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ダメ、ぜったいダメ。

さいきん何件か連続。
ぜんぜん別のところで預かったもの達なので、同じ人の手によるわけでは無いはずなのだが。

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ちなみにこれは分解したハサミの裏側の写真。

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何がいけないのかというと、「触点」が削られてしまっているのだ。


触点というのはこの部分。

触点

「点」ではなく線というか面なのだが、横から見ると

触点2

点に見えるから触点というのかもしれない。

この図のように鋏の刃体は少し湾曲していて、二枚の刃体の間に隙間ができる構造になっている。
二枚の刃体が交差してものを切る部分を私は勝手に「切断点」と名付けているのだが、この切断点が、ハサミを開いたときから閉じていくに従って、刃線上を手前から切っ先に向けて移動して、ものを切ってゆく。
切断点と反対側の支点が触点なのである。
触点は、少し盛り上がっているのだ。
みなさんの手元にある文房具鋏やキッチン鋏を見ても、この構造はあんまりはっきりしていないかもしれない。
理美容シザーや裁ち鋏のようなしっかりした作りのものは、しっかりはっきりしている。

で、この触点が削れて高くなくなってしまうとどうなるかというと、

004_20190412094403a21.jpg


こんなふうに閉じた状態でも刃先が浮いたままになってしまって、ネジを締めてもこれ以上締まらないのだ。

幸いこのハサミは他の部分に致命的な変形が無かったので、先が空いてしまうことさえ我慢すれば、ふつうに切れるようになった。

しかしこのご依頼はちょっと厄介で、

「大人が使うと切れるけど子供が使うとうまく切れない。」

という内容。
もしかすると、手が小さくて指輪(しりん)に指を通しても刃体を擦り合わせる方向に力が作用しないのかもしれない。
実際に使ってるところを見ていないのではっきりわからないのだが。

とりあえずほかの部分は直したので大人の方が使うぶんには「とても良く切れるようになった」とご連絡を頂いたが、子供さんがどうだったかはわからない。

で、いちばん初めの写真を再掲するが、

003_20190412094402dfd.jpg

この斜めに走った研削痕からして、砥石なりヤスリなりグラインダーで削られていることは間違いない。
そして、ご自分で分解したことは無いそうだから、修理に出したときにやられてしまったっぽいのである。

お金をもらって仕事をしているプロとしては、あり得ない作業である。
上手とかヘタという問題では無い。失敗したとか成功したとかいう問題でもない。知っているか知らないかという問題だ。
修理しますよと言って預かって、お金をもらってこんなことをしてるんだったら、弁償しなければいけない所業だ。

それで、更に暗澹とするのは、これをやった人は同じ作業をほかのハサミでもやっているだろうということ。そして、まったく違う地域で同じような症状のものを何件も見かけているので、こういうことをする業者がたくさんいるらしいということである。

見分けることは不可能だ。私も作業しているところを見ないかぎりわからない。

お客さんに対して、どうすればいいのかという解法をご提案できないことに、一番暗澹とさせられる。
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テーマ : ハサミ
ジャンル : 趣味・実用

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No title

思わず、「木屋」の墺国特殊鋼の甚五郎 TOBASAMI を取り出して、見てみました。家内の母親が昔使っていたもので、錆びたので、一年ほど前に木屋に研ぎに出したものです。

当然、触点はしっかり残っています。何万円もするものではないかもしれないけれど、70年近く生き残ってきた道具は、道具として良い状態で次の世代に渡すべきだとの思いが強いです。

小生は、人様の包丁を何とかおかしくないように研げるようになりましたが、鋏、特に裁ちばさみは怖くて、人様のものの研ぎは手が出ません。

やっと、剪定ばさみと事務用の鋏を研ぐだけです。

BROさんの紹介された、この裁ちばさみは、いくら何でもですよね。素人(少額でもお金をもらえば、素人という言葉に甘えられないので、お金をいただいて甘えにならないようにしていますが)の小生でも驚きです。

そういえば、先日大衆理容に行って、理容師さんと話をしたら、鋏は月1に砥ぎ屋が回ってきて、それでお願いするそうです。車の中で、機械研ぎをしているようだけれど、決して作業場は見せないそうです。機械研ぎだから、消耗が早い、でも今は手研ぎなんていないし、と言っていました。1丁1000円だそうです。これも何だか怖いですね。

こんどの土曜日は、恒例の地域おこしイベント会場での包丁研ぎです。ひょっとしたら鋏が来るかもです。無茶して、壊すよりお断りする方が、お客様のためになることも有るので、心して対応します。

Re: No title

ハサミはですねー、ぼくも自分で勉強しつつお客さんのハサミ修理しながら理解してきたような次第で、何千年も前からある身近な道具なのに、体系的に構造を説明しているものがネットにも物理本にも見当たらないんですよ。書いたらどっかで出版してくれかなあ?
そもそもハサミをテーマにした本というのが日本に3冊ぐらいしか無さそうだから、売れないんでしょうけど。

しかし触点ぐらいちょっと調べればいくらでも出てくることで、そんなことも知らないでお金取ってハサミの修理するっていうのはだいぶ考えられないことです。





> 大事な道具を修理に出したはずが、かえって酷い状態にされるのは悲しいですね。
>
> 包丁もそうですが、特に鋏に関しては民間でもいいので資格を整備してもらえると、消費者側としては大変助かる気がします。
>
>
> 追伸:「あらと君」、思い切って三丁掛けを入手しました。今持っている荒砥石のどれよりも面が狂いにくく、研削力もなかなか高くて実際に使ってみてPAは良いというのが実感できました。ありがとうございました。

No title

大事な道具を修理に出したはずが、かえって酷い状態にされるのは悲しいですね。

包丁もそうですが、特に鋏に関しては民間でもいいので資格を整備してもらえると、消費者側としては大変助かる気がします。


追伸:「あらと君」、思い切って三丁掛けを入手しました。今持っている荒砥石のどれよりも面が狂いにくく、研削力もなかなか高くて実際に使ってみてPAは良いというのが実感できました。ありがとうございました。
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Author:BROさん
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