薄刃包丁本刃付け

未使用の薄刃包丁、本刃付け。
薄刃包丁は、単にベタっと研げばいいだけのように見えるかもしれないが、ある意味ではいちばん研ぐのが難しい包丁。

源泉正 七寸 西型

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軽く砥石に当てて、状態を見る。

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平らな砥石にベタっと当ててみたところ、先の方は砥石に当たらない。
わずかに下がっているらしい。
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刃元ぎりぎりの部分も当たらない。
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全体に小刃がつけてあり、刃先まで砥石が当たっている部分でも、カエリが出る気配は無い。
ベタ研ぎでカエリが出るまで追い込んで行くことにする。


刃線全体が、だいたい砥石に当たる状態まで研いだ。
先端は、シノギ付近がベタに当たらない。
峰側で厚みを見ると、先の方が少し薄くなっている。それなのに、平も切刃も平行且つ同じ幅ということは、まっ平らではないということ。その、微調整した部分が、研ぐと見えてくる。
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カエリが出るまで、更に全体を研ぎ込んでいく。

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ここで、クリティカルな問題が発生。

先の方、拡大。
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更に拡大。
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裏。
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裏の拡大。
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「薄さの限界」を超えてしまっていた。
薄すぎて、ちょっと張りのあるアルミホイルみたいな状態になってしまっている。
とうぜん、こんな状態では、包丁として使い物にならない。

先端部はベタ研ぎを中止して、刃角度を少し大きくしつつ、ペラペラ部分を削ってゆく。
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完成形。
けっこう、切っ先が丸まってしまった。

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先端だけではなく、刃線全体に、わずかに糸刃を付けた。
切っ先付近は、これだけ押した状態でも、かなり薄く、雑に扱うと欠けやすいと思われる。

今後の研ぎ方の注意。

切刃全体を漫然と押して研ぐと柔らかい地金の方が多めに削れていって、
http://hamonotogiya.blog75.fc2.com/blog-entry-352.html
この蛸引きのように、切刃が広がってしまい、今よりさらに刃角度が浅くなってしまう危険がある。

そこで、意識の持ち方としては、刃境線より先の刃鉄部分を砥石に当てて研ぐ、と考える。
また、包丁の裏に指を当てて研ぐ場合でも、刃線際に近い部分を押すようにする。
ただし、指が砥石に当たってしまうと、皮が削れて出血してしまう。この傷はなかなか治らない。だから、砥石には絶対に指が当たらないよう、注意すること。

先端付近のウスウスな部分は、すこし包丁を起こして、大き目の角度で研ぐ。

以上のような塩梅で、頑張ってみてください。

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割り込み包丁は鉛筆だ!

ぱっと見どうということもない包丁2本。

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一本は研ぎかけ。『写真を撮っとかないと』とおもって、中断した。

刃線際をよく観察すると、

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ハガネが出てない!!


こっちも・・・

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キレてます!!

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包丁というより、鉄板に近い。


割り込み包丁は、鉛筆とおなじような構造だ。

これが本来あるべき状態。

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ふつう、これぐらい先が摩耗したら、研ぎ直す。
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ところがこの包丁は、こんな状態。
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刃先をちょっと研いだだけではオハナシにならないので、側面をゴリゴリ研ぎ卸さなければならない。

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何度も研いで刃先が分厚くなってきたときに、たまに研ぎ卸しする、のではなく、
研ぐときはいつも、
側面もしっかり砥石に当てて、刃肉を削ぐことを心掛けるべきだと思う。

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川越町勘

去年の大晦日。
スクーターで乗り付けたおじさんが、
「できるだけ早くやっといて!」
と、町勘のダマスカス三徳包丁を置いていった。

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町勘は、川越の蔵造りの通りにある、刃物店だ。
店を覗くといつも、店員が、研ぎ台に向かって包丁を研いでいる。
築地の刃物店の多くも、いつも、店員が、包丁を研いでいる。
木屋の日本橋の本店も、いつも、店員が、包丁を研いでいる。
包丁を研いでいる刃物店は、だいたい、いい。

