を決定する。

(1) 10円玉1枚の厚さ
(2) 包丁の身幅
(3) 包丁の厚さ


(1)+【(3)÷2】=高さ
(2)=斜辺の長さ

この要素を満たす直角三角形のθ角が、研ぐときの角度ということになる。


(1)は実測値で1.5mmであった。

10円玉前横


(2)は包丁によって異なり、また、同じ包丁でも計る位置によって異なる。

身幅とは包丁の刃線から峰までの幅のことだ。

あまり研ぎ減っていない刃渡り16センチ~21センチぐらいの家庭用両刃包丁を数本計ってみたところ、いちばん広い部分で45mm強ぐらいだった。

今回は45mmと仮定する。

(3)は峰の部分の厚みとする。これも包丁によって異なるし、包丁によっては峰の部分でも刃元から先端にかけて薄くなっているものがある。

量産包丁では、比較的安価なものが2mm、高級品は2.5mmの鋼板が使われている場合が多い。

2mmないし2.5mmであるが、大きな差にはならないので計算では2mmを採用している。

包丁横縦


台の上にセットした仮の図はこんな感じになるだろう。10円玉2枚の場合である。

セット図


これに各要素の数字を入れると、

セット図2

となる。

高さは10円玉1.5mm×2=3mmに、包丁の峰の厚みの半分である1mmを足した4mm。

この条件でθ角を計算すると、

5度

約5.1度という計算になった。
両刃包丁であれば刃角度はこの2倍、約10.2度ということになる。

あれ、けっこう良い数字じゃない?(笑)

私は刃線際3ミリの位置の厚みが0.45mm~0.55mmの範囲になるように調整しているのだが、底辺が0.5mmで斜辺が3mmの二等辺三角形の頂角は10度弱なのだ。
だいたいいっしょだなあ(笑)


なお、10円玉1枚で計算した場合は約3.1度になる。両刃でも刃角度は6度ということになる。
ほんとにこの角度であれば浅すぎだ。

3_1度



「10円玉1~2枚」

などというようなアバウトな説明は、

「質問者をわかったような気にさせるための方便である」

と、これまで私は考えていた。

しかし今回の計算であながち的外れとも言えないな、と、考えを改めさせられた。


ところでこの「10円玉1~2枚」説のほかに、刃角度に関して巷間に流布している言説に、「20度~30度ぐらい」というものがある。「15度ぐらい。」と言われることもある。

これについても刃先のごくわずかな糸刃の角度という意味であれば決して的外れな数値では無いと思う。

ただしサバイバルナイフのような頑丈さが必要な刃物じゃないかぎり、刃角20度で1ミリ幅も小刃がついていてはならない。せいぜい0.1~0.3ミリぐらいまでだ。

これは「10円玉2枚ぐらい」の片面5度ぐらいの角度で刃線際3ミリぐらいまでの厚みをちゃんと抜いたうえで、仕上の刃付けとして少しだけ研ぐときの角度なのである。

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柳刃包丁 反りと裏スキの修正 大工事

2ヶ月ほど前に兵庫県の実家に帰省したとき、見慣れないヤヴァい刺身包丁を発見してしまった。
うちの実家には中古の包丁が集まるヒミツの仕組みがあって、その中の一本なのだと思うが。
実家には面直ししていないナゾの中砥石が一本あるだけなのに、これ以外に薄刃包丁も使っている。出刃包丁もあったかな。
片刃包丁使うなら裏押し用に仕上砥石と面直し砥石は必需品ですよと常々お客さんに言っているのに、自分の実家がこの体たらくなのであった。
その砥石だけではごまかしきれない何本かを東京に持ち帰って、よく使うであろう薄刃なんかはすぐに研いで送り返したのだが、この柳刃だけは見ただけでゲンナリしてほったらかしていたのだが、動画撮影のネタと考えれば良い包丁だろうと考えをあらためて、ようやく着手した。
研ぐというより修理。
工賃を時給で計算すると買う方が安かったかも。



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薄刃包丁の立体構造

このまえ電話で問い合わせがあった。
薄刃包丁をいろんな研屋に出したが切刃を平らにしてもらえない、ということだった。

そういえばむかし悩んだなあ。



§薄刃包丁の立体構造


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薄刃包丁はまあこんな感じの形をしている。関西型は先の峰側が丸い。

