蛤刃(はまぐりば)

先日ワールドビジネスサテライトで、日本の包丁が海外でも売れてるって話題が取り上げられていました。
そこで新潟県燕市にある吉田金属のグローバルの包丁が紹介されていて、「当社の製品は他社と違って蛤刃」で、「ぐっと入っていく感じ」「衰えにくい切れ味」「刃持ちが良い」などと紹介していました。

蛤刃というのは包丁の断面図を見たときに側面が平らじゃなくて蛤の貝殻みたいに曲線になっている刃のことです。Rが小さいものは浅利刃(あさりば)とも言います。

こんなかんじ。

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洋包丁は蛤刃になってる物がけっこう多いです。グローバルだけじゃない。



ちなみに100均のダイソーで売ってた包丁はこんな感じでした。

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日本製だと刃先が蛤刃になっていないものでもだいたいこんな感じです。

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ついでに片刃の和包丁の断面はこんな感じ。

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包丁の値段差は、素材である鋼材の違いもあるけど加工の手間の違いが大きいのです。

ちなみに下図のようにエッジの部分を削って造ります。
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角を削ると、削らない状態より斜面抵抗が減りますし、切った物が張り付きにくく身離れが良いという効果があります。
たとえば剪定鋏は必ず蛤刃なんですけど、切断対象物である木の枝は硬くて樹脂で汚れて、刃の表面が平らだと抵抗がすごく大きくなるのです。
食材は木の枝ほど極端じゃないけど、きゅうりを輪切りにしたとき張り付きにくいといった効果はあります。刻み物をするときなんかけっこう違う。

摩擦抵抗や斜面抵抗が小さくなると期待されるから、切れ味も良くなるでしょう。
ちなみに片刃の和包丁の裏すき(裏の凹んでいる部分)も抵抗を小さくする効果があります。それで切れ味を増している。

和包丁の刃先を蛤刃気味に丸めて使っている人もいらっしゃいます。
シノギじゃなくて刃先側を削っているので、もちろん身離れも良くなるけど、刃角度を鈍角にすることで刃持ちを良くする効果が大きいんじゃないかと思います。

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ところでこの蛤刃は、理美容鋏でも流行しています。
この理由がどうしても私にはわからなかった。
毛髪の直径は約80μmです。平面部分の摩擦抵抗や斜面抵抗なんか関係ありません。

たとえば「蛤刃は刃先を鋭角にできる」などと説明しているサイトもありましたが、平面部分の角を削るだけなので関係無いでしょう。剛性が問題ならむしろ削らない方がいいはずです。剛性を保ちながら軽量化できるのかなとも思いましたが、ほとんど変わらないでしょう。
蛤刃についてホームページで何らかの説明をしているシザーメーカーさん数社に質問してみましたが、「なるほどねー」と思える回答は今のところもらっていません。

理美容鋏については、私は理美容鋏の蛤刃には機能的な意味は無いと思っています。
もし理美容鋏について蛤刃の具体的な機能をご存知の方がいらっしゃいましたら教えてください。

見た目はきれいです。それは大事なことだと思いますが。
デメリットはユーザーが研ぎにくいこと。研ぎ屋さんに出しても仕上げにひと手間かかる分の手間賃で高くなります。


昔は理美容鋏や包丁はユーザー自身が研ぐのが当たり前だったんだけど、そういう習慣が無くなったのはステンレスの普及に拠るところが大きいと思います。ハガネしか無かったときは、手入れを怠ると簡単に錆びるから逆にユーザー自身のメンテナンス意識が高かったのです。
研ぎ屋さんとしてはありがたいことなのかもしれないけど、メーカーに出したら1回3千円、送料込みで5千円近くもかかると、ちょっと切れ味が落ちたぐらいでしょっちゅう研ぎには出せません。
ハサミ自体の値段もふつう2万円以上、高いものは10万円以上するから、しょっちゅう研いですぐ減ってしまうのも困ります。
そういった理由で、研ぎに出される物はかなりギタギタになっているものが多いです。

プロが使う道具がそんな状態というのは問題でしょう。

切ってもらう立場としてもイヤです。

私は、安くてシンプルなハサミでも自分でコマメに研いで使っているお店が正しいと思います。

メーカーや研ぎ屋には欠けたり曲がったりしたときだけ出したらいいんです。
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Re: ハサミの蛤

貴重なご意見ありがとうございます!
理美容のカットは、私は実体験ができないので、現場の方のご意見はありがたいです。

ただ、切る感触であれば、刃先およそ0.08㎜だけの問題で、刃体断面全体が蛤刃でも剣刃や段刃でも、関係無いと思うんです。
蛤刃か直刃かという点以外に違いのないハサミを作って、実験でもしてみないとわからないことで、私も実験していないので単なる思い込みかもしれません。

だれか実験してくれないかなあ。

ハサミの蛤

はじめまして

最近からですが、過去記事から読ませていただいてます。
もう、古い投稿なので必要ないかもしれませんが蛤刃について。

仕上がりは同じにできますが、蛤のほうがやさしく切ることができます。
うまいこと言えないでずが、サクッと切れるかパチンッて切れるとゆうような感じです。

面を出す時とか、細かいグラデーションをつける時、蛤のほうがサクサクとはいるので、髪を切りやすいです。

個人的な意見ですが、私の蛤を使用している理由です。
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