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本焼き

ちょっとした事情でお盆前の週に兵庫県伊丹市の実家に帰省してきた。
平日に関西に来たのは久しぶりで、せっかくなので地元ではあるがちょっと観光してみることにした。

実は刃物の町堺を廻ったことが無かったので行ってみた。
阪堺電車という路面電車が走っていて、その沿線近傍に有名な刃物店が軒並み点在しているようだった。駅でいうと3~4駅ぐらいの範囲なのだが、駅と駅の間隔がバスの停留所ぐらいしかないので歩いて回ることができる。
平日の昼間であったがこの日は炎暑で、路面電車の走る広い通りには人の姿がほとんど無く、バグダッドカフェのワンシーンのようであった。
お店はどこも入口を閉め切っており人の気配が無い。買い物の予定は無いので中に入るのは気が引ける。おずおずと引き戸を開けて入るがやはり客はいない。
冷やかしなら酷暑なのでまだいいかもしれないが、どちらかというと暑苦しかったであろう野次馬の客に、何件か覗かせていただいたどのお店も嫌な顔ひとつせず気さくに対応してくれた。

水野鍛錬所さんではツナギを着た職人さんが話し相手をしてくださった。
さりげなく本焼き六寸の和牛刀がショーケースに入れられていたので、参考までですがと値段を聞いてみたら、税込みで8万円ちょっととのこと。OMG!

本焼き包丁について世間で言われている噂には実は迷信じみたものが多いのではなかろうかと私は疑っている。たとえば本焼きと合わせ包丁では本焼きの方が硬いという噂があるが本当なのか。尋ねてみたところ、同じ鋼材でも本焼きの方が硬いだろうとのお考えであった。
包丁の本焼きは刀と違ってかなり研ぎ減って小さくなっても使えなくてはならない。刀剣は身幅が三分の一も研ぎ減ってしまうとハガネの有る無しとは関係無く物体としての強度が著しく劣り武器として役に立たないから、大きく研ぎ減るという想定は必要無い。だから刃線際のわずかな幅にしか焼きが入っていない細直刃という刃文もある。しかし包丁は半分ぐらいまで研ぎ減っても使えてほしい。せめて三分の一ぐらいは。すると土置きして焼きが入らず柔らかいままにする部分の面積は控えめにならざるを得ない。柔らかい部分を残すのは刃物全体が硬いと破損しやすいためだから、硬い部分の面積が広い本焼き包丁は、多少でも壊れにくいよう焼きが入って硬くなる部分の硬さを少し控えめにするのではないだろうか。
そんな想像をしていたのである。私自身は本焼き包丁を持っていないし、検証のために購入するにはだいぶ高価なので、想像していただけである。
しかし作っている鍛冶屋さんにして硬いというのだから、その可能性が高い。
しかし硬いとしてもそれは機能的な優位性と関係ない。
本焼きの優位性として、合わせ包丁における鍛接時のストレスが無いので、鋼材の良さを最大限活かしきることができるといった点があるようだ。なるほど。ふだん合わせ包丁のグネグネ曲がったやつらと悪戦苦闘している身にとってはたいへん素晴らしい利点だ。

しかし研ぎ屋という立場から、本焼き包丁の最大の価値は、研いでいると浮き出てくる刃文の面白さである。ダマスカスはケレン味が強すぎて趣に欠ける。刃境線は創意工夫の余地がない。
本焼きで、表の土置きを多くして裏を少なめにするということはできないのだろうか。もちろん焼き入れすると裏に曲がってしまうだろうが、そこは何とかしていただいて。
それができれば表にはかなり自由な刃文を描くことができると思うのだ。山鳥毛のような刃文を描いた先丸蛸引きなんかができたら(ケレン味たっぷりだが)、50万円以上でも買いたいという人はいっぱいいるに違いないと思うのである。


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テーマ : 刃物
ジャンル : 趣味・実用

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Re: 鍛冶屋次第・・・

> 本焼でも柔らかい人もいますが、一般的には地金がない分、本焼の方が研いだ感じが硬いのだと思います。

そうそう。
それもあると思うし、ユーザーの場合はそんなにたくさん比較してる人いないと思うし、この道何十年で5~6本使い潰してきたって人でも全部同じ鋼材で本焼きと霞を比較してる可能性は低いでしょう。


> 誰が打っているかの方が硬さへの影響は大きい気がします。

だから、実際に作ってる鍛冶屋さん本人が言うならだいぶ信頼性が高いんじゃないかなあと。
硬度測定してるわけじゃないようなのでそれでも感覚的なものですけど。



> お帰りの際は京都で途中下車して、有次なども見てこられてはいかがでしょう?

有次行ってきましたよ。
外国人客でむちゃ混雑してたんで、ショーウィンドウ眺めただけです。
築地や河童橋みたいな感じでした。
京都有次の包丁はほかと一風変わったのが多くて好きです。

鍛冶屋次第・・・

本焼でも柔らかい人もいますが、一般的には地金がない分、本焼の方が研いだ感じが硬いのだと思います。

とはいえ、池田美和さんや土井敬次郎・逸夫さんあたりの青紙は霞でもガラス砥石で研いでいるかのような硬さです。

というわけで結局は誰が打っているかの方が硬さへの影響は大きい気がします。

お帰りの際は京都で途中下車して、有次なども見てこられてはいかがでしょう?

Re: No title

こんど行くときは遊びに行かしてもらいます(笑)


> (^^)/堺まで来たんですかぁ!?
> それなら もう少し足を延ばして寄ってくれれば良かったのに!
> また機会があれば立ち寄って下さい・・・・。

No title

(^^)/堺まで来たんですかぁ!?
それなら もう少し足を延ばして寄ってくれれば良かったのに!
また機会があれば立ち寄って下さい・・・・。
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