ダマスカスだが、小刃付けだけの”逃げ研ぎ”ではなく、ヒラの中ほどからしっかり砥石を当てて刃肉を落としてある。

こういう研ぎを見ると、うれしくなる。

2時間ほどして、おじさんが取りに来た。
スクーターの後ろに、持ち主のおばさんが乗っていた。
研ぎあがりをひと目見て、喜んでくれた。

「いつも町勘まで持って行ってるんだけど、遠いでしょ。」

ちゃんと研いでますね。こういう包丁は、急いでは研げませんよ、と言うと、

「へんな研屋さんに出したら、叱られるのよ。」

といって、笑った。

良い仕事納めだった。

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すぐ切れなくなる?

「他の研ぎ屋さんに研いでもらったら、はじめは切れるんだけど、すぐ切れなくなった。」

と、お客さんから言われることが、何度か続いた。
これが、以前から不思議だった。

私は、じつは「刃持ち」ということはあまり意識せず、切れ味優先で研いでいる。
刃角度は、少なくともほとんどの新品の包丁よりはかなり浅い。
糸刃はつけるが、仕上砥石で研ぐときに気持ち刃角度を大きめにするぐらいなので、目視ではわからない程度のごくごく小さなものだ。
だから、うちで研いだのは切れ味はいいが刃持ちが悪い、ということなら、さもありなんと合点できる。

よその研ぎ屋さんで研いでもらったというものを見るに、もっと浅い角度で研いでいるとも考えられない。むしろ、けっこう刃角度が大きいものばかりだ。

であるなら、よそで研いだものははじめから切れ味が悪い、というなら、まだ理解ができるのである。

しかし、

「はじめは切れるがすぐ切れなくなる」

というのである。

理由を考えてみたのだが、けっきょく、刃肉を落とさず刃先だけチョンチョンと尖らせているから、刃先が少しなまると元のように切れ味が悪くなる。
いっぽう、刃肉をちゃんと落として薄くしてやれば、多少刃先がなまっても、ある程度の切れ味は続く、ということなのではないだろうか。
当たっているかどうかは調べようがないが、刃角度が大きいと切れ味は悪いかわりに刃持ちがいい、刃角度が浅いと切れ味は良いが刃持ちは悪い、と、定型的に考えているだけではいけないようだ。

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摺り上げ!

八寸かな?九寸かな?
お客さんが、中子が根元からポッキリ折れた牛刀を持って来た。

「これは溶接しないとダメですねー。お金かかりますよ。」

といったら、

「もともと長くて使いにくかったのよ。ここを、こう、切って、短くして、中の鉄を作ることはできないのかしら?」

と、お客さんから提案してきた。
私は貧乏性なので、刃をぶった切って摺り上げる修理は、もったいない気がして、こちらからお勧めすることはあまりない。
しかし、元がこれだけ長ければ、ちょうどいい塩梅になりそうだ。

六寸ぐらいで線をひいて、

「こんな感じで、いいですか?これで、和包丁の柄をつける、でよければ、グっとお安くなります。」

「そうね、それでお願いします。」


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ちょうどいい感じになった。

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しっかり柄埋めもしておいたので、もう折れたりはしないと思う。
末永くかわいがってあげてほしい。

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変わった包丁

料理の写真を撮影したりするのに、会社で使っている、という包丁が、数本持ち込まれた。

お客さんにテーブルの上に並べてもらって、牛刀が2本、三徳が2本、菜切が1本、出刃1本、と数えていって、

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お客さんが立ち去ったあとで、この菜切包丁をヒョイともちあげてみたら、



















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薄刃だった(笑)

洋包丁の柄の薄刃包丁は、初めて見た。
もちろんステンレス。
http://www.sakai-tohji.co.jp/products/detail.php?product_id=65

