裏スキをつくる。

ヒデさん、裏スキの作り方、ご質問ありがとうございます。

めんどくさいけど前振りからさせてもらいます。


前振りここから***

マストで裏スキがなければならないのは、ハサミです。安いハサミは無いのが多いんですけどね。植木系のハサミも高くても無いのが多いですが。
布用の裁ち鋏、理美容用のカット鋏。すごく薄かったり細い物で、且つ、柔らかい物を切る鋏は、裏スキが無いと役に立ちません。紙は薄くても布より張りがあるから切りやすいのです。柳のようにフニャフニャしてるものをしっかり掴んで切るのが難しいです。

大工道具も裏スキはかなり大事です。
和包丁は薄刃包丁以外はアバウトでもそこそこ使えます。薄刃包丁も大根の桂剥き以外の用途なら、つまり菜切りと同じように切れればいいだけなら、そこそこ使えます。

裏スキについてはこちらに書きましたが、まっ平らな状態をきっちり維持するために便利な構造なのです。まっ平らな面とまっ平らな面の接点は正確な直線になります。

カンナは刃線が0.1ミリ狂うと50センチの材木で数センチの狂いになり、それを寄せ集めて組み立てた建築物もまた狂う、という塩梅なので、まっすぐであるということは鬼のように大事なことなのです。数寄屋造りの茶室なんかもうタイヘン。

それと比べると包丁は、扱う食材がそもそもまっすぐじゃないですから。
刺身引くにはまっすぐな方がいいけど、しょせん最終形は10センチ弱ぐらいのもんです。1ミリぐらい狂ってもお客さんはほとんど気になりません。もともとぐにゃぐにゃしてますしね。
そういうわけで、直線でなければぜったいダメというのは桂剥きをする薄刃包丁ぐらいなのです。
もちろん他の包丁もまっすぐな方がいいですよ。
だけどちょっとぐらい曲がってても腕でカバーできるんです。
そして和包丁は経年で反ってしまうものがけっこうよくある。お値段の高い本焼き包丁でもS字にグニャグニャ曲がっちゃうようなのがあるそうです。中には治せる物もあるけど、残念ながら治せないものはいっぱいある。治せません。
すると、反りがごっつい包丁のは裏スキなんかに拘っても意味が無いのです。
だから、反ってる包丁の裏スキはわざわざ作らない物も多いです。

あとはステンレス系の和包丁。
和包丁の形をしてるんだけど、裏スキを作ろうという努力は垣間見えるんだけど、裏押ししてみると全面がベタっと当たって裏スキが無い。
こういう包丁は裏をベタに当てても刃先が浮いちゃってる場合、つまり事実上両刃みたいになっちゃってる場合は、平面になるまで研ぎますけど、裏スキを作るということまではしません。だってタイヘンだから。
裏が平面で、裏押ししてカエリが取れれば、とりあえず用は足りるはずです。
タイヘンというと「ガンバレヨ」と思うかもしれませんが、こっちも商売です。タイヘンということは「時間ガカカリマスヨ」ということで、それだけお代を頂戴できるなら喜んでやらせて頂きますが、2時間以上かかるから」6千円頂きますというご提案は現実的じゃないのです。10万円の本焼きならそれでもやりましょうかと言いますけどもね。

堺の包丁研ぎ屋さんでおっきなグラインダーを使ってるところ、そういうとこが、短時間でもっとリーズナブルにやってくれると言うなら、手作業でやる私よりもそちらにお願いされるのが吉です。しかし中途半端に機械を使う研ぎ屋に和包丁の裏なんか弄らせてはいけません。壊されます。上手な人とヘタクソとを簡単に区別する方法は、私は残念ながら知りません。

ハガネの和包丁でも安いのとか小さいのは裏スキが浅かったりベタに近いのがあります。
有名なとこの高い和包丁は裏スキをはじめ構造・形状がしっかりしてます。写真で見てもわからない。手で触っただけでもはっきりしないけど、砥石に当てると違いは歴然。


