刃物の切れ味

包丁などの刃物の切れ味は、

「対象物の結合を切る力」

と、

「切り進むときにかかる抵抗の大きさ」

の二つだけで、ほとんど決まります。


まず、「結合を切る力」は、刃物によってどう違うかを考えてみます。

力を加えるのは私たち自身です。包丁の刃がチェーンソーのように回転するわけじゃありません。
同じ力を加えたとき、それがどう変換されるかが問題です。
接触面積と単位面積あたりに加わる力は反比例します。刃先が鋭いほど接触面積は狭くなります。

つまり刃が鋭いほど良く切れます。

当たり前なことですが、もうちょっと理屈っぽく考えておきます。

刃先の鋭さは、工学の世界では「刃先端R」「ノーズR」などと表現するそうです。
Rは半径です。
要するに「刃先の幅の半分」という意味です。

半径ということは、刃先は球状になっていると仮定しているわけですが、実際に球形なのか台形なのかはわかりません。
しかし、もし台形や三角形のように角があるとすれば、もっと小さな刃先角があることになってしまうので、とりあえず球形だと仮定するのが合理的なのでしょう。

良く研いだ刃物の刃先端Rは、数ミクロン(1/1000ミリメートル)程度になっているようです。
1ミクロン以下の場合もあるようです。

数十ミクロン程度の大きさになると目視で厚みの区別はできません。
それでも物は切れます。
10ミクロン程度でも爪に引っ掛かると思います。実用に耐える切れ味でしょう。

しかし更に細かく研いで5ミクロンになると2倍、3ミクロンで3倍強、1ミクロンで10倍の差になるわけですから、見えないレベルでもかなり違いが出るのです。


刃物によって、どれだけ鋭くできるのかが違います。

より鋭くできる刃物は、刃金に使われる鋼材が硬いのです。

硬いということは、原子(粒子)の結合力が強く、且つ、位置関係が変わらない、ということです。
柔らかい金属の性質には二種類あって、ひとつはボロボロと割れたり欠けたりしてしまう物。これは単純に結合力が弱い。もうひとつはグニャグニャ曲がってしまうもの。これは、必ずしも粒子の原子や粒子の結合力が弱いとは限りませんが、位置関係が変わるのです。金属を押して弾性変形させている状態は、原子と原子の距離が伸びているのだそうです。手を離すと縮んで元に戻る。

柔らかい包丁では、研いだときに出る「カエリ」がグニャグニャしてなかなか取れないことがあります。
これは一定以上の薄さでは形状が維持できなくなっている証拠です。
硬い包丁のカエリは簡単に取れます。

硬度が高いということは、刃先端Rを0.5ミクロンまで小さくできる、或いは0.3ミクロンまで小さくできる、ということを意味します。
硬度の高い包丁でも研がずに刃先端Rが大きいままなら、柔らかい包丁と切れ味は変わりません。



では次に、「切り進むときにかかる抵抗の大きさ」について考えてみます。

まず、くっついている物が離れたくないと言って抵抗するのが切断抵抗です。
これは先述した「対象物の結合を切る力」で鎮圧します。

切断抵抗以外の主な抵抗は、「斜面抵抗」です。
斜面抵抗とは山を登るときの大変さだと考えてください。斜度が大きいほど大変で、荷物が重いほど大変ですね。
斜度が刃角度に該当します。
荷物の重さは斜面にかかる圧力の大きさです。
紙のような薄い物なら斜面抵抗はほとんどゼロです。魚の身は柔らかいのでそれほど大きくありません。カボチャのような硬い物では大きくなります。

刃物の表面の摩擦係数も関係しますが、指で触って感じるほどデコボコしていないかぎり、影響は小さいです。それよりも、鏡面に磨いた刃物の表面と切れた食材の間に分子間力が働いて、食材が張り付くことがあります。その方が強い抵抗になることが多いです。
張り付きを防ぐには多少刃物の表面が荒れている方が良いです。
蛤刃や二段刃なども張り付き防止に効果があります。


刃角度が大きいほど斜面抵抗は大きいです。

さらに、食材に当たる斜面が広いほど抵抗が大きくなります。

ある包丁の刃先少しだけ角度が大きくても、包丁自体が薄ければ、斜面の広さは小さいので抵抗はあまり大きくありません。それより多少刃角度が小さい包丁でも、厚みがあると、斜面の面積が大きくなるので抵抗が大きくなることがあります。
刃先端Rが同じで刃角度が同じであれば、薄い包丁の方が厚みのある物を切るとき斜面抵抗が小さくなるので、厚い包丁より切れ味がよくなります。


まとめると、切れ味に影響する包丁の性質は、

・刃金の硬度

・刃角度

・刃の厚み

・包丁の重さ


だと言えます。


薄くて硬い刃物ほど切れ味が良いわけですが、割れやすいという欠点があります。カッターナイフでカボチャは切れません。
また、いちばん硬いダイヤモンドで刃物を作れば最高の切れ味になるんじゃないかということになりそうですが、硬すぎると研いで刃先を薄くすることができません。刃先端Rが同じなら材質が硬くても柔らかくても切断能力は同じです。

今回は切れ味のことだけを考えてみましたが、良い包丁、悪い包丁、という場合にはもっといろいろな要素が関係します。
切れ味は要素のひとつにすぎません。



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(Last modified 17.05.2012)
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