刃先だけ段刃に研がれていた。

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藤次郎や関の孫六で、洋柄・ステンレスで片刃の柳刃や出刃がある。薄刃は見たことがないが。

そういうのは、だいたい裏スキがすごく浅いのだが、さすが堺刀司、裏スキが深い。研ぎやすくて好感。


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”刃先だけ段刃研ぎ”は、出張の研ぎ屋さんがやっていったそうだ。

薄刃に段刃はいかがなものかとも思うのだが、この包丁は合わせではなく全鋼丸焼きなので、ベタ研ぎで刃角度が浅すぎると刃持ちが悪そうだ。
実は私も、自分の家で使っている薄刃はベタではなく蛤気味に研いでいる。

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この包丁も、桂剥きなんかしない、ということだったので、蛤気味に仕上げた。

使い勝手はどうなんだろう。

菜切包丁ご臨終

おばあちゃんがずううっと使っている、という、菜切包丁。

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刃元だけがナゾに汚れておらず、黒い汚れが裏スキのように見える。
薄刃包丁か??

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柄は水牛桂で立派なもの。

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しかし峰側から確認すると菜切包丁であることはあきらか。

一見ボロボロだが、この包丁、ヤヴァい錆びは少ない。
とくに柄の差し込んでいるあたりがひどく腐食するのが、ハガネ和包丁の常なのであるが、そこはきれいなのだ。
そのうえで、ここまで使い込んでいるということは、和包丁の扱いに習熟した手練れのおばあちゃんが、本当に大事に使いながらここまできた物だろうか。

刃元はこんなかんじ。

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決してきれいではない。
しかし、こんな包丁捨てればいいのに。と思った方は、浅はかである。
ケチだから買い替えないのではなく、これがいいから使い続けているはずなのだ。一緒に出された包丁は立派なものだったし。
ただ、私にも、どこをどう気に入っていたのかはぜんぜんわからない。
しかし持ち主にとって、この包丁がいい、という価値は、他の何者の批判にも嘲笑にも微塵も揺るがないものなのである。

使われずに放置されていてきれいな包丁より、こういう包丁のほうが、やりがいがある。
研ぎ減らし過ぎず、キレキレにしすぎもせず、果たしてどれぐらいいい感じに戻せるか。
おばあちゃんは、喜んでくれるかな。

かなり研ぎ減っているが、刃肉は落とされていないようだった。
手打ち両刃の菜切包丁や三徳包丁は、とくに、中子周辺に厚みがあるので、刃元の刃肉から薄く削いでいった。

すると、研いでいるうちに、包丁が曲がっていることに気付いた。

両刃の菜切包丁で、見た目でわかるほど曲がっているものはあまりない。
両刃の包丁は、多少であれば曲がっていても、研ぎ加減で刃線だけまっすぐにできる場合があるのだが、そういう域を超えて、けっこう曲がっていたのである。

台に置いて、曲がっているあたりに掌底を押し当てて、ぐっと力を入れてみる。

すると、なんと、曲がったのだ。

曲がりっぱなしになったのである。

曲がりを修正しようとしたら、反対側に曲がって、そのまま曲がりっぱなしになったのである。

刃物用の鋼材というのは、100均で売られているような包丁でも、ある程度の硬さはある。
そして鉄ベースならハガネでもステンレスでも、粘り、バネ性がある。
だから、ふつう、そうとう柔らかくて曲がりやすいものでも、10だけ押したら8戻る、というように反発するはずなのだ。
ところがぐにゃっと曲がったままになってしまったのである。「あっ!」と声がもれてしまった。
イケナイものに触れてしまったような感覚。
おそるおそる、もういちど反対側に曲げてみると、やはりぐにゃっと曲がったままになる。

こんなの、はじめて。

火で炙ったりでもしたのだろうか?
刃が赤くなるほど加熱すると、刃物は柔らかくなってしまう。
「焼きが戻る」という現象だ。
ずいぶん汚れていたから、もしかすると、そういう手荒な使い方をされたのだろうか。

ともあれ、いちおう仕上げる必要はあるので、力加減に注意しながら研ぎすすめていった。

すると、原因がわかった!
これだーー!!!!

