溶接!

けっこうタイヘンな状態の包丁が持ち込まれることが、よくある。
しかしそんな中でもこれは最強レベル。

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料金は5000円近くになりますよ。
溶接すると熱が回って少し刃が甘くなるかもしれませんよ。
錆は落としてみないと内部の状態がわからないけど、最悪の場合は貫通してデコボコになってて修理できない可能性もありますよ。

これぐらい言うとだいたいのお客さんは引き下がる。
しかしこの包丁を持ってきた、80歳は過ぎているであろう、足の悪い、杖をついたおばあちゃんは、

「やってちょうだい。」

と言った。

「ほかにも包丁はあるんだけど、これが良く切れるの。だから、柄が折れたまんまで使ってるの。」

そう言われると、わかりました、という返事しかできない。

以前から、懸案は溶接だった。
なんとか刃に熱が回らないようにすることはできないか。200度ぐらいまでに抑えられれば焼き戻りの影響はかなり抑制されると思うのだが。
しかし、ロウ付けでも500度ぐらい、溶接になると鉄を溶かすので1500度以上に、瞬間的且つ局部的とはいえ加熱される。
溶接をしている人に尋ねても、そのような依頼がほとんど無いようで、200度を超えないというような保証は難しい、常識的には超えると思ったほうがいい、と言われていた。
刀や本焼きのように土置きして実験してみたことがあるのだが、土が水を含んでいると熱が奪われて接合部分の温度がうまくあがらなかった。そして土が乾燥すると刃に熱が回ってしまう。そもそも土置きは熱を上げないことが目的ではなく、加熱状態から水に入れて急冷するときに熱が急速に奪われないための仕組みだった。オーステナイトからマルテンサイト変態することを阻害するのだ。これではなんかちょっと違う。
何かないか。
そういえばバイクのマフラーにつけるヒートガードはなぜ熱くならないのだろう。
以前乗っていたバイクには、カーボン製などではなくステンレス製のヒートガードが取り付けてあった。マフラー自体は触ると火傷するほど熱くなる。そのマフラーに、直接ステンレス金具でステンレスのヒートガードが取り付けられているのだが、このヒートガードは、なぜか触ってもまったく熱くないのである。不思議だとは思っていたが、理由は知らなかった。
正確な理由はいまもわからないのだが、思うに、接点が小さいので熱があまりたくさん伝わらず、且つ、ヒートガードの表面積が広く外気に多く暴露されるために空冷フィンのように放熱してくれている、ということじゃないだろうか。放熱効果が熱伝導量をはるかに上回っているせいで、熱いと感じるまで温度上昇しないのではないか。
ということは、ヒートガードのようなものを取り付けても無意味であるが、ブレードの方がヒートガードのようになって熱を吸い上げてくれる何かを取り付ければいいのではないだろうか。鉄より熱伝導性の高い金属の塊を首のところに巻き付ければいいわけだ。
さっそくホームセンターで長方形のアルミブロックをふたつ買ってきた。
不用品の包丁で実験してみた。密着性を高めるためにアルミホイルを下地に巻いたうえからクランプしてバーナーで赤化するまで加熱をしてみたところ、アルミブロックで遮熱した側は指で触っても熱く感じなかった。30度以下だろう。いいじゃん。
さっそく杉並の馬力屋さんに持って行って溶接してもらった。溶接直後にアゴのあたりを触ってみたが、やはりまったく熱くなかった。大成功だろう。

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ちなみに溶接痕がかなりこんもりと盛り上がっているが、馬力屋の大澤さんがヘタなわけでは無い。きれいにした方がいいか聞かれたが、どうせあとで削るし、凹んでいる方が何かと問題なので、むしろ盛ってほしいと私がリクエストしたのだ。


研いでいるところの動画。



最終的には黒染にした。
見ためはピカピカしてた方がいいんだけど、どうせすぐ錆びるだろうなと思ったので。

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で、これを研いでいると、

「あーら、うちのも。」

と言って、一見してほぼ間違いなくイっちゃってる包丁を持って来られた。

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こっちもそのうち紹介する予定なので、そのときアルミクランプの写真も撮っておくことにする。
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Re: No title

ななしさんコメントありがとうございます。

> 刃の部分に濡れ布巾を巻いて溶接するのじゃダメなのでしょうか。

濡れ布巾じゃないけど、本焼きの逆バージョンみたいに刃に分厚く土置きすればいいんじゃないかと考えて、鋳型に使う土に水を含ませて盛ってみたことがあるんですけど、水分のせいで接合部分の温度がうまく上がらなかったんです。湿ってるということは100度以下なわけです。
乾くと土が崩れるかもしれない。布だと燃えるかもしれません。
それに油粘土みたいに崩れないものを使ったとしても、盛ってるところの温度が高くなってしまったら、土なんかだとすぐに刃部にも熱が回ってしまう可能性が高いと考えられるのです。
アルミだと鉄より熱伝導性がいいから、刃部に回る熱をアルミのブロックがいったん吸収してくれるんです。
もちろん加熱し続ければ熱は回ると思いますけど、アーク溶接しているあいだぐらいなら刃部が熱くならないうちに作業完了してしまいます。

Re: タイトルなし

stさんコメントありがとうございます。

> クリップ見たいな挟むやつがありますよね
> 自分は溶接機を持ってないので折り曲げかしめてハンダ付けします

ハンダ(ロウ付け)でもけっこう温度上がっちゃいませんか?

No title

素晴らしく丁寧な仕事で感服します。

ところで
刃の部分に濡れ布巾を巻いて溶接するのじゃダメなのでしょうか。

クリップ見たいな挟むやつがありますよね
自分は溶接機を持ってないので折り曲げかしめてハンダ付けします
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