FC2ブログ

薄刃包丁の立体構造

このまえ電話で問い合わせがあった。
薄刃包丁をいろんな研屋に出したが切刃を平らにしてもらえない、ということだった。

そういえばむかし悩んだなあ。



§薄刃包丁の立体構造


001_20190325081954059.jpg




薄刃包丁はまあこんな感じの形をしている。関西型は先の峰側が丸い。

立体構造はこんな感じになる。

002_20190325082208179.jpg


(1)がボキっと折った断面。裏スキとかは模式図なので省略。

(2)が長手方向の断面。一般的には刃元の方が分厚く、先端にかけて徐々に薄くなっている。



§キリハはなぜ平らじゃないのか

(2)のように厚みが変わっていて、峰のラインとシノギのラインと刃線のラインが平行だと、ヒラとキリハと裏の全ての面を平らにすることはできないのだ。


裏とヒラが平らなままで、キリハも平らにしようとすると、

003_201903250822104aa.jpg


この、どちらかの形になってしまうのだ。

だから、刃線とシノギと峰が平行に見えるようにすると、どうしてもどこかの面がネジれるのだが、その面が通常はキリハなのである。

薄刃包丁のキリハは、平らではない。

この形状の問題は、値段が高い立派な薄刃包丁ほど顕著に表れる。
安くて厚みが薄い薄刃包丁だとあまり問題にならない。


§どう研ぐか

キリハがネジれているということは先端側と刃元側で角度が違うということだ。先端側の方が角度が大きく、刃元側の方が小さい。
先端側のキリハの面が砥石にピタっと当たるようにすると、シノギは全体的に当たるが、刃元側の刃線が砥石から浮いて当たらない。
刃元側のキリハの面を当てると、刃線は全体的に当たるが、先端側のシノギが砥石に当たらない。

研ぐにあたっては刃線を砥石に当てないとはじまらないので、刃元側の面を角度の基準にした方がいい、というのが私の考え。
実際には刃元側だけでもキリハがピタっと砥石に当たるとは限らないのだが。

だから、合わせ包丁であれば、刃境線から刃線までのハガネの面が平らになれば良しという意識で研げば良い、ということに、私はしている。


005_201903250822136e1.jpg


研ぐと切刃の部分に当たりムラができてしまうが、実用上では「そんなもんだと思って気にしない」がいちばんじゃないかな。
ムラをきれいにしたいときは、私は砥石の小割れ(薄くなった砥石を割って小さくしたもの)を使って磨いている。
ふつうの角型砥石だけだと、包丁をひねって当てようとしてもほとんどの包丁は当たらない部分がある。

使い込んで研ぎ込んでいっても、新品の状態と同じように三本のラインを平行にしたい場合は、研ぐたびに刃付けとは別に少しづつシノギを修正してやらないといけない。

シノギを修正せずにふつうに研ぎ込んでいって、キリハが平らになると、キリハの刃元側の面に合わせて研ぐ人は「§キリハはなぜ平らじゃないのか」の上の図のようにシノギが斜めになり、先端の面にあわせて研ぐ人は上の図のように刃線が斜めになる。


§なぜこんな形になっているのか?

先が薄くなっている理由は、バランスの問題だと思う。
厚みがあって立派な薄刃包丁ほど、刃元と先端を同じ厚みにすると、ヘッドヘビーで使いにくくなってしまうのだろうと思う。鉈みたいな叩き切る道具ならその方がいいのだが。
関西型みたいな鎌形だと多少は緩和されそうだが、研ぎ減るにつれて刃渡りが短くなるというネックもある。


ではねじれている面をキリハではなくヒラや裏にできないのか。
キリハがねじれていると研ぎにくいではないか。


ヒラをねじれさせたらどうなるだろう?

