カエリ

カエリ、返り、バリ、英語でBURR。

刃物を薄く研いで行くとある時点で薄さの限界が訪れる。
すると限界の段階でカエリが出る。
石やガラスは出ない。たぶんセラミック包丁でも出ない。

鋼材には粘りがあるので限界になった数ミクロンぐらいの厚みで研いでいる面と反対側にぐにゃりと曲がる、これがカエリの正体なのだが、石やガラスや焼き物はくっついているか分離するかのゼロサムなので、薄くなった部分が曲がるということが無いのだ。

鋼材も種類によってカエリに特徴がある。
ハイス鋼などの粉末冶金鋼で硬度が高く粒子が細かいものには、とても細かいカエリしか出ない。そして簡単に落とせる。
概して硬い鋼材のカエリほど簡単に落とすことができる。

ふつうの鋼材は数ミクロン~数十ミクロンぐらいの薄さでぐにゃっと曲がるのだが、柔かい鋼材は数十ミクロン程度の厚みで曲がり始めてしまう。
そういう鋼材では数ミクロン以下という薄い刃先を形成できないので、あまり良い刃にならない。
しかもカエリがなかなか取れない。
普通のカエリは研いでいる反対の面にささくれ立ったように出るので指で触ればザラザラするが、柔かい鋼材のカエリは指で撫ぜると柳の枝のように元の面に戻ってしまうので、触ってもカエリが出ているかどうか、またカエリが取れたかどうかもわからない場合がある。するとカエリが取りきれず切れ味も一層悪くなってしまうという悪循環。


そういう柔かいカエリの例。
001_20140428223907e3b.jpg

これは、野菜スライサーの替え刃。
002_20140428223906f1a.jpg

部分的にこういう嫌なカエリが出るけれど、普通のカエリのところもある。
どうもおかしいなと思って硬さを確認してみると、刃先の方だけ焼き入れされているのではないかという疑惑。
もしかすると量産ノコギリのような高周波焼き入れかもしれない。

ステンレスは機械制御した電気炉を使って流れ作業で熱処理できるから一本一本高周波焼き入れする方がコストがかかるのでは?と不思議に思ってしまうのだが、場所に寄って硬さの違いがあることは明らかだ。
考えられるのは機械に取り付けるネジ穴部分が熱処理で歪まないようにしているという可能性。ノコギリも刃先だけ高周波焼き入れするのは歪まないためじゃないかと思う。

機械の換え刃を研ぎに出されるお客さんは、メーカーにどれぐらいまで研げるか確認しといてください。
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包丁の反り

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超絶凄ワザ! 刃物対決後編

超絶凄ワザ!「前人未到の“切れ味”を目指せ」(後編)

刃物対決の後編である。
さて、どういう結果になるだろうか。

前回と同じく以下の通り略す。
【盛】=盛弘鍛冶工場
【福】=福田刃物工業


● 番組の進行

はじめにスタジオで前編のダイジェストを紹介。


-場面転換-
【福】工場映像。
 研磨方法を見直す。通常は台座から刃先を僅かに突き出して研磨するが、そうすると、刃先が少し反ってしまう。そこで台座の上に金属板を置き、金属板の上に削る刃物を置き、金属板ごと研磨することで刃先の反りを防ぐ。「共研(ともけん)」という方法。
実験し、切断に成功。
背景の暗いスロー映像で見ると、切断の瞬間に断面が赤熱し切った後に煙が上がっている。
より円に近い断面にするため様々な形状で試験。30種類を試す。しかし断面は円形に近づかない。


-場面転換-
【盛】鍛冶場映像
前回予告映像にあったM字型刃物を作成。
実験する。しかし切断に失敗する。

主役の父である平弘秋氏がアドバイス。

(父)「オレはやっぱり尖っとる方がいいと思う、」
(父)「尖っとる方が、、やっぱ抜からんことには切れんもん。」

(ナレーション) 日本刀の製法である鍛造の技、そこから生み出される鋼(はがね)のしなやかさを信じ、ひたすら鋭利な刃物を追い求めよ、父からのメッセージだった。刃の形は原点に立ち返り尖らせた。しかも、折れて砕ける寸前まで鋭く尖らせた。

