柄の交換・柄の中の錆

柄が割れた包丁があります。
これは、柄に使われている木材が劣化しているのではなく、内部で鉄が錆びて膨張しているのです。

その状態。


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これぐらい柄が割れてると内部はかなり朽ちていると思います。

・水分が染み込みやすいので、はじめの状態よりもっと錆びやすくなっている。
・錆がさらに進行して中子が折れてしまうと、修理コストは非常に高くなる。

安い物ならそのまま使うのもいいと思いますが、シャンとした包丁だし修理すれば10年ぐらいは使えそうなので交換することにしました。


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タガネなどを使って割ります。
口輪のあたりの錆びがひどいです。


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層状になってくっついてるのは木の破片ではありません。錆びです。酸化第二鉄。


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分解の図。


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赤錆を落とした状態。
もとの状態の半分ぐらいの細さになっています。
中子が折れて、溶接したり刃元のあたりを削る修理になると、3000円以上はかかると思います。



ビフォーアフター。

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写真で見ても柄がキレイになったぐらいにしか見えませんね(^^;

柄の内部の隙間がけっこう大きく水が進入しやすいと思われたので、柄埋めもしました。
ただ、逆にいちど水が入ると出て行きにくいという可能性もあります。防水性が完全だと盲信しないでください。
ハガネの包丁は使ったあとは熱湯を掛け回したりしてよく乾燥させて保管しましょう。
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砥石

● 砥石についてちょっと書いてみる。
だけど残念ながら、私にとっての砥石の良否は必ずしも一般の方のニーズと同じではない。それに、あまりたくさんの種類の砥石を使ったことが無い。だから、十分に役立つアドバイスはできないと思う。
とは言ってもたくさん研いだ経験はあるので、あまり砥石に詳しくない人たちに対しては多少役立つかもしれない。
だから前提を明らかにしながら、砥石について感じていることを書いてみたいと思う。


● まず、研ぎ師はいろんな種類の砥石を持っている。おおまかに荒砥石と中砥石と仕上砥石の三種類。包丁と砥石の相性というのは確かにあるんだけど、合わなければ別のを選べばいい。中砥で滑るなら荒砥に戻せばいい。
ところが荒砥石と中砥石と仕上砥石、それに砥石を修正するための面直し砥石の、使い勝手のいいのを揃えると、2万円ぐらいはかかる。
これを買いなさいと一般の人に薦めるのは違うだろう。


● 砥石は大きい物がいい。素人ほど大きい方がいい。厚みはともかく、砥ぐ面が広い方がいいのだ。しかし大きい砥石は値段が高い。そこで、だいたいだけど、縦20センチ×横7センチ程度はあった方がいいとしておく。
私はもっと小さいのを旅行に持っていったりして使うけど、上手になって砥石のどの面に包丁のどの部分をどういう角度で当てるかといったことができないと、小さい砥石は使いにくいのだ。


● 一本だけという場合は中砥石。
ただ、私は仕上砥石を持ってるし包丁は仕上砥石をかけずに仕舞いにすることは無い。それを前提として選ぶ中砥石と、中砥石だけで仕舞いにするという前提の中砥石では、向いている物が異なる。

たとえば今私の手元にある中砥石は、ベスターの#700、同#800、同#1000、同#2000、シャプトンの#1000、シャプトンの#1500、それにメーカーも番手も不明なのが一本。天然砥石だと丹波の青砥と天草砥の白も中砥石に該当するだろう。
この中で全く使わないのはシャプトンの#1500とベスターの#1000。
シャプトンは長時間水に漬けていると基材が軟化するのだ。プロは一日何時間も研ぐから水にドどぼんと沈めていなくても軟らかくなってしまうので、残念ながら使えない。
シャプトンの#1000(オレンジ)は一般の人にはお薦めできる。
逆にベスターなどの多くの砥石は、20~30分ぐらい水に漬けておかなければ使えない。水をかけてもすぐに染み込んで表面が乾いてしまうからだ。忙しい人は面倒くさいでしょう。私は毎日使うから水に漬けっぱなしで保管してるけど。シャプトンは表面に水をかけてすぐ使えます。

ベスターの#1000、シャプトンの#1500を使わないのは、中途半端だから。
ちなみに#1000とか#700っていうのはメーカーの公表値にすぎません。客観的な基準は無い。
#1000は「センバン」と読む。1インチ(2.54センチ)四方のフルイに切った升目の数が幾つあるか、ということ。砥石の中には包丁を研磨する小さな砥粒が入ってるんだけど、それをフルイに掛けて最大サイズを決める。#700は1インチ四方に700個並ぶ大きさの砥粒で、#2000は2000個並ぶ大きさの砥粒という意味だから、数字が大きい方が目の細かい砥石。
うろ覚えだけど確か#400ぐらいまでは工業規格あたりで基準がある。だけど#1,000とか、仕上砥石だと#10,000なんていうのがあるけど、こんなのになると正確に測れない。最先端技術を使えば測れるのかもしれないけど、たぶんコストがアホみたいに高くなる。1インチ四方に千個とかも1万個の穴が開いたフルイなんて無いから。
メーカーが違うと同じ#1000でもかなり違う。大まかな目安でしかありません。

