天然砥石のこと

あまり使わないのだが、天然砥石について調べる機会があったので記事にしておく。
素人なので誤記もあろうかと思うが、見つけたらご指摘願いたい。


○ 岩石の成り立ち

地球は宇宙の塵が集まってできた惑星だ。岩石もやはり宇宙の塵が元となって形作られている。
地球が生まれたのは約46億年前と言われているが、原始の地球は太陽のように高温の塊だった。それが冷えて固まった物が初期の岩石である。


○ 岩石とは?

岩石とは、
・いろいろな物質が雑多に寄り集まっている
・ある程度大きさがある
・固い
という物質である。

岩石と区別される塊に、鉱物や金属、鉱石がある。
鉱物は結晶化した固体物だ。たとえばダイヤモンドや水晶が鉱物である。金属も鉱物に含まれる。鉱物のなかから金属元素を精製したものが一般に金属と言われるものだ。
鉱物を多く含む岩石のことを特に「鉱石」という。
岩石の一種が「鉱石」であるが、鉱石の中に含まれる鉱物は岩石とは言わない。
岩石の中に鉱物が少量含まれていることはある。


○ 岩石の大分類 火成岩・堆積岩・変成岩
 
まず、宇宙空間のガス雲が冷えてドロドロに溶けた状態になり、更に冷えて固まって最初にできた状態の岩石を「火成岩」という。
火山噴火で噴出した溶岩が固まったものが火成岩である。宇宙から地表に落ちてくる隕石も火成岩だ。

火成岩と異なる方法で作られた岩石に「堆積岩」がある。
堆積岩とは文字通り、いろいろなものが堆積して固まってできた岩石である。
火山の溶岩が固まった岩石は火成岩であるが、噴煙が降り積もって年月を経て固まった岩石は堆積岩である。
このほか、川の河口や海底に長い年月をかけて砂や泥が堆積して固まったものも堆積岩である。

このほかにもう一つ、「変成岩」というものもある。
変成岩は元々の岩石が熱や圧力の影響で再結晶化するなど構造変化してできた岩石だ。火成岩が変成した変成岩もあるし、堆積岩が変成した変成岩もある。


○ 天然砥石はどんな岩石か

天然砥石は堆積岩ないし堆積岩をベースとする変成岩が多い。火成岩は少ない。火成岩は溶岩が固まった物なので砥石としては硬すぎるようだ。
堆積岩に分類されるのは、京都産の各種合砥(仕上砥石)丹波の青砥(中砥石)、愛知県三河の名倉砥和歌山の大村砥九州の対馬砥、平島砥、天草砥などである。
アメリカのアーカンソーストーンも日本のサイトでは堆積岩に分類されていたが、アメリカの地質学のサイトでは変成岩に分類されていた。変成岩と堆積岩は区別が曖昧なものが多い。京都の合砥も変成作用を受けている。
火成岩に分類されているものには愛媛県の伊予砥群馬の沼田砥上野砥などがあり、風化して脆くなったものが砥石として使われているようだ。



○ 砥石の条件

砥石は研磨の役割をする「砥粒」とその砥粒を結合させている「基材(結合材)」で出来ている。
砥石として使用することができる岩石の条件は次の二つだ。

・基材が適度な硬さであること(柔らかすぎず、硬すぎない)

・砥粒が粗すぎないこと


火成岩の大きな問題は基材が硬すぎることだ。硬すぎるので刃物をこすっても表面で滑るだけで研げない。
伊予砥や沼田砥については“風化した”火成岩とわざわざ説明されているが、火成岩の中でもかなり柔らかい種類なのだろう。
堆積岩には柔らかすぎる物も硬すぎる物もあり、絶妙な硬さの物が砥石として利用されている。


○ 堆積岩の粒子

堆積岩は含まれる粒子の大きさで、礫岩(れきがん)砂岩泥岩に分類できる。
前から粒子が大きい順である。

砥石に使われるのは砂岩の中でも粒子の細かいものからだ。
砂岩の砥石には、千葉で採れる銚子砥、長崎の平島砥(大村砥)、和歌山の紀州砥(紀州大村砥)などがあり、いずれも荒砥石である。

中砥石以上はより粒子が細かい泥岩で、泥岩の中でも特に粒子が細かいものが仕上砥石である。
個々の砥石の分類を調べると「粘板岩」とか「頁岩」と書かれていたりするが、粒度で分類するとどちらも泥岩の一種といえる。


○ 微粒子の堆積

堆積物は火山灰でも川の流れに乗った土砂でも、大きいものから先に落ちていく。
ということは、堆積岩は粒子が細かいほど陸地から遠く離れた場所に堆積して出来たと予想されるのである。
また、粒度が細かい堆積物ほど一定の厚さになるのに時間がかかる。

