鋏の裏スキなどについて

鋏には分解できる物とはめ殺しになっている物があります。
分解できる物は、要ネジ部分の構造が様々です。
分解するときに組み付ける順番を良く覚えておいて、パーツを無くさないように注意してください。特殊な部品で簡単に入手できない物が多いです。

先のゾーリンゲンの鋏です。
要ネジが固着して非常に外れにくかったので、ネジを嵌めたまま大まかに裏の錆を落としています。
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道具は8mmのメガネレンチとモンキーレンチ。
要ネジである雄ネジと雌ネジのみ。ワッシャはありませんでした。
指環が大きい方の刃体に雌ネジが切ってあります。
要ネジを刃体の雌ネジに締めこむだけで二枚の刃体は接続できます。
別体の雌ねじを締めこむことでネジの緩みを防ぎます。


雄ネジである要ネジは元が先よりやや太くなっているため、締めこんでいくと抵抗が大きくなります。
これも緩み防止のための構造です。初めて見ました。

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要ネジ周辺の拡大写真。
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どちらの刃体も左側が刃先です。
そして赤丸の部分が接触している痕跡です。これが問題です。

「ハサミの力学」に書いたように、二枚の刃体は刃先で点接触しなければいけません。
点接触といっても原子結晶のレベルで見れば隙間は開いていますから、許容誤差はあります。

許容誤差は切る物によって違います。
人間の髪の毛がだいたい80ミクロン(0.08mm)ぐらい。絹糸1本は10ミクロン(0.01mm)ぐらい。
シルクは通常、撚り合わせたものが一本の糸として使われますし、布は連続体ですから、刃体全体の隙間の許容誤差が10ミクロン以下というわけではありませんが、それでも薄布は切るのが難しい対象のひとつです。同じ布でも分厚い物や張りのある物ならわりと簡単に切れます。
髪の毛は非連続体なので刃先全体がきっちり仕上がっていなければいけません。

さて、上写真の痕跡は刃先が点接触していないことを示しています。
何度も開閉するうちに刃先が磨耗してこのような状態になることはよくあります。

日本の裁ち鋏は「着鋼」といって、ベースに比較的柔らかく粘りのある地金を使って刃先にあたる部分だけ硬い刃金を張り付けていますが、写真の鋏は全体が同じ硬さの一体の鋼材で出来ています。錆びやすい炭素鋼で焼きはちゃんと入っていますが比較的柔らかいようです。そのため磨耗しやすいのではないかと想像しています。


こうやって見ると刃先の磨耗がわかります。
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これぐらい隙間があっても新聞紙やコピー用紙ぐらいは切れますが、ティッシュや薄布は切れません。

薄くて柔らかいものが切れるようにするためには、裏スキを作り直さないといけません。
丸型グラインダーで削ったり、砥石でゴリゴリ掘ったります。
昔の鍛冶屋さんは「セン」という道具で工作しました。製造段階では焼入れ前に削りますが、修正する場合は焼入れして硬くなった物を削るので、手作業で削る場合はちょっと手間がかかります。
グラインダーを使う場合は焼きが戻らない配慮が必要です。熱を持ちすぎないように少しづつ削ります。
片刃包丁で裏スキを作ろうと削りすぎて、刃金がなくなっちゃったっていう失敗例も見たことがあります。

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錆落とし

刃物の錆落としや傷消しは、欠け取りと同じです。
鉛筆で書いた文字を消しゴムで消すこととは違います。

錆は部材そのものが酸素と結合して変質した状態です。傷は部材がえぐれた状態です。
鉛筆で書いた文字は紙の上に炭が付着した状態だから、付着した炭を除去すれば消えます。一方、錆や傷の除去は、錆や傷がついた深さまで周囲を削って均さなければいけません。

部材が酸素と結合したなら酸素だけ除去することはできないのか?と思われるかもしれません。
酸化鉄から酸素を取り除くことは可能です。還元といいます。
酸化鉄を高温で熱して、酸素を炭素と反応させて鉄から除去します。
要するに、錆を製鉄会社の溶鉱炉に入れればドロドロの鉄になって出てくるのです。
残念ながら刃物の形状のままで鉄から酸素を除去することはできません。

部材を削るために、手作業なら砥石やサンドペーパーやスチールウールなどを使います。
溶剤の錆取り液もありますが、これは強酸性の液体で部材表面を溶かしています。


ゾーリンゲンのハサミ。裁ち鋏だと思います。かなり錆がきついです。
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刻印は 「SPENGLER & MEURER」 とありました。
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これを砥石でごりごり磨いて落とします。
ネズミ色の大きいのはC系荒砥。右下薄水色が中砥。右上オレンジ色は伊予砥。
他にも何種類か使います。
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薄い錆や傷なら耐水ペーパーやスチールウールでも落とせますが、深い傷は力を入れてゴリゴリ削らなければいけないので石の方がいいです。
研ぎに使う大きな砥石では表面の微妙な凹凸に対応できないので欠片を使います。


錆を落とした状態。
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鏡面には程遠いですが。
研ぎ傷が荒いままだと傷口に水分が付着して錆びやすくなるので、一定レベルまでは磨かないといけません。
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深い錆の拡大写真。
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さらに拡大。
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完全に錆を落とす場合はこの一番深い錆の奥まで、表面全体を削らなければいけません。
写真で見えているより更に深いかもしれない。


ちなみに元はこんな状態。
0010.jpg

薄い刃先部分がこういう状態になってると、錆が刃体を貫通してしまっているケースもあります。そうなると修復不可能です。
刃先の場合は切れ味に影響するので完全に除去しないといけません。貫通してる場合はハガネが残っている部分まで刃先を下げてしまう必要があります。
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