春の嵐

最近、渋谷の青山熊野神社で立て続けにスコールに見舞われた。
降雨確率が30%とか40%なのに豪雨にやられるのだ。
ポツポツと雨粒が落ちてきたのでネットの雨雲レーダーを見ても、雨雲らしい雨雲は無いので、たぶん小振りですぐにやむだろうと高を括り、濡らしちゃいけないものだけを避難させて車の中に一時撤退していると、槍のような雨が叩きつけてきた。練馬の家に帰っても地面に雨が降った気配がまったく無いので、都心だけの集中豪富らしい。
その翌週は降水確率が50%だったのだが、家を出る時間にガッツリ降っていたので休むことにしたら、10時過ぎぐらいに降りやんでカラっと晴れた。
さらにその翌週は降水確率30%なのに、前々週と同じような豪雨が突然降ってきた。雨雲レーダーを見ていると、いつもの夏の豪雨のように八王子の方から雨雲が流れてくるのではなく、新宿渋谷あたりでムクムクと雨雲ができてきて、そのまま真っ赤な豪雨地帯になってしまうのだ。
これは何か私の日頃の行いが悪かったせいか・・・とかついつい思ってしまうのだが、私を懲らしめるために神様が新宿渋谷港区界隈ぜんぶに豪雨を見舞わせるなんてわけは無いので、そんなこともあるのかなと思いつつ、来たる梅雨と本格的なゲリラ豪雨の季節に向けて、雨対策をもっと万全にしとかなくちゃと思うこの頃なのである。
しかし都心で雨雲がムクムク沸くのはなぜだろう?都市部の発熱量が多いせい?

昨日は中板橋だった。
ここではいつものんびり仕事ができる。昨日も昼過ぎまでに来た注文は2~3本ぐらいだった。
2時すぎぐらいにマッチョなイケメンが、鍔屋の良さげな牛刀を2本持ってきた。
夕方の営業時間の前に受け取りたい。
牛刀はふだんけっこう刃を立てて研がれているようで、かなり研ぎ減っていたが側面には研ぎ痕が無く、刃縁の肉はかなり厚かった。
「1本はダマスカスですけど刃肉を抜かないと切れ味出ませんから、側面もガリゴリ研ぎ傷つけますけどいいですね?」
「いいです切れれば。」
イケメンマッチョが去ってゆく後姿に目をやりながらなにげに刃先に指を当ててみた。心の中のサモハン・キンポーがアイヤー!!と叫んだ。森昌子が歌った。テッパン。テッパン。これはて~っぱん~~。そう。それは刃物というより鉄板。ペーパーナイフのほうがまだ薄い。それが2本。手作業。大黒摩季が歌った。チョットまってよ、チョットまってよ。小さくなってゆくイケメンマッチョの背中に向かって、心の中で。

まあ~~~、、、いいか。2時間以上あるから、できるし。受けちゃったし。

鍔屋の鍛造痕が美しいダマスカス包丁をC#120の金剛砥でゴリゴリ削る。
なんとなく快感(笑)

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そしてこれが、鉄板状態の刃の厚み。

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よくこれで切ってたなあ。それで筋肉鍛えたんだろうか?
そういえばマッチョな魚屋さんがゴッツイ状態の出刃包丁出してきたこともあったっけ。
スポーツでも不必要な筋肉つけすぎると筋肉に頼っちゃってバランスが崩れてパフォーマンスが落ちるることがあるらしいしけど、研ぎも料理もパワーに頼ってはいけないと思う。