前振りここまで*****


さて本題は裏スキの作り方です。

私は完全に手作業です。

こちらの記事と、こちらの記事のハサミは裏スキを作りました。画像にある砥石の小割れで、ゴリゴリ削るのです。

和包丁では、先日の記事の一竿子忠綱の薄刃も同じようにゴリゴリ削りました。
これは裏スキを作る目的じゃないけど、やってることは裏スキを作る作業と同じです。とにかく削って凹ませるのです。荒砥の欠片でゴリゴリ整形する。そして中砥、仕上砥と細かい砥石に変えて研ぎ目を細かくしていく。そういう作業です。
残念ながら、良い砥石の欠片というのが売ってません。100均で売ってる荒砥石なんかもそこそこ使えますけど、研削力なんか比較して総合的にイイナーというのはなかなか無いです。私はいっぱい砥石を使うので薄くなった研削力が高い荒砥石を割って使えるんだけど。
リューターはぼくには無理でした。ガタガタになります。刃物をがっちり固定して手もブレないように工夫できれば機械も使えるかもしれません。グラインダーでもできるかもしれません。ぼくはヘタなのでできません。
そもそも和包丁の製造段階ではでっかい回転水砥石を使ってるわけですが、あれだってグラインダーの一種です。

機械を使うことの問題は、リューターやグラインダーの場合熱を持たせすぎると焼き戻りで軟化するということ。使えないレベルのなまくらになるのはよほどデタラメな作業ですが、200度を超えるぐらいで硬度は落ちはじめるようなので、使えないわけじゃないけど実はもとの切れ味より落ちるという可能性はあります。

それから、研削力が強いため削りすぎてしまうことのリスク。裏から削ってハガネを貫通してしまったら片刃包丁はオシマイです。これは裏の深い錆を落とすとき特に神経質になることですが。たぶん1ミリ以下じゃないだろか、という薄さまで責める物もあります。そういうレベルだと手作業じゃないとムリです。
製造段階では回転水砥石を、と書きましたが、裏スキは火造りの段階ですでに造ってます。
鍛冶屋さんが、焼き入れする前に形状としてすでに裏が凹んだ状態にしています。新品の研ぎの段階では磨くというべき作業です。焼き入れ後に裏スキを造るという作業自体はイレギュラーなことだという前提は念頭に置いててください。

ともかく熟練が必要です。
熟練するためには練習するしかないわけで、練習段階では熟練じゃないわけですが。
練習用にオークションで捨て値で売られてる錆だらけの片刃合わせ包丁を買ってみるとか、してもいいんじゃないでしょうか。ぼくもそういうとか廃棄予定の貰い物みたいなので試してみましたが、「ボクニハムリ」と今のところ思ってる口です(笑)
作業時間はかかるけど、熟練してなくても危機的な失敗をしにくいのは手作業です。
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Re: 出刃包丁についてお教えください

吉祥さんコメントありがとうございます。
返信遅くなってすみません。

片刃で手打ちの和包丁は、裏が多少反っていることはよくあると思います。
理論的には裏が平面で表の切刃も平面であれば、その接線が直線になります。
ノミやカンナは曲がった刃で建材を削ると平らにならず寸法が狂ってしまう可能性もありますから、かなり厳密性が求められます。
そういうものとくらべると、出刃包丁はわりとアバウトでも支障はないんじゃないでしょうか。
飾り物ではないのではなく実用のものなので、機能的な面で考えるべきだと思うのです。

片刃の和包丁が多少反ってしまうのは構造的にやむを得ない問題ですが、反らないものも中にはあります。
何ヶ月も時間をかけて徐々に内部応力が開放されて曲がっていってしまう、というものもあります。