(主役)「負けられないですね。」
(主役)「私が負ければですね、日本中の鍛造職人さんが、工業刃物よりも劣る刃物を作っているということになるじゃないですか。」
(主役)「絶対そうはならないように。」


-場面転換-
【福】工場映像
実験を重ねて切り口に傾向があることに気付く。鉄パイプの切り口が刃物形状と相似していることだ。「円には円」丸い刃先にすることを決める。しかしそれでは最初の切り込みが難しい。
そこでダイヤに次ぐ硬さを持つ超硬合金を使うことに。(おそらくタングステン・カーバイド)
しかし硬いものは脆いので割れるリスクが高まる。

(担当者)「一発勝負なので、硬いものに硬いもので切ったあとに、まあ後は砕け散っても、っていうつもりで、挑戦したいですね。」

(ナレーション)割れやすい超硬合金、硬い素材を切るには向いていないと言われてきた。もし鉄が切れれば刃物業界の常識を覆すことになる。


-場面転換-
スタジオ
両者の刃物を紹介。
【盛】は先端が槍のように鋭利、シノギ(※)はなだらかな曲面に見える。全体に鏡面研磨。
【福】は先端が半円形、シノギは角が立っている。平(※)はヘアライン仕上げに見える。

  《シノギ(鎬)=平の面と切刃の面の境となる稜線》
  《平(ひら)=刃物側面の平面部分》

勝負。
【盛】と【福】ともに、切断に成功。
両者とも初回の切断時よりかなり円に近い形状。【盛】は刃先が欠けるが【福】は欠けもヒビも無し。
断面画像で判定。国立長岡技術科学大学の永澤茂教授。
切り口の縦横比を割り出し、この値が1に近い方が勝ち。

結果
【盛】0.88
【福】0.69

よって盛弘鍛冶工場、平泰明氏の勝利。

ただしパイプの断面は福田刃物の方がきれいだった。


● 感想

負けた~~!!予想がハズレて残念。
ただ前回も書いたとおり、そば屋とラーメン屋がスパゲティーで対決するような企画なので、くどいようだがこの結果が会社や製品の優劣を示すものではないことは理解されたい。

【福】は紙の断裁刃物を得意とするメーカーである。断裁機の長くてまっすぐな刃を手作りするのは非常に難しい。長いだけならマグロ包丁や日本刀があるが少しでも刃線が曲がっていると紙が切れ残ってしまうからだ。コピー用紙の厚みはわずか約0.1mm。45センチとか60センチといった長さできっちり直線でなければならないのだ。長いものは私も研げない。専用の冶具が必要。

結果について考えてみる。

まず【盛】の切り口より【福】の切り口がきれいだった理由。これは側方から撮影したスーパースロー映像で想像できる。
【盛】は切断時に刃先が欠けて右斜め上方に飛び、刃先端が少し左に傾いてパイプに進入し、切断後に大きく左右に振動している。これでも割れなかったのは鍛造で得られた靱性(粘り)のおかげかもしれない。
一方【福】の刃物は欠けることなくまっすぐパイプに進入し、切断後もピタリと止まっている。