とはいえこの研ぎおろしはパワー全開じゃないとできない。考えただけでも滅入ってくる。
頑張ってやるか、と、取り掛かろうとすると、お客さんが来た。
裁ちばさみ。
極薄の布を試し切りしてみると十分よく切れる。刃は甘くは無い。ハサミは研ぎしろが少ないし研ぎ減ったぶん構造が変わるから、切れるなら研がないほうがいい。「何が切れないんですか?」と聞くと、「厚い布が先の方で切れない」と。デニムを切ってみると、確かに先の方だけ使うと嚙みこんでしまう。これは難敵・・・構造問題だ。そもそもハサミは先が弱い。長いほど弱い。フィットカットカーブみたいに刃線のカーブが強くなるように研ぐと切っ先が閉じなくなってしまう。それに外に開こうとする力の問題だからカーブを作って解消するともかぎらない。反りを強めにすればいけるかもと思って少し曲げてみた。が、直らない。こういう場合ふたつのパターンが考えられる。ひとつは薄布が切れるよりもっと鋭い切れ味だったから切れた。もうひとつはもともと切れてなかった。そのハサミに求められる以上の性能をお客さんが期待しているというやつ。「もともとは切れてたんですか?」「ハイ切れていました。」ということは前者か!
時間が無いので簡単に直ってくれかしと願ってアレコレためしてみた結果、けっきょく普通に研ぎ直すことになって時間を浪費してしまった。
するとまたまたお客さんがきた。理美容シザー2丁。「預かりでいい?」「いや今日中に受け取りたい。」
ハサミは直したつもりでも組み立ててみたら切れないことがあるので、時に、作業時間が読めない。
私のふだんの営業時間は「暗くなるまで」だ。
4時半までに包丁終わらせるとして、ハサミ3丁、日も長くなっているから、うーん、、、
「わかりました。やります今日中に。」
するとまたまたお客さんが来た。なんでこういうときに重なるのかね。
サビサビの包丁2本。ひとくさり錆びさせない使い方と錆びたとき落とす方法をぶって、これは後日渡しということでお預かりする。話をしてる時間もあまり無い。
するとまたまたまたまたお客さんが。包丁一本。「今日受け取りたい。何時になってもいい。」「・・・・わかりました。」

その後はお客さん以外に話かけられても完全無視を決め込んで、200BPM超の音楽かけてグリグリ削り倒して。

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ダマスカスはこれで完了。磨かない(笑)
お預かりで作業時間があるときならもうちょっとマシにするけど。
そのかわりちゃんと包丁にはなってるよ。

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それでも予定時間の4時半を少し過ぎてしまった。

120番の荒砥でゴリゴリ削りまくるパワー作業から一転して、細かい作業の裁ちばさみ。
とにかく分解して裏と小刃をひととおり砥石に当ててみるしかない。それでダメなら「ぼくには研げません」だ。手を洗って研ぎ台周りも洗って荒砥の砥糞がつかないようにして、やってみる。切れた!刃先だけでデニムが切れた!たぶんこれで大丈夫!
おつぎ、理美容シザー。鏡面蛤刃の刃をルーペで観察しながら研ぐ作業。部品を無くさないよう慎重に分解。鯛のうろこほどしかないような大きさのワッシャをひとつ無くすと切れなくなる。研ぎすぎないよう慎重に2000番からはじめて、ちょっとづつちょっとづつ研ぐ。研磨剤で拭きあげて鏡面に戻して、慎重に組み立てて、濡らしたティッシュペーパーぶら下げて。これが切れないとやり直しなのだが。お願い切れてーっ!!と心の中で祈りながら、切る。切れた!!よかった!!
2本目を分解しているときにお渡しの予定時間になってしまった。携帯電話を見ると気づかなかったが着信履歴があった。シザーのお客さんだった。電話する。「ゴメンなさい電話気づきませんでした。」「ゴメンなさい。受け取りに行くのが30分以上遅れます。」「あっ、だいじょうぶです。ていうかまだできてません。遅れるって電話かけようとして着電に気づきました。まだ帰らないのでゆっくり来てください。」
怒涛のように慎重に丁寧に2本目を研ぐ。
最後の仕事は包丁。このお客さんはリピーター。いちど研いだことのある包丁は研ぎやすい。ミソノだし。ミソノはもともとけっこ薄いから厚みの調整しなくていいのがほとんど。研ぎやすくて、研ぎやすくて、泣きそうになった。

中板橋商店街の夜は早い。
となりの八百屋さんも向かいの洋服屋さんも化粧品屋さんも店じまいした。
夜のとばりがおり始めたころようやくぜんぶの預かり物をお渡しして、仕事が終わった。
この日、天気は快晴。日中は夏の陽気。夕方は涼やかな風。人通りも多くはないのどかな商店街のはずれで、私の心の中でだけ怒涛の嵐が吹き荒れた午後だった。
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ジャンル : 趣味・実用

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