釣り針を研ぐ

カワハギというのは変わった餌の食べ方をする魚だ。

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(wikipediaより)

花の蜜を吸うハチドリのように、海中でホバリングするようにして、上からふわふわと落ちてくるエサの周りに寄り添って、細い口先でついばんで食べるのである。おちょぼ口の中には丈夫な刃が並んでいる。

多くの魚はエサを見つけたら大口を開けてとりあえず口に入れてしまって、それから違うと思えば吐き出す。しかしカワハギの仲間は、口に入れる前によく観察して、食べたい部分だけを齧り取るのである。

そんな食べ方をする彼らには、おそらく釣り針も糸もよく見えているはずだ。

おかげで釣り人は毎度毎度とても悔しい思いをさせられることになる。
仕掛けを海底まで下ろしてしばらく、何の魚信もないときは、巻き上げてみたらエサだけ無い。
たった5秒だ。
なにせ仕掛けを下ろしている最中からもうつついて食べているのだから。

関東の釣り船ではアサリをエサにするが、カワハギは、まず内臓の柔かい部分を食べて、次にエンペラや水管などの比較的硬い部分の端っこを引っ張って針から外して食べる、というようなことをする。
活性の高い日のカワハギ釣りは仕掛けを下ろしている時間よりエサをつけている時間の方が長い。
釣り人にとっては非常に厄介な餌取り名人なのである。


しかしご存知のように、食味は非常に良い。
透き通った歯ごたえのある白身で、冬平目のように脂は乗らないが身の締まりはこちらの方が上である。
しかも肝が絶品。量が取れないが、単体ではフォアグラよりアン肝より濃厚。
肝和えにして濃いめの醤油を少し付けて食べる刺身の美味さは、他で味わうことはできない。

釣りが難しいこともかえって釣り師のやる気をそそる要素になっていて、特に東京湾には三浦半島から房総半島までの全域で専用の釣り船が多く出船している。カワハギ専用の釣り道具もたくさん販売されている。


釣り針も独特な形だ。

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右は針の先っぽだけ口に入れば引っ掛けてしまおうという形。ハゲ針という。
左はカーブしている先端部分まで口の中に入れてもらおうという形で、口に入りさえすれば針掛かりして外れにくい。

この針先を研ぐ。
砥石は1万番の欠片。
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研ぐ前の針先の拡大画像。
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これはダイワの「D-MAX パワースピード 早掛太軸 8.5号」という釣り針。
針先は30ミクロンぐらい。

これをロック付き鉗子で挟んで、
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砥石でごく軽く10回ほど撫ぜる。ゴシゴシこする必要は無い。

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すると3ミクロンぐらいの針先になる。

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拡大すると大きな違いのように見えるが0.03ミリが0.003ミリになったという違いにすぎない。

ふつうの魚はこんなことしても意味無いが、エサ取り名人のカワハギにいつも臍を噛まされている釣り人は、ちょっとでも針先がこのオチョボ口に触れたなら、決して滑ることなくガッチリと食い込んで欲しいのだ。


なお、この作業によって私の釣果が伸びているのかは不明である。
おまじないの類かもしれない。

カワハギに悔しい思いをさせられていて藁にもすがりたいという同好の士は一度お試し頂きたい。
鉗子は1千円台で買える。ペット用品として販売されている。かならずロック付きの物。
1万番の砥石の欠片はちょっと入手が難しいが、330銘砥で売ってる天然仕上げ砥石の欠片なんかでもいいんじゃないだろうか。
http://www.330mate.com/product/341

当然だがルアーのフックはこんな研ぎ方しなくていい。釣具屋さんで売ってるフックシャープナーで充分。

フライはやってみて面白いかもしれない。渓流魚もなかなかの強か者だから。私はフライフィッシングをしないので試せないが。



最後に、他のメーカーのカワハギ針の針先。参考までに。

VARIVAS ジーク ABL カワハギ糸付鈎 ハゲ鈎タイプ 4号
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がまかつ 競技カワハギ速攻 5.5号
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被写界深度が浅くきれいに写せていないのでこれらの写真だけで判断できないが、実際に観察したところ「がまかつ」が一番鋭いようだ。もともとは釣り針のメーカーなので得意分野なのだろう。
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頭落とし・盛高刃物菜切り

