アメリカンカミソリ

ピロリーン♪

刃物研ぎの取り次ぎでお世話になっている新井薬師の酒道庵之吟さんから、ショートメーが届いた。

「剃刀を預かりました(^^)」

カミソリ・・・!!

やり甲斐はあるが、手ごわいブツだ。
めったに出てくることは無い。
プロの理美容師さんか、個人の刃物マニアさんか。

プロの理容師なら、ふだんは自分で研いでいるはず。研がない理容師は替え刃を使う。いまの替え刃は恐ろしく性能が良い。
剃刀に限らないが、プロの道具が研ぎに出てくると、かなり手をかけなければならない場合が多い。簡単な手入れなら自分でやる。手に負えなくなったものが研ぎに出てくる。

プロでもないのに、いまどき剃刀を買って研ぎに出すような人は、これまた厄介だ。
いくつかのパターンが考えられる。
ひとつは、かなりクレイジーな刃物マニアで、クレイジーなレベルの切れ味や見た目を期待しているパターン。
川の流れに差し入れると流れてきた木の葉が二つに切れる、とか。
ムリ。
もうひとつは、自分が買ったものが何なのかよくわかっていないパターン。これもまた過剰な性能を期待していることがある。
ヒゲ剃りなんて、実はT字の3枚刃とか5枚刃のほうがよく切れるに決まっているのだ。替え刃の切れ味がものすごくいいということもあるが、構造の問題が大きい。カンナできれいに薄く削れるのは刃の鋭さだけが理由ではない。ノミをカンナと同じぐらい鋭く研いでも、同じように均一で薄い削り華を出すのは不可能だ。カンナ台からわずかに刃先を出すという構造がなければ薄く削ることはできない。カンナ台が大事なのだ。
T字カミソリも刃先がわずかに肌に触れるようガードされているから、しっかり肌に押し付けてヒゲだけを深剃りすることができるのだ。よく切れる日本剃刀をT字カミソリと同じように肌に押し付けると、血まみれになる。
と、いうようなことを知らずに、高いお金で熟練の職人が手作りした最高の切れ味の剃刀を買ったのだから、よほど切れるに違いないと期待したひとが、届いてみると思ったのとかなり違うので、プロに頼めば少しは良くなるのかなあ?と、頼んできたりする。
まあこれなら大丈夫だろうというように研いで渡しても、ガッカリされてしまうのだ。

店に伺って、モノを見せてもらった。

それは、予想の斜め上をゆくシロモノだった。

しかもかなり上空。

001_2016121221491624f.jpg

002_2016121221491874b.jpg

そう、みなさんご存じの、ダマスカスだ。

ダマスカス自体は、割り込み包丁のような複合構造の刃物の、軟鉄部分に使われるだけなので、切れ味に関係ない。ダマスカス部分を磨きすぎると模様が見えにくくなったり、研ぎ傷が目立ったりするということはあるが、当店は美術研磨処じゃないのでそんなの気にしない(笑)
切れ味優先である。

しかし、なんかちょっと違和感が。
なんだろう?

よーく見てみる。

003_20161212214918a2a.jpg

004_20161212214920a81.jpg

わかるかな?

割り込んでいない、ダマスカス鋼なのでした(^^;

刃先の拡大。

006_20161212214921e14.jpg

ハガネが割り込まれていません。
しかも、エッチング(酸処理)で模様を出している。

こういうものを作るのは、たぶんアメリカだ。
日本では通常、積層鋼をハンマーで叩いて、ダマスカスの模様をつくる。意匠をこらすにしても、ハンマーの先の形状を変えるぐらいだ。
しかし、アメリカのカスタムナイフビルダーでダマスカスの鋼材を作っているひとのサイトを見ると、積層鋼をグルグルねじってみたり、バイクのチェーンを挟んで叩いてみたり、変わった模様を出すということだけに血道をあげていて、やってることが自由だ。
日本の鍛冶屋さんはなぜ同じように自由にしないのかというと、ハガネを割り込むからだ。ハガネを割り込んでグルグルねじると、ハガネもグルグルになってしまい研いで刃を出すことができなくなる。
ちょっと前にエヴァンゲリオンと日本の刀工がコラボした企画展をしていたが、そこで展示されていた「ロンギヌスの槍」は、まさに積層鋼をグリグリひねって酸処理したオブジェである。あれは実際に使う可能性が0%なので、あれでいい。

グルグルねじって模様をつけた鋼材を薄い鉄板状に削り、それを2枚用意して、真ん中にハガネを挟んで刃物を作れば、変わった模様でちゃんと切れる刃物を作ることができる。
しかし技術的にも作業量的にも、たぶんムチャクチャ大変だ。
そこでアメリカのナイフビルダーは、ダマスカス鋼をぐるぐるひねったものを、そのまま削り出してナイフにしちゃっているのだ。

ハガネを割り込まずそのままナイフにしちゃうと、何が問題なのか。
現在のダマスカス鋼は、硬さなどの性質が異なる二種類以上の鋼材を積層して模様を出したものなのだが、硬さの違う鋼材が刃先に出てくるということだから、使ってるうちに柔らかい方だけ余計に減ってデコボコになるかもしれない。

切れ味そこそこで良いナイフであってもいかがなものかと思う作り方だが、剃刀のように鋭利さを必要とする刃物に、コレはあり得ない。

その場でお客様に電話をかけて、

「コレコレの次第でこういう刃物なのですが」

と長い説明をし、

「どうしましょう?」

とお伺いしてみると、

「好きなように研いでみて」

という寛大な許諾を頂いた(笑)

まだ研いでいないが、なにか面白い形になったら続報をアップするかもしれない。

切れ味がよくなることは、ないが。
関連記事

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

BROさん

Author:BROさん
東京都練馬区の研ぎ師です。
営業案内
ご依頼はこちら
ご意見・ご質問はこちら
ご利用頂いたお客様からのご意見ご感想はこちら

カテゴリ
最新記事
最新コメント
検索フォーム
QRコード
QR
リンク