裏とキリハが平らで三つのラインが平行だとすると、シノギの高さは刃元から先端まで同じでなければならない。
ヒラをねじれさせて峰の厚みの帳尻を合わせようとすると、先端側でシノギが峰より高いという変な形になってしまう。

004_20190325063820e7e.jpg

これでも別にいいんじゃないのか?という気がしないでもないのだが、先があまり軽くなってくれないかもしれない。


裏をねじれさせるとどうなるだろう?

裏押しの面が平らというのが片刃和包丁の基本なのでそれは難しいだろう。
と思ったのだが、実際に平らでなければならないのは刃線際の面だけで、裏スキ部分は凹んでいるのだし、もしかすると何かやりようがあるのかもしれない。
頭が悪いので想像だけでは具体的にどんな曲面になるのかイメージできないが。


長年この形が定着していて、どこの包丁もみんな同じような構造のようだから、私がちょっと考えて革新的なアイデアにたどり着く可能性は極めて低いとは思うが。
いつかクレイモデルとか作ってもうちょっと具体的に考えてみようかな。


§追記。裏がねじれた形について。

厚紙で何パターンかモデルを作って考えてみた。

裏が平らじゃなくても良いなら、

(1)厚みが刃元から先端にかけて薄くなっている、

且つ、

(2)峰とシノギと刃線が平行で、キリハが平らである、

という形にすることはできる。

それでけっきょく、

「裏は平らじゃなくてもいいのか?」

という問題について熟慮してみたんだけど、新品のときはいいとして、使い込んで刃線に歪みが出てきたときに、まっすぐに修正するのがものすごく難しくなるケースがありそうだ。キリハは平らということが条件ならば裏を研ぎ減らして修正する必要があるから。
徒にハガネを減らしすぎてしまう危険がある。
そして裏には裏スキがあるので、ついていてほしい肉が初めから無いという危険もあり得る。
製造時に裏スキの曲率まで厳密に計算して正確に作らないとダメで、合わせだと研削加工で裏を削りすぎるわけにはいかないから鍛造の段階でおおむね目的に合った曲面を作っておく必要がありそう。
そして使う人も裏をどう当てるか理解していないと、ほかの刃物と同じようにベタに当てようとするとダメにしてしまう。

といったことをいろいろ考えると、やはり、

「裏を歪めるというのは難しい」

という結論になった。

とすると、厚みが変わりつつ三本の線が平行という条件で、キリハをまっ平らにするのも、無理だ。
程度の問題で歪みをなるべく小さくすることはできるけど。
関連記事

テーマ : 包丁研ぎ
ジャンル : 趣味・実用

コメントの投稿

非公開コメント

Re: 研ぎには最悪の素材ですね(笑)

昨日厚紙で立体模型を作ってみたんですが、想像と違って、キリハを平らにすることはできそうです。
続編書きます。



> BROさんのおっしゃる通りです。薄刃は、研ぎに対して真面目に考えたことがない限り、研いでいっておかしくなるようにできています。正直、長い間使うことを考えると、作り手の側も、もう少し「何も考えずに研いでも形が大きく崩れにくい」包丁を作ってほしいなと思います。
>
> 酔心が本霞プラスという形で、形が崩れにくい仕上げをしたシリーズを出し始めてるとはいえ、まだまだ少数ですし・・・。

研ぎには最悪の素材ですね(笑)

BROさんのおっしゃる通りです。薄刃は、研ぎに対して真面目に考えたことがない限り、研いでいっておかしくなるようにできています。正直、長い間使うことを考えると、作り手の側も、もう少し「何も考えずに研いでも形が大きく崩れにくい」包丁を作ってほしいなと思います。

酔心が本霞プラスという形で、形が崩れにくい仕上げをしたシリーズを出し始めてるとはいえ、まだまだ少数ですし・・・。
プロフィール

BROさん

Author:BROさん
東京都練馬区の研ぎ師です。
営業案内
ご依頼はこちら
ご意見・ご質問はこちら
ご利用頂いたお客様からのご意見ご感想はこちら

カテゴリ
最新記事
最新コメント
検索フォーム
QRコード
QR
リンク