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わかるかな?
ハガネが、なくなっていたのだ!!(笑)

たぶん、鍛冶屋さんが昔からの技術で作った、いわゆる本割り込みの菜切包丁だとおもう。
軟鉄の塊に、タガネで半分ほど溝をつくり、そこに硬くなるハガネを割り込んで、ハンマーで叩いてくっつけたのが、昔からの「割り込み包丁」なのである。

いま売られているほとんどの割り込み包丁は、「利器材」というものを使って作られている。
鋼材メーカーが、あらかじめ、でっかいローラーで材料鋼を、「軟鉄|刃鉄|軟鉄」というふうに、三層に貼り合わせた状態で、包丁の製造メーカーに収めているのだ。
この利器材なら、刃先から峰まで、金属部分全体に刃鉄が入っているから、身幅が1センチになっても使える。

利器材を、そのまま打ち抜いて製品化したのが、非鍛造の割り込み包丁。
しかし鋼材メーカーの段階では薄くするのに限界があるようで、打ち抜いただけで非鍛造の割り込み包丁は、厚みのあるものが多い。関の孫六(貝印)や、藤次郎の包丁に、多い。

利器材を、叩いて薄くのばした鍛造の割り込み包丁も多い。
鍛造か非鍛造かは、刃境線で見分けられる。まっすぐなのが非鍛造。鍛造はハンマーでガンガン叩くので刃境線が波打っている。
わざわざ鍛造しなくても製品化できるものを、鍛造すると、当然値段は高くなる。
鍛造することの一番のメリットは、薄いことだと思うが、粘り強くなるということもある。同じ鋼材で同じ硬さでも、粘り強さに違いがあり、粘り強い方が割れにくいのだ。

鍛造か非鍛造かということでは、包丁の性質にけっこう違いはあるようだと感じている。
しかし、鍛冶屋さんが手作業で割り込んで「鍛接(たんせつ)」した材料と、鋼材メーカーがローラーで「圧接」した材料に、機能的な違いがあるかは、わからない。
理論的には、特に違いが生じる要因は思い当たらず、鍛接したものと圧接したものを比較する機会もほとんどないから、わからない。
利器材自体に難点は無いと思う。ただ、わりと簡単に作れてしまうと思う。なにしろ私も利器材で自分で体験製造した包丁を愛用しているぐらいだ。

鍛接の本割り込み製品は、「そういうことができる修行をした鍛冶屋さんが作ったモノ」という信頼がもてると思う。

現在、このような手打ち割り込みの包丁は、とても少なくなっている。
それが、ここまで研ぎ減らされて使い続けられたものというのは、手にする機会がほとんど無い。5年ぐらい前に1本だけ手にしたことがある。
だから、はじめは、なぜ曲がったのか全く理解できなかったのだ。

ともかく、さすがにこの包丁は、ご臨終である。
よくここまで使い切ってあげてくれました。
老衰です。寿命です。天寿です。大往生です。
そう、おばあちゃんにお伝えください、と、包丁を預けにきてくれたお母さんに、言伝した。

こういう、寿命がくるまで包丁を使い倒すような生活のことを、LOHASというのだろうなとおもう。

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割り込み包丁の偏り研ぎ

たぶん炭素鋼をステンレスで挟んだ割り込み包丁。

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裏の、切っ先付近で、側面の軟鉄が刃線に出てしまっている。

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表はハガネががっつり。

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機械研ぎで、ヘタな人が裏だけ斜面に研いで、表はほとんど削っていない、というかんじ。

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研ぎ屋さんに出したらこうなったそうなのだが。
機械研ぎのままだと、軟鉄と刃鉄の刃境線がわからないのかもしれない。
刃先付近だけ、適当な角度で、研ぎやすい裏面を多く研いだ、みたいなかんじだろうか?

