ハサミの切れ味

前記事で刃物の切れ味に影響する要素を説明しました。
単純化すると刃先端Rと斜面抵抗や摩擦抵抗が切れ味を決定します。

ところが、ハサミに関しては必ずしも刃先端Rが小さいほど良く切れるとは言えないのです。

刃先端Rを小さくするためには、刃角度を小さくし、粒度の細かい砥石で研磨すれば良いです。
たとえば包丁の刃角度は15度~30度程度です。実用上は#1000程度でもよく切れるようになりますが、刺身包丁や菜切り包丁など鋭い切れ味が求められる包丁では、#7000以上、場合によっては#10000以上の仕上げ砥石を使います。

一方、ハサミの刃角度は浅いものでも35度程度で、80度以上のものもあります。ただし90度以上になると切れません。
また仕上げの番手は#1000~#2000程度でよく、#5000を超えると切断対象物が滑って逃げてしまう場合が多いです。

ハサミには一般的な刃物に関する切れ味の常識が通用しません。

この原因は、ハサミの刃物としての特異性にあります。

ハサミは以前にも書きましたが、二枚の刃体で切断対象物を文字通り挟み込んで切り離す刃物です。
ハサミを使わずに布や紙を切る場合、カッターナイフなどを使うでしょう。カッティングマットなどに対象物を敷いて、カッターナイフを押し付けて切ります。いっぽうハサミで切る場合は対象物は宙に浮いた状態です。つまり対象物が固定されていないのです。

固定されていない不安定な状態にある対象物を、二枚の刃体で固定し且つ切るというのがハサミの特徴です。

対象物を固定するという機能に対して、刃が鋭すぎることは悪影響です。
対象物を固定する役割は刃表の切刃の部分が担います。ここが滑らかすぎると対象物が滑るのです。
刃角度が浅すぎることも対象物を固定することに対しては悪影響です。刃体相互の角度が90度に近い鈍角である方が対象物を捕まえやすいのです。

ハサミの切れ味は、切る対象によってどういった要素が影響するのか異なり、他の刃物とは逆の状態、すなわち刃角を鈍角にしたり仕上げを荒めに留めて刃先端Rを大きめにしておいたほうが良く切れることがあるのです。

(Last modified 14.01.2011)
関連記事

テーマ : ハサミ
ジャンル : 趣味・実用

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

BROさん

Author:BROさん
東京都練馬区の研ぎ師です。
営業案内
ご依頼はこちら
ご意見・ご質問はこちら
ご利用頂いたお客様からのご意見ご感想はこちら

カテゴリ
最新記事
最新コメント
検索フォーム
QRコード
QR
リンク