砥石

● 砥石についてちょっと書いてみる。
だけど残念ながら、私にとっての砥石の良否は必ずしも一般の方のニーズと同じではない。それに、あまりたくさんの種類の砥石を使ったことが無い。だから、十分に役立つアドバイスはできないと思う。
とは言ってもたくさん研いだ経験はあるので、あまり砥石に詳しくない人たちに対しては多少役立つかもしれない。
だから前提を明らかにしながら、砥石について感じていることを書いてみたいと思う。


● まず、研ぎ師はいろんな種類の砥石を持っている。おおまかに荒砥石と中砥石と仕上砥石の三種類。包丁と砥石の相性というのは確かにあるんだけど、合わなければ別のを選べばいい。中砥で滑るなら荒砥に戻せばいい。
ところが荒砥石と中砥石と仕上砥石、それに砥石を修正するための面直し砥石の、使い勝手のいいのを揃えると、2万円ぐらいはかかる。
これを買いなさいと一般の人に薦めるのは違うだろう。


● 砥石は大きい物がいい。素人ほど大きい方がいい。厚みはともかく、砥ぐ面が広い方がいいのだ。しかし大きい砥石は値段が高い。そこで、だいたいだけど、縦20センチ×横7センチ程度はあった方がいいとしておく。
私はもっと小さいのを旅行に持っていったりして使うけど、上手になって砥石のどの面に包丁のどの部分をどういう角度で当てるかといったことができないと、小さい砥石は使いにくいのだ。


● 一本だけという場合は中砥石。
ただ、私は仕上砥石を持ってるし包丁は仕上砥石をかけずに仕舞いにすることは無い。それを前提として選ぶ中砥石と、中砥石だけで仕舞いにするという前提の中砥石では、向いている物が異なる。

たとえば今私の手元にある中砥石は、ベスターの#700、同#800、同#1000、同#2000、シャプトンの#1000、シャプトンの#1500、それにメーカーも番手も不明なのが一本。天然砥石だと丹波の青砥と天草砥の白も中砥石に該当するだろう。
この中で全く使わないのはシャプトンの#1500とベスターの#1000。
シャプトンは長時間水に漬けていると基材が軟化するのだ。プロは一日何時間も研ぐから水にドどぼんと沈めていなくても軟らかくなってしまうので、残念ながら使えない。
シャプトンの#1000(オレンジ)は一般の人にはお薦めできる。
逆にベスターなどの多くの砥石は、20~30分ぐらい水に漬けておかなければ使えない。水をかけてもすぐに染み込んで表面が乾いてしまうからだ。忙しい人は面倒くさいでしょう。私は毎日使うから水に漬けっぱなしで保管してるけど。シャプトンは表面に水をかけてすぐ使えます。

ベスターの#1000、シャプトンの#1500を使わないのは、中途半端だから。
ちなみに#1000とか#700っていうのはメーカーの公表値にすぎません。客観的な基準は無い。
#1000は「センバン」と読む。1インチ(2.54センチ)四方のフルイに切った升目の数が幾つあるか、ということ。砥石の中には包丁を研磨する小さな砥粒が入ってるんだけど、それをフルイに掛けて最大サイズを決める。#700は1インチ四方に700個並ぶ大きさの砥粒で、#2000は2000個並ぶ大きさの砥粒という意味だから、数字が大きい方が目の細かい砥石。
うろ覚えだけど確か#400ぐらいまでは工業規格あたりで基準がある。だけど#1,000とか、仕上砥石だと#10,000なんていうのがあるけど、こんなのになると正確に測れない。最先端技術を使えば測れるのかもしれないけど、たぶんコストがアホみたいに高くなる。1インチ四方に千個とかも1万個の穴が開いたフルイなんて無いから。
メーカーが違うと同じ#1000でもかなり違う。大まかな目安でしかありません。

それで、私はプロなので仕上砥は必ずかけるから、ベスターの#700とか#800とかシャプトンの#1000なんかがサクサク削れて好きなんだけど、中砥だけで仕舞いにするとしたら、ちょっと荒い気もするのだ。

もし一本だけしか持てないとしたら、もしかするとベスターの#1000やシャプトンの#1500がイイ!と感じるのかもしれない。これについては何とも言えない。
言えるのは、#5000以上の仕上砥石で仕上研ぎする前提において中途半端だということだけだ。

キングの砥石は使ったことが無いが、「ステンレス包丁を研ぐと滑る」という評価を見たことがある。もしかするとこれも#700ぐらい(があれば)を使えばいいだけのことかもしれない。


● 仕上砥石はシャプトンの#8000と大谷砥石の北山(#7000~#8000ぐらい)と、もうちょっと細かい人造砥石、それと天然砥石を何本か持っている。
天然砥石は特殊な目的以外ほぼ使わない。必要無い。面白いけどね。ともかくコストパフォーマンスが悪い。
シャプトンの#8000もほぼ使わない。好き嫌いの問題で。
基本は北山。細かいけど硬すぎず、滑るといわれるステンレスでもよく研げる。砥石の減り方と鉄の減り方のバランスがいい砥石です。
仕上砥石は密度が高くて水を吸わないから、水に漬けとく必要が無いので、北山は一般の人にもお薦めします。
北山で不足する理由がある場合だけ他のを使う。あんまりそういう機会は無いですね。表面を磨くときは小割れや耐水ペーパーやバブを使うし。


