研いでも曲がる包丁

和包丁の柳刃や薄刃は、直線が大事です。

とはいっても、カンナやノミのような大工道具ほど精度は求められませんが。

だけど真ん中が凹んでいる状態だけは頂けません。


まっすぐにならない薄刃。
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磨いてないので表もくすんだままですが。
新人さんが研ぐ練習に使っていたという物です。シノギをなんとかまっすぐにしようとしたんですが、頓挫中。


刃線はアゴから見ます。

すると、

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真ん中が凹んでいます。

立体物なので、どのように真ん中が凹んでいるのか観察する必要があります。

直線のものを切刃に映してアゴの方から歪んでいないか観察します。

003_20110525131926.jpg

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すると、表はだいたい平らなのですね。


同じように裏も観察してみます。

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すると歪んでいることがわかります。

真ん中あたりがボコボコしていますね。

ちなみに裏は、裏押ししすぎ。
裏スキが無くなりかけています。
真ん中あたりが押されすぎて、裏押しが無くなっています。
ここが裏の凹んでいた部分。
そして刃線の凹んでいた部分。

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この包丁を修正するためには、裏押しが平面上に揃わなければいけません。
そのためには、いちばん凹んでいるところまで全体を押して減らさなければいけません。
すると、ただでさえ消滅しかかっている裏スキがさらに平らになってしまいます。
裏スキが平らになってしまうと、裏面を削って再生しなければいけません。

包丁の焼き入れしたハガネを手作業で削るのは、泣くほど大変です。
巨大な円砥があれば削れるかもしれませんが、残念ながら私は持っていません。
しかもこの包丁はかなり薄く、ハガネの厚みが1mmぐらいしかないから、機械を使って下手に削ると地鉄に貫通してしまうかもしれません。

そこでこの包丁は、裏の工作はしません。
このまま使います。研ぎ減ってくればそのうちまっすぐになるかも。なるのかな??
いまのまま無理やり刃線をまっすぐにしても、裏が凹んでるあたりは薄くて弱いから先に減ってしまって、けっきょく刃線もすぐに凹んでしまいます。

和包丁の裏はくれぐれも注意して研いでください。
荒砥はご法度。新品などで裏押しが出ていない物だけは中砥を使っていいです。普段はカエリを取る場合でも、仕上砥以外使わないようにしましょう。


もう一本。
何に使うのかわからない刃渡り8寸ほどの大きな包丁。
素振り用のマスコット包丁です。
昔の野鍛治が打ったものでしょうか。

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これぐらいまっすぐなら問題ありません。先が沈んでいますが少しラウンドしてる方が使いやすい。凹んでいなければ大丈夫です。

もっと曲がってるときに写真撮ればよかったのですが。
写真を撮るために凹ませるわけにもいかず。

この包丁は何なのかというと、先の方が硬いのです。
硬さが不均一だから、同じ力加減で研いでると、先の方だけ減らないのです。結果、真ん中が凹んだ状態になってしまうのです。
全体を一気砥ぎしつつも、コマメに刃線を観察して、歪まないように注意しなければいけないのです。

割り込みではない、本焼き・・でもないだろうから、丸焼き?とでも言えばいいのでしょうか。全体に焼き入れしている包丁です。
スーパーで売ってる量産のステンレス包丁と同じようなもの。


量産のステンレス包丁は100均の物も含めてバカにできません。
素材が均質。焼き入れも均等。
今はそれが当たり前なんだけど、昔・・昭和の初めぐらいまででしょうか、当たり前じゃなかったのです。
それが出来る鍛治屋さんが優秀な鍛治屋さんだったのです。

まず素材は、砂鉄から造った玉鋼。

玉鋼というと凄いシロモノのように言われています。しかし、実は粒子の大きさや分布がバラバラで扱いにくい鋼材なのだそうです。
現代の高炉による製鉄法だと、リンや硫黄といった鋼材に悪影響のある不純物がどうしても混入するそうですが、たたら製法で造られた玉鋼にはそれが無く、純度の高い鉄を得ることができるという利点はあるそうです。
だけど不均質で実用的には難点の方が多い素材でした。それも一時は製造が途切れてしまった理由でしょう。
そして、玉鋼の中でも良質な部分は刀に使われます。家庭用刃物に回されるのは二軍三軍の鋼材です。
そういう鋼材だから、鍛治屋さんが、叩いて伸ばして折り畳んではまた叩いて伸ばして、という鍛錬を繰り返して、粒子の大きさや炭化物の分布を均質にしたり不純物を取り除く作業をしなければ、使い物にならなかったのです。