それで、私はプロなので仕上砥は必ずかけるから、ベスターの#700とか#800とかシャプトンの#1000なんかがサクサク削れて好きなんだけど、中砥だけで仕舞いにするとしたら、ちょっと荒い気もするのだ。

もし一本だけしか持てないとしたら、もしかするとベスターの#1000やシャプトンの#1500がイイ!と感じるのかもしれない。これについては何とも言えない。
言えるのは、#5000以上の仕上砥石で仕上研ぎする前提において中途半端だということだけだ。

キングの砥石は使ったことが無いが、「ステンレス包丁を研ぐと滑る」という評価を見たことがある。もしかするとこれも#700ぐらい(があれば)を使えばいいだけのことかもしれない。


● 仕上砥石はシャプトンの#8000と大谷砥石の北山(#7000~#8000ぐらい)と、もうちょっと細かい人造砥石、それと天然砥石を何本か持っている。
天然砥石は特殊な目的以外ほぼ使わない。必要無い。面白いけどね。ともかくコストパフォーマンスが悪い。
シャプトンの#8000もほぼ使わない。好き嫌いの問題で。
基本は北山。細かいけど硬すぎず、滑るといわれるステンレスでもよく研げる。砥石の減り方と鉄の減り方のバランスがいい砥石です。
仕上砥石は密度が高くて水を吸わないから、水に漬けとく必要が無いので、北山は一般の人にもお薦めします。
北山で不足する理由がある場合だけ他のを使う。あんまりそういう機会は無いですね。表面を磨くときは小割れや耐水ペーパーやバブを使うし。


● 荒砥石は実用刃物の研ぎ師が最も多く使う砥石です。荒砥の作業はグラインダーでやる人も多いけど。
だけど、自分の包丁を荒砥石で研ぐことはほとんどありません。荒砥石を使うとすぐ包丁が減ってしまうから。そもそも荒砥石が必要になる前に研ぐから。
だけど、お金を払って研いでほしいと依頼される包丁はほとんど荒砥石が必要な状態なので、仕事では荒砥石を使う機会が多くなるわけ。荒砥石でベースをきちっと作れば中砥石や仕上砥石の仕事は簡単です。
荒砥石はみっつ持ってます。今西製砥の「あらと君」と、メーカー不明のC系の荒砥(黒い)と、メーカー不明のGC系の荒砥(緑色)とシャプトンの#220(モス)。
この中では緑色のやつだけほとんど使わない。もったいないからできれば何とか使いたいんだけど、大して研削力が強くないくせに基材が柔らかくてちょっと研いだらすぐに変形するから、イライラして使ってられません。デッドストックになってしまっています。
貰い物なのでどこの砥石かわかりません。
シャプトンもちょっと使うだけならいいんだけど、長時間使うとフニャフニャになるのでやっぱり使えません。シャプトンは薄いって問題もあります。
あとの二つは好きです。なるべく変形しにくくて、研削力が強いことが、良い荒砥の条件です。そういう意味ではシャプトンの「空母」というのを一度使ってみたいんだけど、三丁掛けのあらとくんが10本買えるお値段だということがネックです。電着ダイヤが果たしてそれだけ仕事をしてくれるのか。


● 最後に砥石の平面をなおす面直し砥石。
シャプトンの「なおる」と、たぶん今西製砥だと思うけど「水平君(大)」。「なおる」は平面をきっちり出す必要があるときだけ使う。硬い鋳鉄なので平面に磁力は高いけど、金剛砂が必要なのでコスパが悪いんです。「水平君(大)」はそろそろ溝が無くなって限界だけど、無くなったらまた買います。どっちもちょっと高い。
ほかに、昔買った安い面直し砥石が2本あるけど、どっちも使い物になりません。
面直し砥石は安い物でも高い物でも硬くて変形しにくいけど、安い物はサイズが小さい。買うなら砥石より大きい物を買いましょう。「水平君(小)」はお薦めしません。砥石の小さい物は腕を上げれば使えますが、平面を修正する面直し砥石の小さい物はどうにも使えません。


とりあえず現在のところ砥石についてお話ができることはこんな感じでしょうか。
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焼き入れ

鉄に「焼き入れ」をすると硬くなる理由です。

鉄はFeという原子が集まった金属です。

Feが、常温ではこういう風に並んでいます。

taishin.jpg

サイコロの角と、真ん中に、Feの原子が並んでいる状態です。
これを「体心立方格子(たいしんりっぽうこうし)」といいます。
原子9個で1セットです。各辺の電子は隣のセットと共有されますが。


ちなみに原子っていうのはちょっと変な物体です。土星みたいなイメージ。中心にある原子核と周囲を周っている電子で構成されています。電子の軌道が、原子の種類によって二重だったり三重だったり、軌道上の電子の数が違ったりします。
土星と違って、いちばん外側の電子の軌道の大きさが原子の大きさということになっています。