次に【福】が【盛】より変形していた理由。
予想が外れて悔しいので【福】の肩を持つが、これは判定方法にも問題があったのではないだろうか。
つまり、はじめは「円に近い方が勝ち」と言っていたのだが、円に近いことをどう判断するのか具体的には説明していなかった。そして縦横比が1に近いものを円に近いということにした。しかしこの方法では四角形と円でも縦横比が同じなら引き分けになる。
ところで【福】は刃の形状と切り口の形状が相似することに着目して半円状の先端を選択した。しかしよく考えてみると形状が相似していたのはパイプの下半分である。
縦横比で判定することがわかっていれば、見た目が円に近いということではなく、パイプを横に押し潰さないことを重視したかもしれない。
先端が尖っていると上半分の一点を押し込んでしまうが下半分も同じように押し込むから相殺されて縦の長さはあまり変わらずに済む可能性もある。いずれにせよ判定基準は刃形状の決定に大きく影響したと考えられるから、番組は予め正確に伝達しなければならなかっただろう。
あえて突っ込みどころの多い曖昧な判定にすることで明確な優劣評価を避けるという意図があったのかもしれないが。

【福】工場内における試験のスーパースロー映像で、切断の瞬間の断面に赤熱と煙が見られたことからすると、かなりの摩擦があることは間違いない。【盛】の鏡面研磨や蛤刃は有効だったと思う。刃が欠けないぎりぎりの形状にできれば断面はきれいだったに違いない。

両者の刃の厚み、刃先角、硬度、組織の断面画像をぜひ知りたいが、普通の人には意味がわからずつまらないだろうから仕方ないか。


面白かった。

次回はゴム対バネ。
ホッピングを使って対決するらしい。予告映像でバク転していたブツはおそらくフライバー、東京だと西荻窪の馬力屋さんというオートバイ屋さんで売ってます。
http://www.bariqiya.com/online-shop-flybar/
ちなみに高くて強力な製品の方がゴム使ってます。
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超絶凄ワザ! 刃物対決前編

NHK 超絶凄ワザ!

「前人未到の“切れ味”を目指せ」(前編)

機械管理で工業用刃物を製造している刃物メーカーと、伝統的な手法で主に包丁を製造している鍛冶屋さんが対決するという内容。

定められた条件で鉄パイプをより綺麗に切断する「斬鉄剣」の製造を目指す。(もちろん刀剣類じゃない。刀工以外が刀剣類を造ると銃刀法違反。)
勝敗の判定は鉄パイプが切れるかどうか。
両社とも切れた場合、パイプがより円に近い方が勝ち。

● 対決するメーカー

盛弘鍛冶工場
福岡県八女市 伝統的な手法で鍛造刃物を製造する鍛冶屋さん

福田刃物工業
岐阜県関市  最先端の工業刃物を機械管理で製造する刃物メーカー

● 切断対象
鉄パイプ(中空) 厚さ1.2mm 直径2.2センチ 鋼材・物性不明 机や椅子に使うもの

● 切断方法
「ニュートンのギロチン」と称する装置を使用。
高さ1.5mから鉄パイプに向けて刃物を落下させる。重さは一定。刃物の両端を把持して固定。鉄パイプは台座部分に置かれているだけでクランプなどで固定されていないように見える。

● 製作する刃物に関する条件
製作期間:1ヶ月以内、刃渡り:25センチ以下、厚さ:1センチ以下、材質形状:自由

● 番組の進行

・スタジオで「ニュートンのギロチン」に菜切り包丁(鍛造品)を設置して実験する。
結果、鉄パイプは折れ曲がるが切れない。菜切り包丁はちょうど刃境の深さまで大きく欠けた。
「切るには硬さが必要、硬すぎると折れやすい」
この矛盾をどう解決するか。

・盛弘鍛冶工場(以下「【盛】」という。)は、まず刃線が半月状で上辺が平らな刃物を製作する。パイプと同様の円柱状である巻き寿司を切る寿司切り包丁から着想。材質不明。

・一方福田刃物(以下【福】という。)は優先道路標識の下半分をなくしたような尖った先端を持つ刃物を製作。映像に映った鋼材には「SKD11」の表記。
接触面積が大きいと鉄パイプに通用しないと思った、まずは突き刺すためそういう形にしたとのコメント。
試験結果、刃物が折れる。欠けではなく折れた。貫通性能のため厚さ1mmと薄くにしたためではないか、とのこと。なお同社では何通りもの厚みの刃物を同時製作している。

