ナンギな裁ち鋏

以前、裁ち鋏のネジを交換したお客さんが、再度いらっしゃった。
ご主人が仕事で使っていて、硬いものや分厚いものを切っているらしい。
ハサミの形がくるっていて、ネジが摩耗して変形してしまっていた。

修理交換してから半年ほどしかたっていないのに、また形が変形してネジも摩耗した状態で持ってきた。
使うハサミ自体を、庄三郎の硬刃あたりに換えた方がいいんじゃないですか、というと、前のものがこうなったわけではなくて交代で使っていた別のもの、ということだった。少しほっとした。

このハサミも、ネジがけっこう摩耗していた。
しかしそれ以前に、「反り」が無い。
かなりネジが深く締め込んであったので、切れ味の悪さを解消するために、自分でネジを強く締め込んでいるのではないかとおもわれた。

まず「反り」を調整しないことにははじまらないので、分解してため木などを使って曲げてみたのだが、仮り組みして調子をみてみると、なぜか反りができていない。

何か変だと思いしげしげと観察してみると、なんと、「触点」が無くなっていた!
「触点」というのは、ハサミの裏の、ネジ穴より少しハンドル側にある、刃体同士が接触する出っ張った部分だ。触点というが、点というより線ないし面である。ハサミは、刃線上の一点と、触点が、常に接触した状態で動作している。触点はとても重要な構造部分なのである。

http://hamonotogiya.blog75.fc2.com/blog-entry-43.html
http://hamonotogiya.blog75.fc2.com/blog-entry-47.html

ふつうのハサミと並た写真。
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普通のハサミの状態
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摩耗して平らになってしまっている
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もう一方の刃体、ふつうの状態のもの
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摩耗した状態
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ネジを強烈に締め込んでいたらしい証拠に、表も座金の部分が摩耗して凹んでしまっていた。

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こんな症例は、初めてだ。
いろいろ考えてみたのだが、さすがにちゃんと修正する自信が無い。

もしかして、と思って訪ねてみたら、ご主人は左利きとのこと。それも関係していたのかもしれない。
安い文具ハサミなんかの方が、反りが無くてまっ平らに近いから、左手でも右手でも問題なく切れてしまったりするのだ。そのかわり高い精度は望めず、調整もできないし、長時間使っていると疲れる。
裁ち鋏や理美容鋏は右利き用は右手で使ったときスムーズに機能するようエルゴノミクスデザインになっている。
http://hamonotogiya.blog75.fc2.com/blog-entry-107.html

逆の手で使うと安いハサミより切りにくくなってしまうのだ。
もしかすると、安いハサミと同じように、反りの隙間を無くしてしまえば切れると思ったのかもしれない。


ともかく、「ハサミが切れなくなった」という理由で、ネジを締めて切れ味をよくしようとすることは、ご法度である。禁止だ。
ハサミの構造をよくわかっている人以外は、ぜったいにやっちゃダメ。反りが無くなってしまう。致命的なダメージに繋がる。

このお客さんのご主人には、特注してでも、庄三郎の硬刃の左利き用を使っていただきたいと思う。
もしどこかに残ってるなら、増太郎のSLDの左利き用でもいい。
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