ハサミの刃角度

ハサミの刃角度はどれぐらいが適当か。


まず刃物全般について、刃角度が鋭いほど切れ味が良く、そのかわり強度は弱いので欠けやすくなったりする、といった一般則がある。

刃角度が鋭いほど切れ味がいい理由は刃体の斜面にかかる抵抗が小さくなるためだ。
切断する対象物の結合を解く力は刃先の厚みに反比例する。これについて刃角度は無関係だ。

分厚い出刃包丁で大根を真っ二つに切ろうとしてもなかなか切れず、無理をすると割れてしまうが、表面を浅く傷つけるだけなら出刃包丁でも牛刀でも大した違いは無い、という理屈。


しかしハサミというのは独特な刃物なのである。
対象物を切るだけでなく、二つの刃体で対象物をしっかり捕まえて、切れるように圧力を加えなければならない、という条件がある。
挟まれた対象物は刃体を縦横方向に開くベクトルで反発するので、刃体にはそれに負けない程度の剛性が必要だ。

また、刃角度が鋭すぎるとハサミには刃体同士が噛み合って閉じなくなってしまうという問題もある。

さらに、ハサミでは通常あまり分厚いものを切らない。
対象物に厚みがないということは斜面抵抗はほとんど関係ないということだ。
紙も布もビニールも髪も厚さ1ミリも無いようなシロモノなので、大根を切るときのような斜面抵抗はほぼ無い。


以上のような理由から、ハサミについては刃角度が鋭いほど良く切れるとは言えない。
刃角度に配慮したり切刃を蛤刃にした方が良いのは、樹木の枝を切る鋏ぐらいだ。

理美容シザーには蛤刃が多いが、ほとんど意味は無いはずだ。

私は理美容シザーの研ぎ機を持っているが、これには刃角度を35度から50度まで設定する機能がついている。しかし35度にしても50度にしてもほとんど切れ味の違いは感じない。
私はほとんどこの機械を使わないので自分が研いでいる刃角度が何度なのか厳密にはわからない。


人毛の太さは80ミクロン(0.08mm)前後だそうだ。
刃角度で抵抗が増えるのはたった80ミクロンの幅だけ、ということである。
刃角度が35度と50度で抵抗力が変わるとしても0.01グラムとかいう感知困難なレベルに違いない。

裏付けになるデータが無いか調べていたところ、
理美容鋏の切断特性と切れ味の定量的評価に関する研究
という論文が公表されていたのを思い出したので見直してみた。


刃角度と切断荷重のに関するデータもあり、次のように書かれていた。

「図から結論づけられるように刃角度と切断荷重との関係は上式のタンジェント曲線とよく一致する.」

図を見ると、刃角度35度と比較して45度ではおよそ30%、50度ではおよそ80%も荷重が大きい。

小さな荷重とはいえ、計測すればこういう結果になるのか。
これにはちょっと考えさせられてしまった。

たとえると、特売のモヤシがA店では10円、B店では13円、C店では18円、で売られているのと同じようなことなのだ。

一般家庭で使う分にはたくさん買ってもせいぜい3袋だ。
多くても30円と54円の違いにしかならない。
スーパーまで大排気量の車で買い物に行くのを自転車にすれば節約できるような金額だ。

しかし業務用に毎日100袋買うお店では1日で2400円、30日で7万2千円、365日だと87万6千円という差になる。

理容師や美容師やトリマーさんは毎日何万回も鋏を開閉するという。
腱鞘炎が職業病だと聞くから、そういう人にとってこれだけの荷重の差は馬鹿にならないだろう。


裁ち鋏を腱鞘炎になるほど開閉して使う縫製関係の職人さんは聞いたことが無い。
植木関係でもそう。
理美容師やトリマーという職業は、ハサミを使う職人さんの中でも特殊な部類のようだ。
5万円以上もするシザーが普通、というのも、強ち無意味では無いのかもしれない。

私は、試し切りはするけれど何千回何万回と髪を切ったときの疲労まではチェックできない。
また、角度を浅くすると耐久性が低下する可能性もある。そういったネガティブ要素についても検討すべきだが、実験データを見たことが無い。

私がハサミを研いでいる角度は、基本は元の鋏なりの角度で、そうでなければだいたい40度ぐらいで研いでいると思うけど、これでイイノダ!という自信は無い。

ハサミの刃角度についてご意見や情報があったらぜひご一報ください。
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