粒度の細かい京都産の合砥(仕上砥石)は、フィリピン沖の深海に約2億5千万年ほど前に風塵や微生物の死骸が堆積してできたと考えられている。

1ミリ堆積するのに1000年かかるそうだ。

厚みが5センチの合わせ砥石は、約5万年間いちども砂ほどの大きさの粒も落ちてくることなく、ひたすらプランクトンの死骸やPM2.5のような極小の風塵だけが堆積し続けた成果ということになる。
それを考えると恐れ多くて面直しで減らすことも憚られる。


○ プレートテクトニクスと付加体

ついでにフィリピン沖から京都までやってきた道程についても触れておこう。
地球の表面はいくつかの大きなプレートに別れている。
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/b4/Plates_tect2_ja.svg

そして、それぞれのプレートは地下のマントルの動きによって少しづつ移動している。

日本はご存知のとおり四つのプレートのちょうど境界あたりに位置している。
最近話題の南海トラフは西日本が乗っかっているユーラシアプレートとフィリピンプレートの境界にできた海溝で、東海あたりから沖縄の方向に伸びている。
http://www.city.sakaide.lg.jp/site/bousai/jisin1.html

約2億5千万年前にフィリピン沖の海底に積もった堆積物がフィリピンプレートに乗って徐々にユーラシアプレートに近づいてきた。
フィリピンプレートは南海トラフで地下に沈み込む。
しかしプレート表面の一部の土砂は、ユーラシアプレートの端にひっかかって剥がされて、ユーラシアプレートの一部になってしまうのである。
このはがされた部分のことを「付加体」という。
http://www.s-yamaga.jp/nanimo…

以上の内容をわかりやすくアニメーションで説明しているサイトがあったので紹介しておく。
http://www.geocities.jp/p451640/・・・

京都の砥石はつまり、この付加体である。

日本のかなりの部分が付加体なのであるが。
その中でも特に砥石として優秀な性質を持つ層が京都にひょっこり顔を出したということだ。
昭和初期には砥石の採掘場が全国に900箇所もあったという記録があるそうだ。
日本の地表で採れる砥石についてはかなり調べられているのだろう。
その中でも奇跡的な条件下で形成された優秀な砥石が京都の合砥なのである。


○ 天然砥石と人造砥石

人造砥石の多くは天然砥石を模して人工の基材(結合材)に人工の砥粒を混ぜて作られている。

刃物を研ぐという行為はおおまかに整形と刃付けないし研磨の二つに分類できる。荒砥石は整形、中砥石は整形及び刃付け、仕上砥石は刃付けの役割を担う。

荒砥と中砥が担う整形については、人造砥石の方が天然砥石より優れた物があると思う。整形には研削力が強く形が容易に崩れない砥石が良い。ということは、基材は変形しにくく砥粒は研削力が強い方が良いということだ。
一方、仕上げで微妙な段階になると、人造砥石は未だ天然砥石にかなわない。

人造砥石にも優れた仕上砥石は多い。しかしカンナや剃刀をすごい切れ味に仕上げるときには天然砥石に及ばない。
人造砥石の砥粒の大きさは、超仕上げ砥石と言われる#8000でも2~4ミクロンである。
砥粒にはアルミナや炭化珪素と言われる物が利用される。
人造砥石の研削力が優れているのはこれらの砥粒が硬いからだと思う。

天然砥石で砥粒の役割をするものは一概にこれと特定できないかもしれないが、おそらくコノドントのような微化石や珪素だと考えられる。
しかしこれらが#8000の超仕上砥石よりずっと小さいわけではないだろう。
炭化珪素ほど硬くはないので、研いでいるうちに破砕して小さくなったり角が取れたりすることで、より細かい研ぎができるのではないかと思う。

天然の仕上砥石では、砥糞を流さず砥石の上に貯めてこねくり回すようにネチネチ研ぐと良い刃が付く気がする。
荒砥石や中砥石では、砥糞はさっさと流してしまって角の立った新しい砥粒を表に出して研ぐ方が早く研げる。荒砥石では粗い砥粒が余計な小傷をつけてしまうという問題もある。
砥糞は流さずに研ぐ方が良いのではないか、と尋ねられることがよくあるが、流さない方がいい場合があるのは仕上げ段階だけだ。

天然砥石で研ぐと、日本刀のように折り返し鍛錬した刃物では鉄の地肌の働きが現れて楽しい、ということもある。
人造砥石や研磨剤では鏡面に磨き上げることはできるが焼き入れの作用や鍛錬の作用が詳らかに浮き立つようなことは無い。これは天然内曇砥石に酸化作用があるためではないかと推測される。
現代鋼で作られた刃物では、合わせ、割り込み、本焼きなどの包丁で刃境や刃文ぐらいは出るが、日本刀のような多様な文様は出ない。
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