・場面が変わって【盛】の刃物が完成する。
試験結果、パイプは折れ曲がっただけで切れず、刃はわずかに欠けた。

そこで新たな形状の刃物を製作する。【福】に似た先端が尖った形状。材質・厚みなどは不明。
これで再試験。
すると鉄パイプは見事に切断、しかし断面は半円状になる。
次の課題は断面をより丸に近づけること。

・次回に続く。
予告映像では【福】工場内での歓声、【盛】新しい形状(M字型)の刃物などが映される。


● 感想

まず、この勝負によって会社やその製品の優劣が判定されるわけではないということを理解しておきたい。
刃物を造っている会社にもそれぞれ専門がある。この企画は頑固オヤジのソバ屋と全国チェーンのラーメン屋にブラジル人が美味しいと感じるスパゲティを作る対決をさせているようなものなのだ。

勝負は【福】が勝つんじゃないかと予想。
どちらにとっても畑違いの新開発になるからだ。
最終的に勝つのはひとつの製品だが、発想と試作を多くできた方が有利。社員が何人もいて多くの着想を得ることができ、おそらく鋼材のストックも多様なものがあり、大規模な設備も揃っているので、厚みや硬度を微妙に変えた製品を相対的に短時間で作って多く試験することができるはずだ。
また【福】社のホームページで大きく番組の宣伝をしているのも怪しい。
ただ、いくつか問題もある。
鋼材については耐食性や耐磨耗性なんか関係なくて一発勝負で切れればいいんだから純度の高い炭素鋼でいいだろう。
微妙な温度管理で大量処理できる大掛かりな機械よりベテランが水焼きした方が精度を高められる可能性がある。
もし最終的な製品の形状や硬度が両社ともだいたい同じになったとしたら、低温鍛造した製品の方が粘りがあって強いはずだ。

寿司切り包丁の形状は日本刀の反りと考えれば衝撃を逃がすには有効かもしれない。
ただし寿司切り包丁の刃線が円弧状になっている理由はカツ切り包丁と同じで長い刃線全体を使って中を潰さないように切るためだ。実験のように押し付ける切り方をしては寿司切り包丁の意味が無い。

【福】の刃物が割れたのはおそらく一番薄いものだと思う。番組スタッフにとっては美味しい映像だっただろう。割れるほどギリギリの薄さの物まで試作できるのが【福】の絶対的アドバンテージだ。【盛】のような手打鍛造だと正解だと思うものしか作れない。

どんなになるだろう。
まず、そもそも鉄に食い込ませる必要ある。
力の量は一定なのでより接点を小さくするしかない。
しかし両社が作ったような尖った刃物だと力が集中する一点を中心にパイプを押し潰してしまう。

次回予告映像に出て来た【盛】のM字型刃物はマクドナルドのロゴの真ん中があまり出ていないような形状だった。真ん中の突起をまず突き刺して、円柱がつぶれないようM字の両サイド内側につけた刃に力を分散させるというアイデアだと思う。
刃が欠けずに切り込んでくれるのであれば、パイプのRとちょうど同じ径の刃物をブチ当てるのが一番力が均等に分散されて潰れにくいはずだ。
しかし接線が多いということは刃先Rを極端に小さくする(=鋭くする)必要がある。
すると欠けやすい。被切断物は鉄だし。

最終的にはよりバランスのいい形状と硬さを詰めることが出来た方が勝つと思うが。
後編が楽しみだ。
両方の刃物の分析と鉄パイプの斬れ方の解析をしてくれたら言うこと無しだ。


余談だが、日本刀でも試し斬りで兜割りをすることがあるので斬鉄剣は実在する。子連れ狼の拝一刀が使っている同田貫(どうたぬき)という刀が有名だ。本物の兜は焼入れした鋼なので番組の鉄パイプよりずっと難しいと思う。
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