食中毒

「焼肉酒家えびす」でユッケを食べた複数の客が食中毒を発症し一部が死亡した事件。
「確率の問題」で書いたことが、この問題にも当てはまります。


・平成10年に厚労省が、O157による食中毒事件の発生を受けて、「生食用食肉等の安全性確保について」という通知を各県に出します。
・禁止規定ではない。罰則などの強制力は無い。
・厚労省は2008年と2009年に実態調査を行ったが、生食用牛肉を出荷した食肉処理施設は無かった。


厚労省の基準に準拠した「生食用牛肉」を取り扱かわれた実績は記録上ゼロ。O157が問題になった当初はあったのかもしれないけど。生牛肉料理であるユッケは当時から現在まで、日本全国の焼き肉店で提供されている。

13年間この体制で運用されてきた。というか、平成10年より前は基準が無かったわけだから、加熱用も生食用も区別されない状態でずううっと販売され続けてきた。

報道されない食中毒はあったかもしれないけど、死亡者が出るような大問題は起きなかった。2006年に死亡者が出たO157の原因は生肉じゃないだろうし。


そうして考えると、たぶん厚労省の基準に準拠しない現在の状態でも、食中毒が発症したり死亡に至るのは何十万人とか何百万人に1人でしょう。確率でいうと0,001%とか0.0001%みたいな数字。年率にすると更に少なくなります。延べ人数にすると何億人とか何十億人に1人。
交通事故の死亡者数より絶対に少ない。飛行機事故の被害者数ぐらいかも。
生活必需品という側面もある車と、無くても大して誰も困らないユッケを並べて考えるのは問題かもしれない。
だけど、たとえば公道走行を前提にした全ての新車に時速100キロのリミッターを義務付ければ、13年間で交通事故死亡者数が3人と重軽傷者数が50人ぐらいなら減った可能性が高い。

話を戻すけど、確率的には実はものすごく低いから、フグの肝を食べる人と同じように個人が自己責任で食べますっていうことがあっても「自殺行為」というほどの問題じゃありません。


だけど店とか卸業者とか行政は、大量の人の健康に対して責任を持ちます。確率が100万人分の1人だとしたら、100万人客がいたら1人は死ぬ。
個々の店レベルだと、焼き肉屋さんは全国に数千~1万店舗ぐらいはあるだろうから、今回「焼肉酒家えびす」で食中毒が出たけど、運の要素も大きくなる。もちろん安売り店は仕入価格を叩く分だけリスクも高くなるんだろうけど。
いずれにしても、10年とか50年とか100年という期間で考えたら、どこかの店の客が何人かは死ぬんだろう。
日本中の焼き肉店がやってるんだから、それが「うちの店」になる確率はそんなに高くないと経営者が考えるのは不合理じゃない。

それよりも他店が出してるユッケを出さないことで客数や売り上げが減るという毎日の問題が大事です。

卸業者の単位でも、自店が責任負担することになるリスクは高くないと考えるかもしれない。それよりも目先の切実な問題が優先されます。小売店がユッケ用の肉をくれといったとして、他の卸業者は販売してるのに「うちではできません」或いは「すごく高いです」と言ったら、他の卸業者に鞍替えされるわけだから。


発生確率はすごく低いけど、重大な事故になるリスクというのは、市場原理では回避できません。行政にしか管理できません。
市場原理は冷徹です。経済的には人間1人の命はそんなに高くない。毎年何人か死ぬようなリスクだったら淘汰されるけど、10年に一度死者が出るぐらいいの死亡確率は事実上容認されます。
今と同じままで対策をしない場合、1~2年は売り上げが減るかもしれないけど、事故が起きずに5年も経てば元に戻ると思います。



さて。
生肉による食中毒を極小化するには、厚労省の通知を政令レベルに引き上げて強制力を持たせるほかないとして、そうすると生食用の肉類はみんな価格が暴騰するでしょう。ユッケだけじゃない。レバ刺しとかも。
そこで私はこの際「小泉方式」もアリじゃないか、と考えるわけです。
屠蓄業者にも卸業者にも小売業者にも、もうすこし運用コストが膨大にならない程度の緩やかな基準を、ただし強制する。各業者に遵守状況の証明責任を負わせる。
年少者と高齢者への販売は禁止する。
一定のリスクがある旨を表示する。
その上で客に選択させる。もし運悪く客が食中毒になっても客の自己責任。
小泉純一郎が米国産牛肉の輸入を強引に解禁して「嫌な人は食べなければいい。」と言い放った理屈。
ただし利用者が自己責任で選択できるようにリスク情報を開示する。

