焼き入れ

鉄に「焼き入れ」をすると硬くなる理由です。

鉄はFeという原子が集まった金属です。

Feが、常温ではこういう風に並んでいます。

taishin.jpg

サイコロの角と、真ん中に、Feの原子が並んでいる状態です。
これを「体心立方格子(たいしんりっぽうこうし)」といいます。
原子9個で1セットです。各辺の電子は隣のセットと共有されますが。


ちなみに原子っていうのはちょっと変な物体です。土星みたいなイメージ。中心にある原子核と周囲を周っている電子で構成されています。電子の軌道が、原子の種類によって二重だったり三重だったり、軌道上の電子の数が違ったりします。
土星と違って、いちばん外側の電子の軌道の大きさが原子の大きさということになっています。


さて、鉄を焼いて熱くしていくと、ある一定の温度になったときに、この原子の配列が変わります。

こんな感じです。

menshin.jpg

真ん中にあった原子が無くなって、サイコロの全ての面が1になったように、原子が並びます。
これを、「面心立法格子(めんしんりっぽうこうし)」といいます。
原子14個で1セットです。


面心立方格子になると、原子と原子の距離が離れます。

距離が離れるということは、鉄の塊全体としてみると、大きくなるのです。膨張する。

暖めると膨張する物はけっこうたくさんあります。
というか、実は全ての物質は暖めると膨張するんです。
これは、物質に熱を与えると電子なんかの運動が盛んになるからだそうです。


ただ、この鉄の「変態」は、だんだん膨らんでいくのではなくて、ある温度でいきなり原子の配列が変わって、ボンっとでっかくなるのです。


鉄炭素状態図


これは鉄がボンっと大きくなる温度と炭素含有量の関係図です。

青いところが体積の小さい体心立方格子で、赤いところが体積の大きい面心立法格子です。
体心立方格子の鉄を「フェライト」といったり「α鉄」といいます。
面心立方格子の鉄を「オーステナイト」といったり「γ鉄」といいます。

炭素を含まない純鉄では910℃、刃物の材料になる一定量以上の炭素を含んだ鉄では723℃(727℃と書いてる本もあります。)で、鉄は体心立方格子から面心立方格子に変身して、体積が少し大きくなります。
鍛冶屋さんが実際に体積が大きくなるのを見て確認できるのかは、聞いたことが無いので知りません。


ところで、炭素の原子は、大きさが鉄の原子の半分ぐらいしかありません。

鉄の配列が面心立方格子になると、鉄の原子と原子の距離が広がります。

その広がった隙間に、小さな炭素が浸入するのです。

電車の車両が広くなったので乗客がたくさん乗り込んできた、と思ってみてください。


「焼き入れ」というのは、面心立方格子になって炭素を取りこんだ鉄を、急冷して、炭素を取りこんだまま体積の小さい体心立方格子に戻す作業です。
真っ赤になった鉄を、水の中に入れて「ジューッ」と冷ます映像を、ご覧になったことのある人も多いと思います。

すると、お客さんの数はそのままで車両が狭くなってしまうので、電車はすし詰めの満員電車状態になってしまいます。
すし詰め状態になってしまうせいで、鉄の原子同士が動き辛くなり、硬くなる。
これが、焼き入れによって鉄が硬くなる仕組みだそうです。


前にも書いたかもしれないけど、「柔らかい」っていう状態には二種類あって、ひとつは原子なんかの結合力が弱いということ。こういう意味で柔らかい物は、小さな力でボロボロと崩れてしまいます。もうひとつは原子と原子の距離が伸び縮みするということ。こういう意味で柔らかいものは、伸びたり縮んだり曲がったりします。

そして純鉄は、かなり伸びたり縮んだり曲がったりする柔らかい金属なんだけど、焼き入れすることによって原子が動けなくなって、硬くなるのです。


常温の鉄の原子配列(体心立方格子)
体心立方格子


↓これを熱して723℃を超えると原子同士の距離が広がる(面心立方格子)

面心立方格子

↓その隙間に炭素が浸入する(実際にはもっと量が少ないけど)

面心立方格子_炭素

↓急令すると炭素が入り込んだまま原子の距離が縮まる

体心立方格子_炭素


結果、Feの原子(青)が動き辛くなる=硬くなる



ちなみに急冷じゃなく徐冷すると、炭素が鉄の格子から押し出されて、鉄の層と炭素の層が分かれた組織になります。
車両の中からお客さんが出て行ってしまうわけですね。だから硬くなりません。


多くのステンレス鋼は空気で徐冷しても焼きが入るそうです。鋼材によって焼き入れのしやすさが違います。

YSSだと、白紙がいちばん焼き入れがシビアで、水焼き入れしかできないそうです。
青紙はクロムとタングステンを配合することによって焼き入れ性を向上させているので、油焼き入れができます。油で冷却すると冷却スピードがやや遅くなりますが、焼入れに失敗する率が減ります。「油焼きは甘い」という人もいるようですが、研いでても違いはわかりません。一般家庭の人も感じにくいと思います。毎日大量に調理をする料理人さんならわかるのでしょうね。
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