必要に応じて側面もちゃんと削って、刃肉を落としましょう。

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研ぎ目がガッツリ残ってるけど、気にしないで(^^;

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特に槌目仕様の包丁は刃肉がぽってりついてるのが多い。
刃先は小刃をつけていいんだけど、研ぐたびになるべく刃肉も落とすようにしたほうがいい。
刃肉を落として抜けをよくするなんて考えたこともないんじゃないか、と思える研ぎ屋さんの作品をよく見かけるが、500円とかで研ぐとそうなっちゃうのも仕方ないのかなあと思う。

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ナゾの包丁

20年以上前、バブル時代に、関西に住んでいたとき、大阪だか奈良の百貨店でやっていた物産展で買った。けっこう高かった。
とのこと。

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ずんぐりむっくりしたペティナイフかとおもいきや、

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片刃なのだ。
同じようなものがほしいのだが見つからない、という。

ずいぶん研いで小さくなった、とのこと。
しかし、中子の太さ、銘の字の大きさのバランスなどを考えると、少なくとも身幅はそれほど極端に減っていないと思える。
柄も交換したそうなので、もとがどんなふうだったのか、想像しづらいのだ。

2~3の研ぎ屋で、片刃は研げない、と言われたそうだ。
片刃が研げない研ぎ屋って・・・(^^;

両刃に改造しないか、と言われたこともあるそうだ。
合わせ包丁を両刃に改造って・・・(^^;;;

イカ裂きぐらいの大きさかな、とも思うが、ちょっと違う気がする。
しかし、研ぎ減ってこの形だとしたら、かなり上手に研がれてきたと見受けられる。
変な研ぎ屋に頼まなくてよかった。
東京では阿佐ヶ谷のしんかい刃物さんにも出したことがあるそうだ。
奈良にお住まいになっていたときには、ご近所に刀の研ぎ師がいて、研いでもらっていたのだという。
3か月で研ぎ直すか半年で研ぎ直すか聞かれて、それに応じて刃付けを考えてくれたそうだ。すばらしい。

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裏を当ててみたところ、思ったほどにきっちりしているわけでもなかった。
けっこうベタ裏。
とはいえ、ちゃんと裏押しはでている。

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「伝統工芸士 堺 政昭 作」だろうか?いまはもういらっしゃらないと思う。

どういう包丁か、何かご存知の方がいらっしゃったら、教えてください。

切れ味確認

町中で刃物研ぎをしていると、いろんな人がやってくる。

子供とおじさんは興味深そうに見物していく。
若い男は、あまり近寄って話しかけてこない。お客さんとしても少ないので、生活道具として刃物を使う機会が少ないためではないだろうか。子供以外の女性は、お客さんであっても、研いでいるところにはあまり関心を示さない。しかし、年齢に関係なく、よくしゃべる人が多い。

刃物研ぎについていろいろ突っ込んで話しかけてくるのは、断然おじさんが多い。

「切れ味はどうやって確認してるんですか?」

「えっと・・・」

言葉につまってしまった。
そういえば、さいきん、研いだあと切れ味の確認をめったにしていないことに気付いた。
昔は爪に刃が立つかを確認していた。しばらくして、爪がガサガサになるので、ストローに変えた。
いまは、指の腹で刃先に触れているだけだ。

包丁はあまり確認はしない、と答えると、

「木を薄く削る大工さんは、顕微鏡で刃先を確認していましたよ」

ああ、なるほど。
削ろう会の映像でも見たのかな。

「1000分の1ミリレベルの精度だと指で触ってもわかりませんからね」

しかしそういうレベルの刃先の鋭さは、プラスチックのまな板でニンジン1本輪切りにすると、失われてしまうのだ。研ぎたてのひと切りめの、切れ味を、ものすごく良くするために、高価な砥石を使って、けっこうな時間を費やさなければいけない。