立体構造はこんな感じになる。

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(1)がボキっと折った断面。裏スキとかは模式図なので省略。

(2)が長手方向の断面。一般的には刃元の方が分厚く、先端にかけて徐々に薄くなっている。



§キリハはなぜ平らじゃないのか

(2)のように厚みが変わっていて、峰のラインとシノギのラインと刃線のラインが平行だと、ヒラとキリハと裏の全ての面を平らにすることはできないのだ。


裏とヒラが平らなままで、キリハも平らにしようとすると、

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この、どちらかの形になってしまうのだ。

だから、刃線とシノギと峰が平行に見えるようにすると、どうしてもどこかの面がネジれるのだが、その面が通常はキリハなのである。

薄刃包丁のキリハは、平らではない。

この形状の問題は、値段が高い立派な薄刃包丁ほど顕著に表れる。
安くて厚みが薄い薄刃包丁だとあまり問題にならない。


§どう研ぐか

キリハがネジれているということは先端側と刃元側で角度が違うということだ。先端側の方が角度が大きく、刃元側の方が小さい。
先端側のキリハの面が砥石にピタっと当たるようにすると、シノギは全体的に当たるが、刃元側の刃線が砥石から浮いて当たらない。
刃元側のキリハの面を当てると、刃線は全体的に当たるが、先端側のシノギが砥石に当たらない。

研ぐにあたっては刃線を砥石に当てないとはじまらないので、刃元側の面を角度の基準にした方がいい、というのが私の考え。
実際には刃元側だけでもキリハがピタっと砥石に当たるとは限らないのだが。

だから、合わせ包丁であれば、刃境線から刃線までのハガネの面が平らになれば良しという意識で研げば良い、ということに、私はしている。


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研ぐと切刃の部分に当たりムラができてしまうが、実用上では「そんなもんだと思って気にしない」がいちばんじゃないかな。
ムラをきれいにしたいときは、私は砥石の小割れ(薄くなった砥石を割って小さくしたもの)を使って磨いている。
ふつうの角型砥石だけだと、包丁をひねって当てようとしてもほとんどの包丁は当たらない部分がある。

使い込んで研ぎ込んでいっても、新品の状態と同じように三本のラインを平行にしたい場合は、研ぐたびに刃付けとは別に少しづつシノギを修正してやらないといけない。

シノギを修正せずにふつうに研ぎ込んでいって、キリハが平らになると、キリハの刃元側の面に合わせて研ぐ人は「§キリハはなぜ平らじゃないのか」の上の図のようにシノギが斜めになり、先端の面にあわせて研ぐ人は上の図のように刃線が斜めになる。


§なぜこんな形になっているのか?

先が薄くなっている理由は、バランスの問題だと思う。
厚みがあって立派な薄刃包丁ほど、刃元と先端を同じ厚みにすると、ヘッドヘビーで使いにくくなってしまうのだろうと思う。鉈みたいな叩き切る道具ならその方がいいのだが。
関西型みたいな鎌形だと多少は緩和されそうだが、研ぎ減るにつれて刃渡りが短くなるというネックもある。


ではねじれている面をキリハではなくヒラや裏にできないのか。
キリハがねじれていると研ぎにくいではないか。


ヒラをねじれさせたらどうなるだろう?

裏とキリハが平らで三つのラインが平行だとすると、シノギの高さは刃元から先端まで同じでなければならない。
ヒラをねじれさせて峰の厚みの帳尻を合わせようとすると、先端側でシノギが峰より高いという変な形になってしまう。

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これでも別にいいんじゃないのか?という気がしないでもないのだが、先があまり軽くなってくれないかもしれない。


裏をねじれさせるとどうなるだろう?

裏押しの面が平らというのが片刃和包丁の基本なのでそれは難しいだろう。
と思ったのだが、実際に平らでなければならないのは刃線際の面だけで、裏スキ部分は凹んでいるのだし、もしかすると何かやりようがあるのかもしれない。
頭が悪いので想像だけでは具体的にどんな曲面になるのかイメージできないが。


長年この形が定着していて、どこの包丁もみんな同じような構造のようだから、私がちょっと考えて革新的なアイデアにたどり着く可能性は極めて低いとは思うが。
いつかクレイモデルとか作ってもうちょっと具体的に考えてみようかな。


