合わせ包丁の刃境線

合わせ包丁(や、割込み包丁)の刃境線について考えてみる。

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合わせ包丁の刃境線が波打っているのは、二種類の鉄を接着して伸ばすときにハンマーで叩くためである。二種類の鉄を叩いて接着することを鍛接(たんせつ)といい、叩いて形や厚みを整えることを鍛造(たんぞう)という。
鍛接・鍛造したことの証が刃境線のナミナミ模様なのだ。

刃境線がまっすぐな合わせ包丁もある。これは、個々の鍛冶屋が鉄を張り合わせて叩き延ばしているのではなく、あらかじめ鋼材メーカーが巨大なローラーを使って圧接・圧延したものだ。利器材と呼ばれている。
利器材を刃物メーカーが仕入れて、包丁の形に切り出して作った包丁は、刃境線がまっすぐだ。

どちらかというと鍛造品の方が製造に手間がかかるので相対的に高価になってしまう。ではみんな利器材を使えばいいのではないのか?鍛造には何かメリットがあるのだろうか?

鍛造の基本的な目的は「造」という文字があることからわかるように形を整えることである。しかしそれだけではなく、ハンマーで叩くことで鋼材を構成する粒子が微細化し、そのせいで靭性(じんせい/ねばり強さ)が生まれるのだ。
同じ硬さでも靭性が高いと“強靭”になるのである。

包丁は刀じゃないので強靭さなど大して必要ないのではと思われるかもしれないが、刀よりとても薄い刃物なのでもともと壊れやすい。強靭さが増すことによって折れたり刃こぼれしたりしにくくなる。

また組織が微細化するとより極薄な刃先に研ぎ上げることができるので、包丁には過剰な水準かもしれないが、究極の切れ味に仕上ることもできるのだ。

他の諸条件が同じであれば、刃境線が波打った包丁の方がまっすぐな包丁より強靭であろうと期待できる。

では、なるべく大きく派手に波打った包丁がより良いのかというと、実はそうとも言えない。
あまり波打ちが大きすぎるとこういうことになりかねない。
http://hamonotogiya.blog75.fc2.com/blog-entry-269.html
ハガネが中心を通っていないのでどう研いでも刃道に軟鉄が出てしまうのだ。

ここまでひどい状態にならないにしても、あまり大きく波打ちすぎているものは良くない。

そもそもなぜこんな状態になってしまうのだろうか?
焼入れで曲がったのを叩いて修正せずに刃付けでまっすぐにしたのかな?と思ったが、それだと全体的に相当削り出す必要がある。黒打ちの皮膜が残っているのでおそらくそれは無い。
だとしたら、焼き入れ前の鍛造整形の段階で既にウネウネになってたということだから、ひどい包丁である。

おそらく高温で鍛造したんじゃないかと推測する。
鉄は熱いうちに打てというが、高温であるほど柔らかく整形しやすいので、作業が早い。
しかし高温すぎると組織が変態したり脱炭して硬さが損なわれてしまったりする。

鋼材によって鍛造に適した温度帯があるのだが、
http://www.toishi.info/pro/tanzou/ondo.html
高級刃物を中心に鍛造している鍛冶師は、なるべく低温でじっくり数多く叩いて整形するそうだ。経験上、同じ鍛造の包丁でも高価な物の方が刃境線の波打ち具合は落ち着いているように思う。

低温鍛造の方が何度も叩くので組織が緻密になり強靭さが増すのではないかと思う。しかし時間がかかるし鍛接不良のリスクも増すようだ。そういった問題をクリアしつつなるべく低温でじっくり鍛造した製品が良い製品なのだろうと思う。

鍛造品の中では、刃境線があまり大きく波打っているものより穏やかな物の方が良いように思うのだが、刃角度が浅いほうが波打ち具合は大きく見えるし、単純に手を抜いてしっかり鍛造していないものも見た目は穏やかに見えるかもしれない。
刃境線は派手にうねうねしていればいいわけではないのだが、穏やかなら良いというわけでもない。刃境線の具合だけで良否を判断するのは難しい。

しかし見た目ではわからないところで作り手は手間をかけたりちょっと抜いたりしていて、それは確実に製品の良否に影響している。
消費者には、包丁の違いは鋼材やせいぜい仕上研ぎの違いぐらいしかわからない。そういった自分に理解できるカタログスペックだけで製品を判断して、その基準の範囲でなるべく安い物を求めるようになってしまうと、見えないけれど品質に大きな影響を及ぼす部分に手間ひまをかけた本当に良い製品が無くなってしまう。

こと手打ちの刃物に関して言うと、良い物を手に入れたいなら、信用できる専門店に行ってなるべく上級のランクの製品を買っておくのが間違い無い。
長い間使える道具なので、皆さんには予算の許す範囲でなるべくそういう買い方をしてもらいたいと思う。
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