さらに、鍛錬が不均一だったり、焼き入れ焼き戻しの温度が間違ってたり不均一だったりすると、甘い刃物になったり硬さが不均一な刃物になったりします。
写真のような大きな刃物は、おそらく焼入れが不均一になりやすいのでしょう。

先の方は鎚で打った跡が多くて黒っぽいです。
何が原因かはわかりませんが、とにかく硬さが不均一。普通に研ぐと凹んでしまいます。

これと比べると、いま量販店やスーパーマーケットで売っているご家庭用のステンレス包丁の優秀さがよくわかります。100均の包丁でさえ非常に優秀。
現代まで受けつがれて残っている優れた和包丁は、全国に山ほどあった土地土地の刃物の中の、上澄みの部分のごく一部なんだろうと思います。
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テーマ : 包丁研ぎ
ジャンル : 趣味・実用

お米の浸漬、時間ごとの推移

関係ない話題が続きますが、刃物じゃなくてお米研ぎ。
研いだあとの浸漬のはなし。

私は土鍋などで米を炊きます。
炊飯器任せじゃないので自分で時間や火加減などを調整しなければいけません。
微妙に違うレシピがいろいろ紹介されているのでいろいろ検証してみることがあります。

このたびは、お米を火にかける前の浸漬時間で米粒の状態がどう変化するのか観察してみました。

ちなみに私が土鍋で炊くときの浸漬時間は45分です。

どこかの料亭で2時間というところがあったと記憶しています。知ってる限りこれが最長かなあ。

最低でも30分と言われていますね。

炊飯器の「早炊き」機能は浸漬時間を短縮しているのだと思います。


スタート
お米は半透明です。
0分


17分
中が白くなり少し膨張しています。
17分


31分
半透明の部分がほぼなくなりました。
しかし写真に写っていない他の米粒には半透明の部分が残っているものもあります。
31分


47分
私はこれぐらいで炊飯をはじめます。
まだ米粒の中のひび割れが確認できます。
また、他の米粒に半透明の部分が少し残っています。
47分


61分
見た目の変化は少なくなってきました。
他の米粒にも半透明な部分が残る米粒はほとんどありません。
61分


76分
より白くなります。
見た目の変化は少なくなってきました。
76分


101分
白さが深くなります。
さらに見た目の変化は乏しくなります。
101分


124分
更に見た目の変化は乏しくなります。
124分


139分
139分


152分
152分


外見からわかる変化は次の通り。
・ひび割れが生じる。
・半透明だった色が白濁してゆく。(内部が細かくひび割れていると想像。)
・膨張する。

47分の画像までは、明瞭な変化が確認できます。
61分あたりから見た目の変化は少なくなります。よく見れば変化しています。


実際に炊いてみると、45分と2時間でも炊き上がりの柔らかさにはかなり違いがあります。
一晩(8時間以上)浸漬させるとかなり柔らかくなります。「柔らかめ」じゃなくて「柔らかい」と断定できるかんじ。
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食中毒

「焼肉酒家えびす」でユッケを食べた複数の客が食中毒を発症し一部が死亡した事件。
「確率の問題」で書いたことが、この問題にも当てはまります。


・平成10年に厚労省が、O157による食中毒事件の発生を受けて、「生食用食肉等の安全性確保について」という通知を各県に出します。
・禁止規定ではない。罰則などの強制力は無い。
・厚労省は2008年と2009年に実態調査を行ったが、生食用牛肉を出荷した食肉処理施設は無かった。


厚労省の基準に準拠した「生食用牛肉」を取り扱かわれた実績は記録上ゼロ。O157が問題になった当初はあったのかもしれないけど。生牛肉料理であるユッケは当時から現在まで、日本全国の焼き肉店で提供されている。

13年間この体制で運用されてきた。というか、平成10年より前は基準が無かったわけだから、加熱用も生食用も区別されない状態でずううっと販売され続けてきた。

報道されない食中毒はあったかもしれないけど、死亡者が出るような大問題は起きなかった。2006年に死亡者が出たO157の原因は生肉じゃないだろうし。


そうして考えると、たぶん厚労省の基準に準拠しない現在の状態でも、食中毒が発症したり死亡に至るのは何十万人とか何百万人に1人でしょう。確率でいうと0,001%とか0.0001%みたいな数字。年率にすると更に少なくなります。延べ人数にすると何億人とか何十億人に1人。
交通事故の死亡者数より絶対に少ない。飛行機事故の被害者数ぐらいかも。
生活必需品という側面もある車と、無くても大して誰も困らないユッケを並べて考えるのは問題かもしれない。
だけど、たとえば公道走行を前提にした全ての新車に時速100キロのリミッターを義務付ければ、13年間で交通事故死亡者数が3人と重軽傷者数が50人ぐらいなら減った可能性が高い。

