ふるーい菜切包丁

菜切包丁はけっこう古いものが多いのだが、これは60年ぐらい前のものとのこと。
年月を考えればきれいな状態だと思う。
刃がそれほど減っていないのであまり使われていなかったのではないだろうか。

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“伊豆守”という見たことの無い銘。

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 「伊豆で買ったんですか?」

と尋ねると、

 「栃木で。」

伊豆の鍛冶屋さんのものを栃木の刃物屋さんが売っていたのだろうか。

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この包丁、異常に薄い。
先端の厚みは1ミリ以下だった。
今まで見たなかでもいちばん薄いかもしれない。
薄い菜切包丁は好きなのだが、下手な鍛冶屋さんの打ったものだとハガネを出すのが大変な場合がある。
1ミリ以下の厚みで3枚の割込みになってるわけだから、鍛冶仕事については詳しくないのだが、技術的にけっこう大変な作業なのではないかと思う。

この包丁はさらに、すごく柔らかかった。
ふつうのものは薄くてももう少しパリっと張りがあるのだが、欧米のフィレナイフのようにフニャフニャなのだ。

で、研いでみてわかったのだが、

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なんと、割り込みではなく全鋼だったのだ。
刃先のあたりがナミナミの波線状に見えるが、刃体がまっ平らじゃないので小刃をつけたときの段差にムラができているだけなのである。たぶんあんまり切れ味良くないんじゃないかなあ。薄いからまあまあ切れると思うけど。

考えてみると60年前というと1950年代で、東京オリンピックも開催されていないし新幹線も走っていないしアームストロング船長も月に降り立っていない、まだ戦後の復興期だ。
朝鮮戦争は休戦しているので特需であるていど復興しているかもしれないが、グーグル画像で昭和30年を検索してみると、まだまだぜんぜん貧乏そうだ。
物資が豊かではなく、日立金属の白紙だの青紙だの、武生特殊鋼材のVG10だのといった刃物用高級鋼材なんていうしゃれた鋼材なんてまだ無かったか、あっても庶民の手に届くものではなかったのかもしれない。
だけど活気に満ちているなあ。高度経済成長期がはじまった頃で、日々目に見えて暗い時代から立ち直っている時期じゃないだろうか。ある意味ではこういう時代が一番楽しいのかもしれない。

残念ながら商業的な観点からは良い包丁では無い。しかし時代背景を考えると感慨深い包丁である。
実用に供される道具としてほとんどのものは消耗され捨てられたと思うので、こういう形で残っていることは貴重だと思う。
切れ味や刃持ちが少々甘かったとしても、これを60年ちゃんと保管してきたお客さんが安易に捨ててしまうなどということは考えられない。
こういう包丁は、幸せな包丁だと思う。
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