さて、鉄を焼いて熱くしていくと、ある一定の温度になったときに、この原子の配列が変わります。

こんな感じです。

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真ん中にあった原子が無くなって、サイコロの全ての面が1になったように、原子が並びます。
これを、「面心立法格子(めんしんりっぽうこうし)」といいます。
原子14個で1セットです。


面心立方格子になると、原子と原子の距離が離れます。

距離が離れるということは、鉄の塊全体としてみると、大きくなるのです。膨張する。

暖めると膨張する物はけっこうたくさんあります。
というか、実は全ての物質は暖めると膨張するんです。
これは、物質に熱を与えると電子なんかの運動が盛んになるからだそうです。


ただ、この鉄の「変態」は、だんだん膨らんでいくのではなくて、ある温度でいきなり原子の配列が変わって、ボンっとでっかくなるのです。


鉄炭素状態図


これは鉄がボンっと大きくなる温度と炭素含有量の関係図です。

青いところが体積の小さい体心立方格子で、赤いところが体積の大きい面心立法格子です。
体心立方格子の鉄を「フェライト」といったり「α鉄」といいます。
面心立方格子の鉄を「オーステナイト」といったり「γ鉄」といいます。

炭素を含まない純鉄では910℃、刃物の材料になる一定量以上の炭素を含んだ鉄では723℃(727℃と書いてる本もあります。)で、鉄は体心立方格子から面心立方格子に変身して、体積が少し大きくなります。
鍛冶屋さんが実際に体積が大きくなるのを見て確認できるのかは、聞いたことが無いので知りません。


ところで、炭素の原子は、大きさが鉄の原子の半分ぐらいしかありません。

鉄の配列が面心立方格子になると、鉄の原子と原子の距離が広がります。

その広がった隙間に、小さな炭素が浸入するのです。

電車の車両が広くなったので乗客がたくさん乗り込んできた、と思ってみてください。


「焼き入れ」というのは、面心立方格子になって炭素を取りこんだ鉄を、急冷して、炭素を取りこんだまま体積の小さい体心立方格子に戻す作業です。
真っ赤になった鉄を、水の中に入れて「ジューッ」と冷ます映像を、ご覧になったことのある人も多いと思います。

すると、お客さんの数はそのままで車両が狭くなってしまうので、電車はすし詰めの満員電車状態になってしまいます。
すし詰め状態になってしまうせいで、鉄の原子同士が動き辛くなり、硬くなる。
これが、焼き入れによって鉄が硬くなる仕組みだそうです。


前にも書いたかもしれないけど、「柔らかい」っていう状態には二種類あって、ひとつは原子なんかの結合力が弱いということ。こういう意味で柔らかい物は、小さな力でボロボロと崩れてしまいます。もうひとつは原子と原子の距離が伸び縮みするということ。こういう意味で柔らかいものは、伸びたり縮んだり曲がったりします。

そして純鉄は、かなり伸びたり縮んだり曲がったりする柔らかい金属なんだけど、焼き入れすることによって原子が動けなくなって、硬くなるのです。


常温の鉄の原子配列(体心立方格子)
体心立方格子


↓これを熱して723℃を超えると原子同士の距離が広がる(面心立方格子)

面心立方格子

↓その隙間に炭素が浸入する(実際にはもっと量が少ないけど)

面心立方格子_炭素

↓急令すると炭素が入り込んだまま原子の距離が縮まる

体心立方格子_炭素


結果、Feの原子(青)が動き辛くなる=硬くなる



ちなみに急冷じゃなく徐冷すると、炭素が鉄の格子から押し出されて、鉄の層と炭素の層が分かれた組織になります。
車両の中からお客さんが出て行ってしまうわけですね。だから硬くなりません。


多くのステンレス鋼は空気で徐冷しても焼きが入るそうです。鋼材によって焼き入れのしやすさが違います。

YSSだと、白紙がいちばん焼き入れがシビアで、水焼き入れしかできないそうです。
青紙はクロムとタングステンを配合することによって焼き入れ性を向上させているので、油焼き入れができます。油で冷却すると冷却スピードがやや遅くなりますが、焼入れに失敗する率が減ります。「油焼きは甘い」という人もいるようですが、研いでても違いはわかりません。一般家庭の人も感じにくいと思います。毎日大量に調理をする料理人さんならわかるのでしょうね。
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包丁ケース

松の内もとっくにすぎましたが、あけましておめでとうございます。

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うちの包丁はこの状態で保管している。
内側に新聞紙を貼っている。

新聞で包むだけだと、うっかりちょっと水滴がかかっただけでも錆びてしまう。これなら少しはだいじょうぶ。

木の鞘がついてる包丁もあるけど、油を塗ったまま仕舞えないので保管に向かない。

持ち運ぶときも輪ゴムやテープで抜けないようにしてこのまま持って行くので、木鞘は全く使わなくなった。


新聞で包む場合でもこういう状態で保管する場合でも、できれば半年に1回、無理でもせめて1年に1回は取り出して、油を塗り直して保管しましょう。


ダンボールを切るのにお勧め、テスキーS

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