本焼包丁のハモン!

東京では日曜日の夕方6時半からテレビ朝日で「奇跡の地球物語」という番組を放送している。
分野にこだわらず様々な物事を科学的に解析してわかりやすく説明してくれるおもしろい番組で、毎週録画して見ている。
スポンサーはキャノンである。ちなみに私の持っているカメラはソニーだ。

ソニーは同じく日曜日の夕方6時から「THE世界遺産」という番組のスポンサーをしている。
こちらは番組内容が世界遺産縛りになっているため地域紹介的な内容が多い。私は歴史や観光にそれほど興味が無いので、面白いと思う回があまりない。

ソニーはデジタル一眼レフカメラではミノルタのカメラ部門を吸収して参入した新参メーカーである。機械本体の性能はなかなかキャノンやニコンに追いつかず、特に動物やスポーツのような動いている物を撮るプロには浸透していない。
しかしビデオカメラ部門は強い。そのせいで風景映像のような物が多くなる世界遺産にフォーカスしているのかもしれない。
一方キャノンは創業当初から一貫して光学機器を作り続けているメーカーだ。顕微鏡や医療機器などの分析機器も作っているので科学的な分析という内容に踏み込んでいるのかもしれない。

そういえばソニーも顕微鏡や医療機器に強いオリンパスの映像部門と合併して新会社を作ったのだから、そっち寄りの番組作りに寄ってくれないだろうか。


さて、昨日の「地球物語」では本焼包丁を特集していた。
出演していたのは大阪堺の池田刃物製作所の三代目、池田辰男さん。ホームページによると現在は三代目と四代目が槌を振るっているようだ。
鉄を火床で熱すると赤く発光しはじめるのだが、熱しすぎると炭素が抜けてグズグズになってしまう。逆に熱が足りないと焼きが入らず硬くならない。ちなみに番組では900度以上に熱してから水で急冷するとぐにゃっと曲がってしまう様子を放映していた。理由はわからないが。

焼き入れについては前に記事を書いたが、その中に、「だんだん膨らんでいくのではなくて、ある温度でいきなり原子の配列が変わって、ボンっとでっかくなる」と書いている。しかしこれは間違いかもしれない。
物を熱すると膨張するのは原子などの粒子の振動が大きくなり粒子同士の距離が少しづつ離れていくためだ。ちなみに絶対零度−273.15 ℃というのは全ての粒子の運動がストップする温度。
膨張の理屈から考えると、いきなり大きくなるのではなく、だんだん膨張していって原子間の距離が一定以上離れた結果として、原子の並び方がボンっと変わると考える方が自然な気がしてきた。そうではなく一定以上の振動に耐え切れなくなって物理的に大きくなる可能性もあるが、いきなり大きくなると書いた理由がわからない。いろんな本を参照しているのでもしかすると何かに書いてあったのかもしれない。
正確なことがわからないので訂正もしないでおくが、ご存知の方がいたら教えてください。

いずれにしてもある温度でいきなり鉄の原子配列が変わる。その結果できた隙間に、鉄の半分ぐらいの大きさしかない炭素がすべりこむ。
その状態から徐々に冷やすと鉄はだんだん縮んで行き、炭素も徐々に鉄の隙間から押し出されてゆくが、炭素を取り込んだまま急冷してギュっと縮めると、炭素が邪魔になって鉄の原子同士が動きづらくなるので硬くなる。これが、焼き入れで鉄が硬くなる仕組みだ。

原子配列が変わることを「変態」という。変なおじさんとは関係無い。セミが幼虫から脱皮して成虫になるのも変態という。状態が変わるという意味だ。

鉄の変態温度は炭素量によって違うが、およそ750度弱ぐらいである。
焼き入れ温度は800度が良いそうだ。なぜかというと、鍛造整形した材料を火床に入れて約2分で表面温度が800度になるが、そのとき内部温度がおよそ750度になり芯まで焼きが入るからだそうだ。
池田辰男氏は焼けた鉄の色を見て800度を正確に判別することができる。5度単位でわかるという。
赤い炎を上げる松炭の中から金床鋏で鋼を取り出して「いま800です。」と言った。放射温度計が示したのは799.9度だった。

柳刃の硬度を計測するとビッカース硬度で刃先が944、中ほどが477、峰側が407、それぞれHRC硬度に換算すると約68、47.5、41.4という結果だった。鋼材は言わなかったが白紙一号ではないだろうか。

「やればやるほど目が肥えてくる。10年前に見えなかったものが見えてくる。生涯勉強です。」

恐れ入りました。研ぎもやればやるだけ次が見えてどんどん難しくなっていきます。だから面白いということもありますが。

残念だったのは番組でしきりに波紋、波紋といっていたこと。わざわざ「波の形に浮かび上がる・・・」なんて解説していたが、土置きのときわざと波の形になるよう盛っている場面も映している。日本刀には直刃(すぐは)といって波の形じゃないまっすぐな刃文もある。ロロノア・ゾロの和道一文字も直刃だ。
熱処理によって刀に浮かび上がる、鉄をどのように鍛えてどのように焼き入れしたのかを示す痕跡が刃文である。
波紋はWAVEだ。立体的に見れば必ず振幅がある。言葉の由来が違うので音は同じでも全く別物のはずである。