§追記。裏がねじれた形について。

厚紙で何パターンかモデルを作って考えてみた。

裏が平らじゃなくても良いなら、

(1)厚みが刃元から先端にかけて薄くなっている、

且つ、

(2)峰とシノギと刃線が平行で、キリハが平らである、

という形にすることはできる。

それでけっきょく、

「裏は平らじゃなくてもいいのか?」

という問題について熟慮してみたんだけど、新品のときはいいとして、使い込んで刃線に歪みが出てきたときに、まっすぐに修正するのがものすごく難しくなるケースがありそうだ。キリハは平らということが条件ならば裏を研ぎ減らして修正する必要があるから。
徒にハガネを減らしすぎてしまう危険がある。
そして裏には裏スキがあるので、ついていてほしい肉が初めから無いという危険もあり得る。
製造時に裏スキの曲率まで厳密に計算して正確に作らないとダメで、合わせだと研削加工で裏を削りすぎるわけにはいかないから鍛造の段階でおおむね目的に合った曲面を作っておく必要がありそう。
そして使う人も裏をどう当てるか理解していないと、ほかの刃物と同じようにベタに当てようとするとダメにしてしまう。

といったことをいろいろ考えると、やはり、

「裏を歪めるというのは難しい」

という結論になった。

とすると、厚みが変わりつつ三本の線が平行という条件で、キリハをまっ平らにするのも、無理だ。
程度の問題で歪みをなるべく小さくすることはできるけど。

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裏押しはダイジ

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刃元が少し凹んでいる。

ふつうに見ても、かなりよく見ないとわからないが、


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こういうふうに見ると刃元のあたりが凹んでいることがわかると思う。

この歪みの原因を考えるとき、まず前提として裏押しがきちんと平らに出来ているかどうかが問題になるのだ。

裏が平らであるとわかっていれば、原因は切刃が凹んでいるからだとわかる。


実際のところ、刺身包丁は刃元にこれぐらいの歪みがあっても何の問題も無いだろう。
カンナの刃がこんなふうに曲がっていたら使い物にならないが。

仮に刃の真ん中あたりが凹んでいたとすると、使用に支障が出るので、修正しないといけない。
そういうとき、もし裏が凹んでいることに気付かないでいると、切刃をどれだけ研ぎ込んでも刃道はまっすぐにならない。
包丁も砥石も時間もムダにしてしまう。



出刃包丁。

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切っ先のハガネがすごく薄くなっている。

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裏を返してみると、

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やはり、

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先の方をかなり研ぎ込んでいる。
中砥石あたりで研いでいるのだろうと思う。

このまま使い続けるとこうなる。
http://hamonotogiya.blog75.fc2.com/blog-entry-316.html

裏を研ぎすぎている包丁は私が見たかぎり全て先端の方が多く減っている。全体が平均的に減っているとか、刃元側が多く減っているという包丁は、見たことがない。考えられる原因はいくつかあるが、決定的にこれだというものは思いつかない。


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両刃を片刃

両刃の包丁が片刃気味に研いであるのって全然珍しくはなくて、それをいちいち両刃に直そうとすると、刃を余計に減らすし、作業料が多くてしんどいし、そういうのはだいたいお客さんが自分で砥石を使って研いでいるので片刃気味の方が研ぎやすいんだろうし、両刃に直したところでまた片刃になってしまうだろうから、私は片刃気味になっているものは元がどうであろうとその形なりに研いでお返ししている。
片刃と両刃ではものを切った時の刃の進み方が違うが、どっちが良いという問題ではなく好みの問題だと思うし。

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またでっぷりとした片刃に仕上げられたものであるが、、、
少し厚みを抜くぐらいにしておこう。忙しいし。


ありゃま!

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堺屋直助じゃん!!