米国産牛肉の問題なんかニュースにもならないけど。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000123e4.html

こういうのも、「日本向け輸出条件である20か月齢以下の牛由来であることが確認できないを大腸(大腸は特定危険部位ではない)が含まれている可能性があります。」と赤字なんかで目立つように表示して、販売させればいい。自店での加工品販売の場合も。

東北の農蓄海産物も、「安全基準以下です」とざっくり広報するのではなくて、「抽出検査した結果○○ベクレルが検出されました。これは安全基準である○○ベクレル以下です。」とか、「検査対象ではないので検査していません」と表示する。それで売れなかったり販売価格が下がったことによる損失は東電に賠償請求するのが本筋です。


どうでしょう?



食中毒関連ニュース(抄)

2011年05月03日 18:19 北日本新聞
 フーズ・フォーラス(金沢市、勘坂康弘社長)が運営する焼き肉チェーン店「焼肉酒家えびす」の集団食中毒で、(富山)県は3日、砺波店(砺波市となみ町)と高岡駅南店(高岡市大野)の患者が前日から3人増え計58人となり、重症は1人増の計22人になったと発表した。


2011年5月3日3時1分 朝日新聞
 横浜市でもユッケ食べた女性が食中毒 3県で患者57人
 富山、福井両県の焼き肉チェーン店で生肉のユッケなどを食べた男児2人が死亡した食中毒で、横浜市内の同じチェーン店でユッケを食べた20代女性が、重症の食中毒症状を起こし、入院していることが2日、厚生労働省などへの取材で分かった。患者は3県で57人に達し、うち腸管出血性大腸菌のO(オー)111などが引き起こす溶血性尿毒素症症候群(HUS)やその疑いがある重症者も23人に上る。


2011年5月4日11時58分 読売新聞
焼き肉チェーン「焼肉酒家えびす」福井渕店(福井市)で4月17日にユッケを食べた福井市内の男児(6)が腸管出血性大腸菌「Oオー111」に感染して死亡し、10歳代の女性1人が重症に陥った問題で、同店で24日に食事した県内の女児(2)が食中毒のような症状を訴えていることがわかった。
3日も同店で食事をした客らから相談が寄せられた。


2011年5月4日14時49分 朝日新聞
 焼き肉店食中毒で富山の40代女性死亡 死者は3人に
 男児2人が死亡した焼き肉チェーン「焼肉酒家えびす」の集団食中毒で、富山県は4日、同県砺波(となみ)市にある砺波店を4月23日に利用してユッケなどを食べた40歳代の女性が4日午前、死亡したと発表した。


2011年5月3日09時22分 読売新聞
 厚労省が定める生食用の食肉に関する基準では、決められた場所と手順に従って牛などを解体するほか、販売時には「生食用」と明記する必要がある。
 しかし、同省監視安全課によると、生食用の食肉処理施設は全国に12か所あるが、出荷されているのはいずれも馬肉で、「2008、09年度は生食用の牛肉の出荷がなかったことが確認されている」とする。同省は、市場に流通している牛肉については、保健所などを通じて、加熱処理した上で客に提供するよう呼びかけているという。
 ところが、全国焼肉協会(東京都)や県内の複数の焼き肉店は、加熱用の牛肉をユッケなど生肉のままで提供することは「業界の慣習だった」と証言する。同協会は「生食の危険性は認識しており、協会としては提供しないよう呼びかけていた。しかし、焼き肉店としては客のニーズがあるのでやめられない」と、業界全体で問題を把握しながら目をつぶってきたことを明かす。


2011年05/04 11:52 テレビ朝日
生食用の食肉について、厚生労働省は1998年、食肉の処理施設に消毒に必要な設備を設けることなどの基準を定めています。厚労省が調査を始めた2008年度と2009年度について、この基準を通った生食用の牛肉は一切、出荷されていなかったということです。



生食用食肉等の安全性確保について : 厚生省生活衛生局乳肉衛生課
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1009/h0911-1.html


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