同じ鍛冶屋さんが同じ鋼材でつくって、あるレベル以下は失敗作としてハネる、製品にするものの中で、出来のいいものから、高いグレードに割り振っていく、というようなことが行われているようです。
どの程度ならハネるのかは経験によります。
堺の包丁みたいに分業で複数の業者がかかわってるもののほうが、鍛冶屋さん、問屋さん、販売店と、いろんな段階で目利きされるので、使えないようなレベルのものはないだろうという期待値は高いです。

本焼き黒檀銀巻きで10万円以上、みたいな包丁を、鍛冶屋さんを指定して注文打ちで作ってもらうなら、僅かな歪みにもクレームつけていいと思います。
そういう注文だと、鍛冶屋さんによっては「影打ち」といって同じ仕様のものを二本作って、出来の良い方を納品したりします。内部応力の開放による歪みも考慮して、熱処理のあと半年以上寝かせてから仕上げるとか。
だから、本当に完璧なものをもとめると、時間もお金もかかります。

私のような庶民はそんなすんごい包丁を打ってもらうことはありませんから、信用のあるお店なり鍛冶屋さんで買うしかないのかなと思います。
少なくとも手打ちで片刃の和包丁に関しては、私は必ず、同じグレードの包丁が何本か並べてあって、その中から自分で選んで買えるお店で、実際に品物を手にとってみて購入します。通販では買いません。東京なので築地に行きますね。信用できるお店が何件もあるので。
量産の洋包丁なら個体差は少ないので通販でいいです。手打ちでも、両刃で割り込みのものならあまり問題はないと思います。

ネットでむちゃくちゃ安く売ってるお店があるんですが、そこで買ったという新品の包丁を刃付してほしいと持ってこられたことがあります。出刃包丁は歪みがとんでもなかったです。刺身包丁はあきらかに刃付けの段階の研ぎで失敗して大きく削ってしまった痕跡がありました。ショットブラストでごまかしてましたが。
もしまたおなじ銘の包丁が研ぎに出てきたら、倍以上研ぎ代をもらうと思います。
鍛冶屋さんがハネた品物を集めて売ってるんだと思います。

手打ちの出刃包丁で15センチぐらいだと、1万円はけっこう安い方です。
使えないレベルでなければ、ちょっとぐらい歪んても仕方ないんじゃないかなという気はします。
それでもできるだけ形のきれいなものがほしいので、私は刃物店で実際にモノを手にとって選んで買うわけですが。

出刃包丁についてお教えください

はじめまして。 いつも勉強させていただいております。
一万円で購入した出刃包丁について、質問させてください。

包丁の裏を砥石に当てると、カタカタするので、広い平面の上に乗せて
観察してみましたら見事に切っ先が反っていました。 自分の浅い知識
では、アゴから切っ先までベタっと平面だと思い込んでおりましたので、
加治屋さんに恐る恐る問い合わせましたところ、「うちは一本一本手作
りでやっているから」とさも当然なことのように言われました。

そういう考え方の鍛冶屋さんから買ってしまったのだから、しかたありま
せんし、研いで研げないことはありません。ただ、気持ちの問題だとい
うことはわかっております。 が、やはり裏は真っ平らで使いたいと思い
ます。 砥石で少しやってみましたが、即あきらめました。 グライン
ダーでやると熱の問題が心配ですが、このまま気持ち悪い状態で使う
気にもなれません。 この包丁の利用の仕方で何かアドバイスを頂け

ませんでしょうか。 よろしくお願いします。

Re: タイトルなし

そうですね。
「包丁と砥石」にも、裏押しするときを除いて裏は仕上砥石しか当ててはいけないと書いてます。
裏を削って掘るというのはかなりイレギュラーな作業だから、とにかく、それが必要にならないよう注意して作業しましょう。

勉強になります、かなりむずい作業ですね
裏スキがなくなりかけてる包丁が、何本かあります、かなり使い込んだやつなんで、思い入れもあり、現状で引退させてあげます

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