それに、ニンジンを切るときの抵抗は、刃先が触れる部分の結合力だけではない。
たしかに、刃先の厚みが小さいほど、刃先が接触する部分は小さな力で分断することができる。しかしそのあとに、包丁をニンジンの中に押し込んでゆくとき、刃体の側面に受ける抵抗がある。大きくはこのふたつの抵抗を合わせた総合的な抵抗力の大きさが、刃物を持っている手に感じられる「切れ味」の正体なのだ。

仮に、刃先が対象を分断する切断抵抗が、1g/cm2、そして側面抵抗もおなじく、1g/cm2、としてみよう。
刃先を鋭く(=薄く)研ぐと、切断抵抗は小さくなる。1g/cm2から半分の0.5g/cm2になると、側面抵抗と合わせた抵抗力の合計は、2g/cm2から1.5g/cm2、つまりもとの75%に減る。これぐらい抵抗が小さくなれば、切れ味がよくなったと感じられるだろう。
しかし、刃先をさらにどんどん薄くしていって、0.1g/cm2から半分の0.05g/㎝2になっても、側面抵抗は変わらないので、抵抗力の合計は95.5%ぐらいにしか減らない。これではたいして切れ味が良くなった感じられない。たぶん、もともとよく切れていたので、研いだ効果がわからない、といったことになるのだろう。

刃先が薄くなるほど、さらに一層薄くしても、体感的に違いは感じにくくなる。
ところが、薄くするための労力は、実は、薄くなればなるほど大変になってゆくのである。

刃先の切断抵抗と側面抵抗との適正なバランスは、何をどう切るのかということによっても変わる。
カンナで木を削る場合、削り華は紙のようにごく薄く、刃体側面を圧迫することがないので、側面抵抗はほとんど考える必要がないのである。だからカンナのような道具であれば、刃先を極限まで薄く研ぐことにだけ注力すれば、結果が出る。
しかし、木材の表面を平滑に仕上げるというカンナの本来の目的であれあば、これぐらいきれいに仕上がれば十分という合格点があるはずなのだが、削ろう会のように、競技としてより薄い削り華を出すことを目的とした場合、どこまで突き詰めても終わりがない。
このような競技も、実用を逸脱し、バランスという観点のないものになってしまう。

求められるバランスの要求点は、誰が、どんな刃物で、何を、どのように切るのか、といった、条件と目的によって変わるのである。
条件と目的があいまいであるほど、要求点は、点というより大きな円のようになり、許容誤差が大きくなる。
条件と目的が厳密に定位するほど、要求点は小さく絞られる。
観念的になり、目的や条件が現実から逸脱すると、要求点は無限遠に消えてしまう。

包丁についていうと、たぶん私は、刃先については十分すぎるぐらいの薄さまで研ぎ出していると思う。100倍以上の顕微鏡で見るとガタガタしているかもしれないが、一般的な包丁の用途で不満が出るようなことは、まずないはずだ。
側面抵抗の大きさは、実際にものを切ってみなければわからない。これについては、ニンジンやダイコンを用意して刃線全体の切れ味を確認する手間ひまが、現状の研ぎ代ではかけられない。いまのところ、研いだ包丁の切れ味が悪いというクレームがないので、研ぎ代を上げて厳しく検品することは考えていない。ということだ。


「包丁は顕微鏡なんかで見ても意味ないです。とくに切れ味の確認ということはしてませんけど、だいじょうぶです。切れますよ。」

長々とした説明がとっさにまとまらず、そう答えるだけになってしまった。

おじさんは、すこし釈然としない顔をしていた。

テーマ : 包丁研ぎ
ジャンル : 趣味・実用

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