これって割込みだよな・・・ヤヴァイ・・・・

刃元拡大

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切っ先拡大

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すっかり皮かぶっちゃっています。重篤な真性包茎です。切っ先に軟鉄が出てしまっているのでこれでは切れ味が出ない。

両刃の割込み包丁も片刃に研いでいいのだが、その場合、まずは裏を平らに研いでハガネを十分に出しておいてあげる必要があるのだ。
両刃を片刃に改造するときは裏から研ぎはじめること。
割込みではない、全鋼の包丁でも、両刃になっているものを片刃にするなら裏を平らにすることから始めなければならない。

こういうふうになっている包丁も今まで何本も研いで来たから知っているのだが、どれぐらい裏を研ぎ込んだらハガネが出て来てくれるのかは、見てもわからない。いつかは出るのはわかっているが、荒砥で10分研げばいいのか、30分研いでも出て来ないのか、研いでみないとわからないのだ。
わかっているのは力仕事になるということだ。

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今回はぎりぎりハガネが出るとこまでしかやらなかった。
時間が無かったから。
むちゃくちゃしんどいし。
ニッパチとかの暇なときならもっとしっかり削ってあげるんだけど。


今日はこれとおなじような状態のがもう一本来た。
「新見♡松永」印の武田刃物さんの青紙スーパーの割込み包丁だ。
しんどかった。

なんか、府中市におかしな研ぎ方をする研ぎ屋がいるかもしれない恐怖。


来月は23日24日のイブ絡みの連休に行きます。
白糸台の馬力屋というバイク屋さんです。
去年もクリスマスだったけどお客さんが一人も来なくて寂しかったなあ・・・

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「高さ」の件

多くの人にとって家庭で包丁を研ぐ際に問題になっているのは、高さではないかと思う。

ときどきよそのお宅のキッチンで包丁を研ぐことがあるのだが、そういうとき、私はコンテナボックスで作った研ぎ桶を持参する。その分高くなるのでたいてい問題は無い。
しかしときどき、その家にあるものだけを使って研がなければならないことがあるのだが、キッチンカウンターに直接砥石を置いたり、キッチンシンクに渡した研ぎ台を使ったりすると、たいてい高さが低く、大股開きの体勢で研がなければならなくなってしまう。
私の身長は170センチで日本の成人男性の標準的な背丈であるが、キッチンの高さは女性向けに作られている場合が多いからだろう。

高さが問題になる理由は、高すぎても低すぎても、研ぐときの手首の角度に無理が生じるからだ。

刃物をうまく研ぐためには刃物の角度を一定にしなければならないと言われている(私は一定ではないが。)。
刃物の角度を一定に保つために、手首はどうあらねばならないのだろうか。
手首の角度も一定にしなければならない、という人がいるが、それは間違い。砥石と包丁の角度を一定に保ったままで研ぐとき、手首は、その角度を維持するために常に立体的に動いているのである。

主観的には手首を動かそうという意識は無いだろう。また、うまく研げるようになると視覚的には包丁とそれを握っている手は平行移動しているだけで動いていないように見えるので「動いていない」と錯覚するのかもしれない。しかし実際には手首がスムーズ且つ精密に動くから包丁と砥石の角度を一定に保つことができるのだ。

そこで刃物を研ぐときには、まず、手首の可動域に無理が生じない高さと距離で研ぐということが大切になってくるのである。
砥石の位置が高すぎても低すぎてもいけないし、体と砥石との距離が遠すぎても近すぎてもいけない。距離はたいてい調整できるのだが、高さは手近にあるものではうまく調整できないことが多いのだ。

キッチンの高さは刃物研ぎだけではなく料理をする際にも問題になるはずだ。
しかし料理をするときよりも刃物を研ぐときの方が、高さによる問題は大きいと感じる。
料理の場合でも何十分も続けてキャベツの千切りをするようなことがあればキッチンの高さが問題になってくるかもしれないが、家庭料理ではそのような反復作業を連続することは少ないので、あまり問題にはならないのだろうと思う。

ところで、キッチンの高さはどれぐらいのが適正なのだろうか?
インターネットでキッチンの高さを調べてみた。

すると優和プランニングという会社のホームぺージで

身長(㎝)÷2+5㎝

https://yuuwa-planning.jp/blog/2016/12/25/a-kitchen-the-height/#i-3

と書かれていた。

私の身長はおよそ170センチなので、この計算によると90センチが適正ということになる。試しに私の普段の仕事場で砥石を置く位置の高さを測ってみたら、ちょうど90センチぐらいだった。研ぎ台の高さがおよそ75センチで、その上に高さ15センチの研ぎ桶を置いているのである。研ぎ台はパイプを組みつけて作ったもので、ネジを緩めれば高さ調整ができるようになっている。

特に男性の場合、家庭の台所で刃物を研ごうとすると高さが低すぎる場合が多いと思うので、研ぎ桶を作ったりして適正な高さに調整した方が良いだろう。
研ぎ桶があると、研ぎ汁が垂れ流しにならないのでキッチンがあまり汚れないし、使ったあとの砥石も収納しておくことができる。

逆にキッチンシンクが高すぎるという方がいるとしたら、足元にスノコのような台を置いて研がれると良いと思う。
ふだんの台所仕事もしやすくなるのではないだろうか。

テーマ : 包丁研ぎ
ジャンル : 趣味・実用

【10月14日(日)】 包丁研ぎ講習会のご案内

【10月度】 包丁研ぎ講習会のご案内 
研いでもらうより自分で研ごう!
技術は身につければ一生の宝もの!!
 