ネットの記事なら誤入力もあるだろうし気にしないが、本焼き包丁の特集番組でこういう勘違いは頂けない。

ちなみに合わせ包丁の刃境のことを刃文というのも紛い物っぽい感じが払拭できず憚られる。あれは異種鋼を張り合わせた境目だ。
もちろん、言葉というのは時代によって変容してゆくものだし、変容すべきでもあると思うけれど、刃文という言葉には刀匠なり包丁鍛冶の技に対する敬意が含まれている気がするし、美術品としての刀の価値の表れでもあるのだ。時代だからといって十把一絡げにしてしまうのはそれらを失ってしまう文化の衰えのように思えて、ささやかながら抵抗を試みたくなるのである。
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Re: 色々考えているうちに新年なっちゃいました

狛犬さんこんにちわ。

承認するの忘れてるのにさっき気付きました、すみません(^^;


研ぐ工程は実際、バカにできませんよね。
日本刀でも新作刀が刀身だけで60~70万ぐらいだけど、半分ぐらいは研ぎ代だし。

ただ、テレビのことを考えると絵ヅラが絶望的に地味という欠点が(^^;;;
手研ぎなんかじゃなく火花散らしてグラインダーで削る方がカッコはよくみえます。


突然ふくらむかどうかは依然謎ですね。
電子軌道の距離の比率が一定でも、同じ比率のまま全体が膨らむ可能性があると言えるわけで・・・そもそも原子半径って温度で変わるんですか?・・・って調べてたら、結晶半径とかイオン半径とか異なる概念があって、よくわからん(笑)


・温度が高くなるにつれてだんだん原子間の距離が開き、隙間が一定の広さになった結果として配置が変わる
 → このばあいは徐々にふくらむと予想される

・温度が高くなって電子の振動が大きくなるが、ある振動の大きさになった時点で金属結合が耐え切れなくなった結果として配置が変わる(沸騰と同じような理屈)
 → このばあいは突然ふくらむと予想される

このどちらなのかは、わからない、ということです。整理すると。

色々考えているうちに新年なっちゃいました

そうですね、鉄と炭素の状態変化は思うに
水が沸騰した時に実に1240倍もの体積になります。
とすると、ある一定値が超えた途端いきなり、ボンと大きくなる現象もわからんこともないです。
少々無理やり過ぎましたね。

もう少し突っ込んだ化学である話ですが
電子配置のK核L核M核N核とありますが、これらもある一定の距離を取ります。それは2倍 4倍 9倍 16倍 ・・・という風に累乗の距離を持っています。
ということは自然界のものはある一定値を超えた途端に極度に離れざるを得ない、あるいは今まで安定していた配置が別の状態にならざるを得ない。というのが私の見解です。


究極の切れ味を生むのは鍛冶屋さんですが、研ぎ手の腕次第では
稀代の名刀も無残な鈍らになる
そういうことも伝えて欲しかったですね。
鉄のプロは鍛冶師さんだけじゃない、研師さんも検証せにゃいかん時代でしょうね。

Re: 見たけど

あきらパパさんこんにちわ。

土盛りは本焼きについては硬度差つけるでいいんじゃないですか?
本当の理由というのは砥の粉を塗って焼き入れ性を良くするといったことでしょうか、そういえばぼくも三徳造らせてもらったとき塗りましたね。
見る人によってあちこち引っ掛かるところがあるようですね。
だけど全体としてふつうの人が包丁に興味をもってくれるような内容なら刃物業界の関係者としては有り難いことですよね。
安直に興味を惹くには「注文打ちの白一水本焼き尺二柳刃で価格は二十五万円です」みたいな下世話な説明があった方が良かったかもしれません(笑)

見たけど

録画を見ました。
30分という限られた時間で紹介しているので、
かなり荒っぽく編集されてる印象ですね。

土を塗る本当の理由について述べてないのと、
焼き入れも2分で800度とありますが、
本当に鋼が冷えた状態から2分でやったら
中まで熱が入らないですよ。

それに、研ぎの部分は全く省略やし…
刃物を活かすも殺すも研ぎ次第なのに。

というところで、突っ込みどころ満載ですが、
素人さんには、そのさわりの部分で、
興味を持ってもらえるのかな~
って感じですね。

Re: No title

> 録画して、まだ見てない・・・
> でもおおよその内容は分かってしまった。

申し訳ないw


> 所詮、番組の作り手も素人なので、
> 専門的な事は分からないはず・・・

でも専門的な内容で番組を作ってるんだという矜持はほしいです(^^

No title

録画して、まだ見てない・・・
でもおおよその内容は分かってしまった。

所詮、番組の作り手も素人なので、
専門的な事は分からないはず・・・
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