新品包丁

中板橋商店街で、いつも通りかかりに挨拶をする、背の低い江戸っ子口調のおじいちゃん。

「先が四角い包丁は、売ってないのかい?」

と、聞いてきた。

「ああ、菜切包丁ですか。だけど、ざんねんながら先が尖ったやつしか持ってないですねぇ。」

「四角いやつがいいんだよ。あっちの方が野菜が切りやすいんだ。」

「そうですよねぇ、ぼくも家では四角いの使ってます。だけどいま売り物には持って無いです。探しましょうか?」

菜切包丁はどちらかというと不人気なのだが、使い慣れると野菜を刻むのには勝手がいい。
私が使っているのは菜切ではなく片刃の薄刃包丁で、切るものによって三徳包丁と使い分けているのだが、野菜を刻むことが多いので使う頻度は三徳より薄刃包丁の方が多い。

「こないださ、1万円ぐらいの買ったんだけどよ、すぐ切れなくなっちゃって。ダメだな。もっと高くていいやつ無いのかい?」

「エ~。でもそりゃ研がないと。10万円の買ったって使えば切れなくなるし、3000円のと比べて10倍も長持ちするわけじゃないですよ。」

「まあそうなんだろうけどよ、もちっといいヤツ無いのかい?」

実売価格1万円ぐらいで「すぐ切れなくなる」という不満だと、たぶんそう大きく改善できるものはないと思う。


「錆びにくいステンレスの方がいいですよね?」

「いいや、ハガネの方が切れ味いいだろ。ステンは切れなくてダメだ。」

「ハガネですか・・・それで高くていいやつ・・・」

ハガネの菜切包丁で、高いヤツ。
しかし手打ちでハガネの菜切包丁だと、1万円ぐらいが相場なんだけどなあ。
薄刃なら3万円でも5万円でもあるだろうけれど、菜切包丁ってか。

「まあちょっと、探してみますよ。」

というと、

「よろしくなっ!」

と片手をあげて、自転車をこいでひょうひょうと去っていった。

2~3万円もする菜切包丁か。

そういえば、アレはいくらぐらいするもんなんだろう。
お店にネットショップが無く値段がわからないので、電話で問い合わせてみた。
すると、ちょうどいい感じの値段だったので、送ってもらうことに即決した。



これが、その、アレ。

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うーん、イイなあ。


有次は築地にもあるが、これは築地の有次ではなく京都有次の菜切包丁。
築地有次と京都有次は別会社で、築地の方にこれは売ってない。

以前にブログで紹介したものである。
http://hamonotogiya.blog75.fc2.com/blog-entry-239.html
http://hamonotogiya.blog75.fc2.com/blog-entry-335.html


菜切包丁の中で私がいちばん好きなのが、コレ。
峰厚が4㎜もある(笑)
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じいちゃん、ちょっと重いかもしれないけど、もう仕入れちゃったから。
私に頼んだのが運の尽きだと思って、あきらめて。


電話で聞いたところによると、京都有次には「特製」と「上作」という二種類の菜切包丁があるそうだ。「特製」は黒打ちで薄い、一般的な菜切包丁。そして「上作」がコレ。
「特性」がいま品切れで、たまたまほんの最近この「上作」が入荷したところなのだという。
人気で売れてモノが無いのかと思ったら、「“ふつううの包丁”を優先的に作ってるんで・・・」というような発言があったので、菜切包丁はやはり今となっては事実上“ふつうの包丁”ではないのだろう。
そして、入荷した分がなくなるとまた半年とか1年待ちになりそうだ、とのことであった。

もしかすると沖芝さんが打ったものだろうか、と思って聞いてみたが、菜切包丁は昔から沖芝さんの製品ではないそうだ。そして沖芝さんの包丁はもう在庫限りだそうである。
まあ、時間がかかっても菜切包丁の再入荷はあるということなのだから、いいことではある。


ところで、写真で見てもわかるはずは無いのだが、新品なのでぜんぜん刃はついていない。

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予想以上にぜんぜんついていない。
ふだん扱っている洋包丁なら、モノによって程度に違いはあるにせよ刃付けされた状態で出荷されているので、それに慣れていたのだが、
「新品だから当然刃付けなんかしてませんが、なにか?」
とでも言うような状態だ。

まあ、新品の和包丁は販売店が刃付けするものなんだろう。

それはいいのだが、ショットブラストがナンギなのである。
大きめの角度をつけて先っちょだけ刃をつければいいのだろうけど、この包丁は、できるだけビシっと切れ味を出した状態でお渡ししたい。

慎重に砥石に当ててみたが、やはりちょっとショットブラストが剥げてしまった。

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地艶もどきで曇らせてみたが、ムラは目立つなあ。
気にしないでいてくれるとは思うんだけど。
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Re: 菜切

## Kenさん

こんど覗いてみます!


> 有次の上の菜切って2万円位するやつですよね?それだけの値段取っているのに霞研ぎ仕上げじゃないんですか?

「霞研ぎ仕上」だとまたちょっと違うんですか?
手木砥だとヘアラインになると思うけど、まったくムラが無い濃いめの曇り仕上だったので、ショットブラストだろうと思ってるんですが。別のやり方の可能性も無いではありません。

菜切

鋼の菜切だと武生の藤下新次さんのがきれいにテーパー状に打たれています。青山の伝統工芸スクエアで売ってますよ。あとは、公表されてませんけど築地の東源正久の黒打菜切(青紙)も藤下作のような気がします。

このブラスト仕上げ、いつも思うのですが何とかならないんですかね?研ぐ時も本当の姿がわからなくなるだけよくないと思うのですが・・・。

有次の上の菜切って2万円位するやつですよね?それだけの値段取っているのに霞研ぎ仕上げじゃないんですか?
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