あけましておめでとうございます。

面白い包丁2つ。

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「頭落とし」という名前の包丁。
精肉で使うプロ用の包丁。
預かったとき、見たことあるけどなんだっけ?ガラスキでもホネスキでもなくて・・・思い出せなかった。

これで何の頭をどう落とすのだろう?
なんのために反ってるのかも良くわからない。
皮を剥ぐというならなんとなく想像できるけど。
動物の解体はしたことがないので。

詳しい使い方をご存知の方がいらっしゃったら教えてください。


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盛高刃物さんの菜切り。
鋼材は青紙スーパー、紫檀角巻き柄、丁寧に柄埋めもしてある。
見せられないけど裏に銘が彫ってあって、タガネワークが大変上手。
5万円の薄刃みたいなスペック。
車にたとえるとスーパーチャージャーエンジンを搭載して内装が総革張のカローラといったところ(^^;


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切っ先とアゴを削って心持ちお腹を出っ張らせた。
このほうが使いやすいはず。



ところでこの包丁、盛高刃物のホームページによると納期は2015年夏以降だそうである。

なんでそんなに人気なんだろう?
錆びやすい炭素鋼の黒打ち菜切り包丁なんて、いまや全然人気が無い絶滅危惧種なのに。

じっさいのところ、手打の良い物を作る鍛冶屋さんはどんどん減って行ってる。
青紙スーパーの包丁は珍しいけど、それが理由でバカ売れするはずがない。

そもそも、三徳や菜切りは家庭用の位置付けなのでメーカー(鍛冶屋)も普通はコストパフォーマンスの良さを重視するから、炭素鋼で1万円前後なんてかなり割高なのだ。

人気になる要素がほとんど無いのである。


謎の答えは、おそらく海外需要だろう。


欧米には複合材の刃物が無い(近年日本製品を真似て作られたものは少数あるが)。
全鋼ばっかり。本焼きなんてものも当然無いから、全鋼の丸焼き。
すると、硬度を上げると壊れやすいから焼きは甘めにせざるを得ない。硬くてもHRC58ぐらいまで。
結果、あまり切れ味の良い刃物は作ることができないのである。

鋼材が柔かければ靱性にも大して神経質にならなくていいので、自由鍛造と型抜き削り出しという製法の違いで大きな差は出ない。
実際には全鋼丸焼きでも鍛造と型抜き削り出しではかなり違うが、HRC65前後まで硬度を持っていく片刃和包丁ほど致命的な差にはならない。

製品に大きな差が無ければ手間がかからず安く作れる型抜き削り出し製法が主流になる。


ドイツ・ゾーリンゲンのような世界的に有名な刃物の生産地でも、自由鍛造で刃物作りをしている工房が今はもう無いそうだ。越前・武生からブレードだけ輸入してドイツで柄をつけて日独コラボ製品として販売してるところもある。


欧米では、日本で作られている複合構造で切れ味の鋭い刃物は驚異的なのである。
しかも欧米には同じ物を作ることができる刃物メーカーやブラックスミスがほぼいない。
職人の仕事というのは「技」だから数をこなさなければ身につかない、詳しい手順書を作って同じ機械を使って作ろうとしても、同じ品質のものを同じコストで作ることはできないのだ。

だから日本から輸入せざるを得ないのではないだろうか。


欧米需要だと考えれば、片刃の薄刃ではなく両刃の菜切りであることも、不釣合いに豪華な柄がついていることも説明がつく。


しかしどんな理由であるにせよ、良い物を作る伝統が残ってゆくのはいいことだ。


日本でも炭素鋼の包丁の良さが見直されるべきだと思う。
錆びなんて落とせばいいだけだ。

炭素鋼は日立金属の青紙や白紙が有名だが、以前はたとえば青紙1号にもAとBというランクがあった。需要が少ないのでもうなくなってしまったそうだ。それどころか青紙・白紙の製造中止も検討されたことがあると仄聞している。

大事な物が廃れてしまおうとしているのは、企業の営業努力ではなく私達消費者の生活スタイルが原因である。
包丁も、ステンレスでもいいが、安いものを買って切れなくなったら買い換えるという大量消費型で楽をする生活様式は、いろんな意味でもうやめにしなければいけない。

自分で手入れをして最高の状態を引き出して使うようになると、炭素鋼の偉大さは自ずと理解できるはずだ。
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