モーリー・カーターさんは素晴らしい。

「所さんのニッポンの出番」という番組で特集していた、アメリカのモーリー・カーターさん。

このひとは世界一のハガネの三徳包丁を作っていると思う。

なぜかというと、日本では4万円以上もするハガネの三徳包丁を作っても売れないからだ。

4万円以上で売れるということは、1日1~2本しか作らなくても仕事になるということだ。火造りも仕上げも納得するまで丁寧にやれるし、もし焼入れでわずかに失敗してもためらいなく廃棄できる。
柄もオリジナルでワンオフの、かなり手間がかかりそうな物を挿げている。

しかし、欧米でそういうものが売れているからと大量生産のメーカーが真似をして、富裕層を対象に4万円~6万円の包丁を作っても、カーターさんの包丁にはかなわないと思う。
なぜなら、製品の付加価値というものは、付加価値を付与する人の思い入れに依拠するものだからだ。
200万円の大衆車はマーケティング調査によって仕様を決定できるが、2000万円する売れる高級車は、自分はこういう物を作りたいという作り手の偏愛が消費者に受け入れられないとできないのだ。
カーターさんの包丁は、カーターさんの、むちゃくちゃ良く切れる、カッコイイ、すごい、という偏愛によって作られている。


刃物関係は素人騙しの胡散臭い宣伝が多いので、アメリカ人が日本の包丁を作っているというと斜に構えて見てしまうのだが、初回の放送でピピっと来たのは、「鋼材は白紙一号しか使わない」と言ったときだった。もし青紙スーパーと言ってたら鼻の穴が少し広がった程度で寝転がったまま見ていたと思うが、白紙一号と言われるとソファーの背もたれから体がむくりと起き上がってしまう。
三徳包丁の性能は白二でもSK4でも十分以上なのだが、オレは白一で作りたいという思いに嬉しくなる。

今回の放送は、初回の放送が人気だったため二回目の特集なのだが、一回目のときに所さんに包丁がプレゼントされて、所さんが甚くそれを気に入り、放送後にあらためて包丁を注文したらしく、その受け渡しの様子が放映された。そこで所さんが、お返しとしてプレゼントに日本刀を用意していたのもすごかった。
プレゼントに日本刀という時点でブっ飛んでいて目じりに皺が寄ってしまうのだが、直刃(すぐは)といわれるとお尻の穴がキュッと締まる。
それを受け取って、派手なものより地鉄の鍛錬がよくわかって良い、と言うカーターさんの返答も百点満点で、プレゼントの渡し合いで剣豪が果し合いをしているかのようだった。
ちなみに直刃というのは刀の刃文の種類のことだ。
複合材の包丁やナイフの刃境(はざかい)は、波打っていることが鍛造してある証拠なので高品質の証明にもなるのだが、日本刀の刃文は"置き土"をして硬度差を出した結果として出るものなので、まっすぐ土を置けばまっすぐになる。模様と品質は無関係で、刃文が波打っているのは、装飾、オシャレなのだ。私は日本刀についてはたまに展覧会で見る程度の知識しか無いが、刃文は直刃が好きだ。直刃じゃなくても派手じゃない方がいい。


たぶん日本にはカーターさんより熟練した鍛冶屋さんが何人もいると思うし、同じように良く切れる包丁もあると思うが、ハガネの鍛造包丁に対する情熱と行動力は世界一だろう。

ただ、残念なことに、ハガネの刃物の生産や売り上げは日本でも年々衰退している。欧米では量産メーカーもカスタムナイフのビルダーも含めて、包丁でハガネのものはカーターさん以外に作っている人を知らない。
錆びやすいので敬遠されるのだ。
研がないので良さがわからないのだ。
日立金属の青紙や白紙には、以前は、一号や二号のほかに更にAやBといった品質の区分があったが、生産量が減ってしまったために今は無くなってしまっている。
それどころか青紙や白紙の生産さえ中止が検討されたことがあるそうだ。
ハガネの包丁を愛する会の会長としては憂慮するばかりなのである。

何国人でも肌の色が何色でも、たとえ緑色の血が流れていても関係ない。
日本で長い年月をかけて醸成された鍛造刃物の素晴らしさをまっすぐに理解して、正当な技術を身につけて、世界に伝播してくれるカーターさんには、素晴らしいという賞賛しかない。
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