● 荒砥石は実用刃物の研ぎ師が最も多く使う砥石です。荒砥の作業はグラインダーでやる人も多いけど。
だけど、自分の包丁を荒砥石で研ぐことはほとんどありません。荒砥石を使うとすぐ包丁が減ってしまうから。そもそも荒砥石が必要になる前に研ぐから。
だけど、お金を払って研いでほしいと依頼される包丁はほとんど荒砥石が必要な状態なので、仕事では荒砥石を使う機会が多くなるわけ。荒砥石でベースをきちっと作れば中砥石や仕上砥石の仕事は簡単です。
荒砥石はみっつ持ってます。今西製砥の「あらと君」と、メーカー不明のC系の荒砥(黒い)と、メーカー不明のGC系の荒砥(緑色)とシャプトンの#220(モス)。
この中では緑色のやつだけほとんど使わない。もったいないからできれば何とか使いたいんだけど、大して研削力が強くないくせに基材が柔らかくてちょっと研いだらすぐに変形するから、イライラして使ってられません。デッドストックになってしまっています。
貰い物なのでどこの砥石かわかりません。
シャプトンもちょっと使うだけならいいんだけど、長時間使うとフニャフニャになるのでやっぱり使えません。シャプトンは薄いって問題もあります。
あとの二つは好きです。なるべく変形しにくくて、研削力が強いことが、良い荒砥の条件です。そういう意味ではシャプトンの「空母」というのを一度使ってみたいんだけど、三丁掛けのあらとくんが10本買えるお値段だということがネックです。電着ダイヤが果たしてそれだけ仕事をしてくれるのか。


● 最後に砥石の平面をなおす面直し砥石。
シャプトンの「なおる」と、たぶん今西製砥だと思うけど「水平君(大)」。「なおる」は平面をきっちり出す必要があるときだけ使う。硬い鋳鉄なので平面に磁力は高いけど、金剛砂が必要なのでコスパが悪いんです。「水平君(大)」はそろそろ溝が無くなって限界だけど、無くなったらまた買います。どっちもちょっと高い。
ほかに、昔買った安い面直し砥石が2本あるけど、どっちも使い物になりません。
面直し砥石は安い物でも高い物でも硬くて変形しにくいけど、安い物はサイズが小さい。買うなら砥石より大きい物を買いましょう。「水平君(小)」はお薦めしません。砥石の小さい物は腕を上げれば使えますが、平面を修正する面直し砥石の小さい物はどうにも使えません。


とりあえず現在のところ砥石についてお話ができることはこんな感じでしょうか。
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Re: タイトルなし

粉屋さん、返信ありがとうございます。

ご紹介いただいたいサイト拝見しました。
ふるいの規格を見てみました。いちばん細かいものが、20μmで、最大許容誤差が、14μmなので、#500ならふるいで選別できることになりますね。1000番ぐらいでもだいじょうぶなのかな?

ちなみにわたしも砥石の粉を美吉野紙でろ過することがあるのですが、すぐに目詰まりして効率良く作業できません。
低コストで効率よく選別できる方法があると嬉しいんですが。

お返事頂いたのに、遅くなり失礼しました。
こちら、金網メーカーさんのHPです。
http://www.twc-net.co.jp/products/genre/WireCloth/
私も初めて見たのですが、こんな感じで織機で編んでおられる様です(別のメーカーさんですが。)https://m.youtube.com/watch?v=GWNGFpXCta8
なお、さらに細いものや精密な穴形状にしたい時は、電気鋳造と呼ばれるメッキの様な方法による一体型の網も造られています。
http://www.scilab.co.jp/product/vacuum/05.html

ただ、細いメッシュが造れても、実際に篩い分けると詰まったり時間がすごく掛かるので、砥粒の場合は、遠心分離に似た方法で分級されていると思われます…。

Re: タイトルなし

粉屋さん、コメントありがとうございます。
穴の数じゃなくて一辺の針金の本数なんですか。知りませんでした。教えていただいてありがとうございます。
何かのサイトや本で定義が書かれているところがあったら、ぜひ教えてください。

針金の太さについては、5000番とか1万番みたいなのもあるので、現実にそんな篩は存在せず理論値だろうと思っていました。
100番でも1インチに100本てむちゃくちゃたいへんそうですw

研ぎに関して色々と勉強させて頂き、ありがとうございます。
粉体を扱う仕事をしている者です。
篩い網の番手は1インチの1辺を構成する針金の本数ですので、網目の個数としては、縦×横の2乗になるかと思われます。
また、網の針金の線径(上記ピッチの4〜5割)がありますので、実際の目開きは更に小さくなります。例として#100の場合ですと、25.4/100=0.254mmの6割程度の0.17mmが、篩いを通過するおよその粒子径となります。
ご参考まで。
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