話を戻すけど、確率的には実はものすごく低いから、フグの肝を食べる人と同じように個人が自己責任で食べますっていうことがあっても「自殺行為」というほどの問題じゃありません。


だけど店とか卸業者とか行政は、大量の人の健康に対して責任を持ちます。確率が100万人分の1人だとしたら、100万人客がいたら1人は死ぬ。
個々の店レベルだと、焼き肉屋さんは全国に数千~1万店舗ぐらいはあるだろうから、今回「焼肉酒家えびす」で食中毒が出たけど、運の要素も大きくなる。もちろん安売り店は仕入価格を叩く分だけリスクも高くなるんだろうけど。
いずれにしても、10年とか50年とか100年という期間で考えたら、どこかの店の客が何人かは死ぬんだろう。
日本中の焼き肉店がやってるんだから、それが「うちの店」になる確率はそんなに高くないと経営者が考えるのは不合理じゃない。

それよりも他店が出してるユッケを出さないことで客数や売り上げが減るという毎日の問題が大事です。

卸業者の単位でも、自店が責任負担することになるリスクは高くないと考えるかもしれない。それよりも目先の切実な問題が優先されます。小売店がユッケ用の肉をくれといったとして、他の卸業者は販売してるのに「うちではできません」或いは「すごく高いです」と言ったら、他の卸業者に鞍替えされるわけだから。


発生確率はすごく低いけど、重大な事故になるリスクというのは、市場原理では回避できません。行政にしか管理できません。
市場原理は冷徹です。経済的には人間1人の命はそんなに高くない。毎年何人か死ぬようなリスクだったら淘汰されるけど、10年に一度死者が出るぐらいいの死亡確率は事実上容認されます。
今と同じままで対策をしない場合、1~2年は売り上げが減るかもしれないけど、事故が起きずに5年も経てば元に戻ると思います。



さて。
生肉による食中毒を極小化するには、厚労省の通知を政令レベルに引き上げて強制力を持たせるほかないとして、そうすると生食用の肉類はみんな価格が暴騰するでしょう。ユッケだけじゃない。レバ刺しとかも。
そこで私はこの際「小泉方式」もアリじゃないか、と考えるわけです。
屠蓄業者にも卸業者にも小売業者にも、もうすこし運用コストが膨大にならない程度の緩やかな基準を、ただし強制する。各業者に遵守状況の証明責任を負わせる。
年少者と高齢者への販売は禁止する。
一定のリスクがある旨を表示する。
その上で客に選択させる。もし運悪く客が食中毒になっても客の自己責任。
小泉純一郎が米国産牛肉の輸入を強引に解禁して「嫌な人は食べなければいい。」と言い放った理屈。
ただし利用者が自己責任で選択できるようにリスク情報を開示する。

米国産牛肉の問題なんかニュースにもならないけど。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000123e4.html

こういうのも、「日本向け輸出条件である20か月齢以下の牛由来であることが確認できないを大腸(大腸は特定危険部位ではない)が含まれている可能性があります。」と赤字なんかで目立つように表示して、販売させればいい。自店での加工品販売の場合も。

東北の農蓄海産物も、「安全基準以下です」とざっくり広報するのではなくて、「抽出検査した結果○○ベクレルが検出されました。これは安全基準である○○ベクレル以下です。」とか、「検査対象ではないので検査していません」と表示する。それで売れなかったり販売価格が下がったことによる損失は東電に賠償請求するのが本筋です。


どうでしょう?