お申込みはこちらから
https://form1ssl.fc2.com/form/?id=a116c701ba53a59f


場所 青山熊野神社
日時 2018年 10月14日(日) 13時~16時ごろ 【雨天中止】

定員 4名

講師 研ぎやTOGITOGI 代表研ぎ師 坂田浩志

費用 6,000円

持ち物
講義/筆記用具
実習/ エプロン

実習で使用する包丁や砥石などは、主催者側でご用意します。
ご自分の包丁は持ってきても持って来なくてもかまいません。
荒砥石も使うため、大きく減ったり深い傷がついたりする可能性があり、包丁を持ってきて頂いても練習用の包丁しか使わない場合があります。

概要
今回は、家庭用の「両刃包丁」が対象です。
包丁を研いだことがない初心者でも参加していただける内容にします。
ただし、理屈っぽいです。
「サルでもできる!すぐできる!」という内容ではなく、「正しい方法」をご教示します。
プロの方などで、どうも研ぎ方がうまくいかないという方にも、お役に立てる内容だと思います。

お申込みはこちらから
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アクセス
東京都渋谷区神宮前2丁目2−22
最寄り駅 東京メトロ銀座線「外苑前駅」 徒歩5分


<注意事項>
・雨天中止です(屋外開催のため)。
・蚊が多いと思です。
・車の駐車スペースは敷地内にはありません。

<禁止事項>
・飲酒・酒気帯び状態での参加は禁止します。
・当日体調のすぐれない方の参加も、ご遠慮いただく場合があります。
・このほか、危険防止や円滑な会の進行のための主催者による指示に従わない方は、主催者の判断で退出を命じる場合があります。

<免責事項>(いずれも主催者に重大な過失があった場合を除きます。)
・刃物によるケガや器物の損壊について、主催者は責任を負いません。第三者との関係で負傷や器物の損壊が生じた場合、当事者同士で解決していただきます。
・主催者の責によらない事由によって講習会に参加できなかった場合、または主催者の判断で参加者が退出を命じられた場合、既にお支払いいただいている金銭は返金いたしません。


お申込みはこちらから
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メールフォームに問題がある方は fe26cr24@gmail.com

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そば包丁の研ぎ台

研ぎ桶を変えたので、それに合わせたサイズでそば包丁用の台を作った。


① 材料はこんな感じ
(1)ソバ包丁より少し広めの杉板
(2)下駄の歯用の細木
(3)薄いベニヤ板

001_20180828054622c2e.jpg



②杉板を適当な大きさに切る
尺二まで対応できるよう今回は37センチ。

002_20180828051322fe2.jpg


③研ぎ桶にあわせて下駄の歯になる横木を取りつける。
接着剤+ステンレス釘を使用。
横木は細いので釘より少し細いドリルで下穴を開けておこう。直接釘を打って割れてしまった。

003_2018082805132320a.jpg

こんな感じで桶に取り付けられればOK。
004_20180828051325546.jpg


④ ベニヤをこんな感じにカットして、

005_2018082805132634a.jpg

台に取り付ける。
やはり釘と接着剤使用。
釘は頭が出っ張ってると刃物に傷がつくので釘締めで叩き込んだ。ラバーとかを張り付けても良いと思う。

006_20180828051328fcb.jpg


⑤ こんな感じ。

007_201808280513298e2.jpg

峰側をミニクランプで固定する。
砥石を手にもって切刃を滑らせて、切刃の厚みをしっかり抜いてあげると、切れ味が良くなる。

刃先がベニヤから少し出て、ベースの台より引っ込んでる、という状態で研ぎたいわけ。
ベースの台より刃先が出た状態で研ぐとスプラッターな状態になる(何度もなった)。


動画はこんな感じ。


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