食中毒関連ニュース(抄)

2011年05月03日 18:19 北日本新聞
 フーズ・フォーラス(金沢市、勘坂康弘社長)が運営する焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」の集団食中毒で、(富山)県は3日、砺波店(砺波市となみ町)と高岡駅南店(高岡市大野)の患者が前日から3人増え計58人となり、重症は1人増の計22人になったと発表した。


2011年5月3日3時1分 朝日新聞
 横浜市でもユッケ食べた女性が食中毒 3県で患者57人
 富山、福井両県の焼き肉チェーン店で生肉のユッケなどを食べた男児2人が死亡した食中毒で、横浜市内の同じチェーン店でユッケを食べた20代女性が、重症の食中毒症状を起こし、入院していることが2日、厚生労働省などへの取材で分かった。患者は3県で57人に達し、うち腸管出血性大腸菌のO(オー)111などが引き起こす溶血性尿毒素症症候群(HUS)やその疑いがある重症者も23人に上る。


2011年5月4日11時58分 読売新聞
焼き肉チェーン「焼肉酒家えびす」福井渕店(福井市)で4月17日にユッケを食べた福井市内の男児(6)が腸管出血性大腸菌「Oオー111」に感染して死亡し、10歳代の女性1人が重症に陥った問題で、同店で24日に食事した県内の女児(2)が食中毒のような症状を訴えていることがわかった。
3日も同店で食事をした客らから相談が寄せられた。


2011年5月4日14時49分 朝日新聞
 焼き肉店食中毒で富山の40代女性死亡 死者は3人に
 男児2人が死亡した焼き肉チェーン「焼肉酒家えびす」の集団食中毒で、富山県は4日、同県砺波(となみ)市にある砺波店を4月23日に利用してユッケなどを食べた40歳代の女性が4日午前、死亡したと発表した。


2011年5月3日09時22分 読売新聞
 厚労省が定める生食用の食肉に関する基準では、決められた場所と手順に従って牛などを解体するほか、販売時には「生食用」と明記する必要がある。
 しかし、同省監視安全課によると、生食用の食肉処理施設は全国に12か所あるが、出荷されているのはいずれも馬肉で、「2008、09年度は生食用の牛肉の出荷がなかったことが確認されている」とする。同省は、市場に流通している牛肉については、保健所などを通じて、加熱処理した上で客に提供するよう呼びかけているという。
 ところが、全国焼肉協会(東京都)や県内の複数の焼き肉店は、加熱用の牛肉をユッケなど生肉のままで提供することは「業界の慣習だった」と証言する。同協会は「生食の危険性は認識しており、協会としては提供しないよう呼びかけていた。しかし、焼き肉店としては客のニーズがあるのでやめられない」と、業界全体で問題を把握しながら目をつぶってきたことを明かす。


2011年05/04 11:52 テレビ朝日
生食用の食肉について、厚生労働省は1998年、食肉の処理施設に消毒に必要な設備を設けることなどの基準を定めています。厚労省が調査を始めた2008年度と2009年度について、この基準を通った生食用の牛肉は一切、出荷されていなかったということです。



生食用食肉等の安全性確保について : 厚生省生活衛生局乳肉衛生課
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1009/h0911-1.html


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包丁研ぎ器の構造と問題

簡易包丁研ぎ器。
こういうのが一般的な形だと思います。

kanitogiki01.jpg


カバーを外して横から見るとこうなっています。
見たところ30度ぐらいの角度でしょうか。

110503_02.jpg


問題点の第一は、この角度でしか研げないことです。

すると、
包丁研ぎの基本(3)で説明した研ぎおろしはできません。
・当然、包丁研ぎの応用で説明したような研ぎ方もできません。
・また当然、片刃の和包丁は研げません。


第二に、この簡易研ぎ器に付属している砥石は荒砥石です。
つまり荒砥石による研ぎしかできません。刃先は荒砥石なりにしか鋭くなりません。

荒砥石と中砥石と仕上砥石のスリットが用意されている商品もあります。


第三に、長く使っていると砥石自体が変形するということです。更に鈍角になると予想されます。
砥石部分にセラミック砥石やダイヤモンド砥石を使っている物は減りにくいです。
一般に、ダイヤモンド砥石は表面に結着させているダイヤモンド粒子が脱落して研げなくなることが多いです。セラミックシャープナーは砥面が磨耗して使えなくなることが多いです。


簡易研ぎ器を使う場合は次のように考えるべきでしょう。

・それほど鋭さを求めず、あまり研ぎ減っていない包丁であれば、刃付はできるでしょう。

・簡易研ぎ器自体の寿命もあります。物によってはかなり短い。研いでも切れ味が戻らなくなった場合、包丁が研ぎ減っている可能性もありますが、研ぎ器が使えなくなっている可能性もあります。

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Author:BROさん
東京都練馬区の研ぎ師です。
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